第24話

厳かな声が朗々と聖堂に響き渡っていた。

その声は一人の青年から紡がれていたが、聖堂の壁に反響して、聴く者の心に染み渡る不思議な声だった。

聖堂には天井のほど近い位置に何体もの神像が置かれており、静かに聴衆を見下ろしている。一様に髪の長い女神の像だ。ある像は松明のような光を掲げ、ある像は書物を読み上げている。


全てはヴェルティを模しているのだろう。像にするとなぜあんなにも落ち着いてみえるのか。動かないからだろうか。


複雑な気分で見下ろされながら、もう一人の意外な人物に目を戻す。


教皇も、また祭壇で聖句を唱える姿は威厳に満ちている。

先程まで赤子にデロデロに溶けきっていた笑顔はどこにも見られない。むしろあちらが幻だったのではと疑いたくなるほどだ。

なるほど、信仰を集めるのも納得の佇まいだった。


彼の前には聖女の腕に抱かれた赤子が健やかに眠っている。

なんとも絵になる光景に、どこからかため息が洩れた。


サイジャ王国は生れた赤子に洗礼式をし、神官から名を授かる。

教皇や大主教から直々に与えられるのは王公貴人の中でも特に上位の一握りだけだ。身内と割り引いても破格の待遇だ。

外国人であるカデフェイルはなんとも居心地が悪い。場違い感が甚だしい。


そもそも総主教の教会とは仲が悪かったので尚更に違和感がある。

だが、これが与えられた罰なのだ。


子供を産んだ聖女は役職を剥奪されたらしい。デイトリンは教会からの追放という形になっている。今は教皇の妹として神殿内に住んでいるが、落ち着いたらカデフェイルの家に押し掛けてくるそうだ。


つまり嫁と子供がまた増える。

それを受け入れること、それから教皇と大主教の要請があれば直ちに駆けつけること。この二つがカデフェイルに与えられた罰だった。

命はとられなかったが、これがなかなか頭の痛い話だ。


カデフェイルが住んでいる家は小さいのだ。これ以上人間が増えても場所がない。そもそもが一人で暮らすために買った家だ。想定外の人数に対応しきれない。

そしてこの結果をサリィミアになんと説明すればいいのか。

一緒に住む嫁と子供が増えるよと話してすんなり受け入れてくれるものなのか。意外に公女殿下は嫉妬深い。

一緒に買い物に出て、店の女の子と話しているだけで不機嫌になる。そんな嫁を宥めるのも楽しいものだが、これは程度が大きい。どれ程の怒りになるのか、見当もつかない。


朗々と響き渡る声を聞き流しながら、カデフェイルは内心で頭を抱えて呻くのだった。



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