第8話
「君がこれらの作者か…」
重々しく口を開いたのは小柄な老人だった。むしろ生きているのが不思議なほどにヨボヨボだ。
自己紹介はお互いに済ませているので、彼が大主教であるとは知っている。だが、とっ捕まえて逃げることは容易いのではないかと思えるくらいに弱そうだ。
教会本部の一角にある部屋で、大主教と向かい合わせで座らせられている。彼の隣には青年が一人にこやかに座っている。だがその笑顔はどこか不穏だ。
大主教と同じく神官服だが、護衛だろうか。それにしてはあまり強くなさそうではある。彼の紹介はなかったので、何者かまではわからない。護衛にしてはやや偉そうではあるが。
大主教よりも偉い立場となると限られてくるので、あまり考えたくはない。
カデフェイルの隣にはカチコチに固まったアイタルトが座っているので、逃げ出すにはなかなか難しい状況ではある。
目の前のテーブルにはカデフェイルがこれまで書いた本が、荒縄で厳重にくくりつけられて置かれている。
今にも燃やされそうな勢いだ。普通に読んでいるだけでは妊娠しないのだが、男でも妊娠できそうだと思われていそうだ。
約一名、読んだだけで妊娠させた愚か者がいたが、今は目を瞑る。
「なんとも困ったものだな…」
「あの…これらの出版を取り止めて欲しいというお話でしょうか…? こちらも生活がかかっているので出版禁止は困るのですが…」
取り敢えず話が始まらないので、カデフェイルが口を開けば、大主教はううむと唸り声で答えた。
やはり、なんのために呼ばれたのかはわからない。
大主教が言い淀んでいるとふいに廊下が騒がしくなった。
言い争う声が聞こえたと同時に、ばたんと扉が激しく開いた。
「お爺様、お兄様っ、カーデ様がいらっしゃっているって本当なの?!」
小さな少女が飛び込んできた。
純白の衣服を纏った成人前の子供のように見える。桃色の髪に、水色の瞳がキラキラと輝いている。
カーデ…様?!
カデフェイルのペンネームに様付けされると、なんとも居心地が悪い。
「あー…デイトリン…ここは職場だから、きちんと立場を弁えて」
「お爺様こそ私の名前を呼んでるじゃない。勝手に私の本を持ち出したと思ったけれど、まさかカーデ様を呼んでいただけるなんて。怒りで憤死しそうだったけれど、一周回って物凄く感謝しますわ。讚美歌を捧げてもいいくらいよ! それで、どちらの方がカーデ様でいらっしゃいますか?」
勢いこんで捲し立てた少女は、テーブルまで来るとカデフェイルとアイタルトを覗きこんできた。
「ちょっと待て、デイトリン…お前、これらの本の作者であるカーデとやらの子供ができたと言わなかったか。なぜ顔を知らないんだ?」
今まで黙っていた青年が呆れたように口を開いたが、カデフェイルはそれどころではなかった。
続く彼の言葉の意味が全く理解できなかったからだ。
「ちょっと待て、子供が何だって…?」
「だから、聖女が身籠ったのだ。未成年に手を出しただけでも犯罪だというのに…相手はお前だ、カーデ=タナトス」
「は?」
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