第10話
「よくもそのような嘘を…」
「嘘じゃない。邪神に呪いをかけられたんだ。聖職者ならわかるだろう?」
「いや、聖職者にそんな特別な力があるわけないだろう。何を夢物語のようなことを真面目に語っているんだ? そもそも邪神などと下らない…さすが物書きは言うことが低俗だな」
青年から絶対零度の眼差しを向けられてカデフェイルの心はポッキリと折れた。
聖職者なら聖職者らしく夢見せてくれてもいいじゃないか。物語の中では、華麗に呪いを解いたり邪神を祓ったりしているくせにっ…
「猊下…そこまで赤裸々に我々の事情を話さなくてもよいのでは? とにかく、話を戻しましょう。聖女様には赤子がいることは確かなのですからね」
「それは俺とは全く関係な――い…?」
ふと、この状況に既視感を覚えた。
同じような会話をどこかでした。
つい最近、だ。
それも邪神と、だ。
「まさかあの駄女神の仕業か?」
「ほらみろ、やはり心当たりがあるんじゃないか。さあ、百叩きか、首吊りか、逆さま火炙りかどれが好みだ?」
「どれも好まない! 聖職者がそんな物騒でいいのか?」
「聖職者だって人間だ、家族が犯罪者に汚されれば報復するさ」
「いや、そこまでおおっぴらに語るなよ。おい、あんたたちのトップがこんなのでいいのか?」
猊下と呼ばれているからには、総主教で一番偉い教皇猊下に違いない。
大主教に、聖女に、教皇とはなんとも豪華な顔ぶれだが、できれば縁遠いままでいたかった。包み隠さない感情や内情はもっとひっそりと隠しておいてほしい。ついでに立場も。
「とにかく、落ち着いてきいてくれ。これは俺に呪いをかけた邪神のせいだ。なぜ聖女にまで影響したのかはわからないが、関係があるに違いない。調べてくるから、俺に時間をくれないか」
「そんなことを言って逃げるつもりだろう」
「では人質にコイツをおいていく。好きにこきつかってくれ」
「え、なんで僕?! 編集に何か恨みでもあるのっ」
アイタルトの肩を叩けば、頓狂な声が隣からあがった。
「もちろん積年の恨みはあるが、だからといって置いていく訳じゃない。必ず戻ってくるが時間が必要なんだ」
「恨みがあるって言われて素直に戻ってくるのを信じられるわけないだろう?!」
「カーデ様! 私は信じます。きっと真実を見つけてきてください。この子が私たちの確かな子だということを」
腹に手を当ててすかさず聖女が叫んだ。
彼女の腹の子が自分であることの証を見つけてきたら、確実に聖職者二人に殺されるだろう。
それに邪神が関わっているのなら、確かに自分の子になってしまう。いやいや、違うのだということをなんとしてでも証明するのだ。
とにかく今は真相をつきとめるのが先だ。その後でどうするか考えればいい。
「きちんと調べて自分の罪がわかれば戻ってくるな?」
そんなことを言われて戻ってくる者などいるのだろうか。だが、カデフェイルは神妙に頷いてみせた。
「わかった、期限は一週間だ。それまでに真相を突き止めてこい」
「わかった」
とにかくあの邪神に会わないことには始まらない。そして彼女に会うためには新作のエロ本を書き上げなければならない。
残念ながらこの前新作を書き上げてしまったので、すぐに新作が思い付かないのだが、そこはなんとか頑張るしかない。
「アイタルト、すぐ戻ってくるからな。待っていてくれ!」
「この恨み必ずや張らしてやるからな。覚えておけよ…」
アイタルトは半泣きになりながらにらみつけてきたが、泣きたいのはカデフェイルのほうだ。
無駄に自分の情事をさらけ出したのに、無意味だったのだから。
カミングアウトなんてしなくてもよかったじゃないか……っ!!
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