第7話
「どうして君まで驚くの?!」
アイタルトが驚きのあまり立ち上がった自分をぽかんと見つめている。
だが、今はそれどころではない。
妻とはどういうことだ?
「公じょ…ミア、どういうつもりです?」
「だって、私、もう帰る場所もありません。貴方の子供も産んでしまったし、こうして覚悟も決まったわ。もちろん優しい貴方が放り出すなんてことしないでしょう?」
いつの間にか片隅に置かれていた藤で編んだ籠から赤子を抱き上げると、サリィミアはにこやかにほほ笑む。
帰る場所もないとは、確かに邪神も公女が殺されると話していた。助けるためにこちらに呼んでほしいと願ったのは自分だ。
だが、こんなにあっさりと決めてしまっていいものだろうか。
「お客様のようだし、私たちは上に居ますね。ごゆっくりどうぞ」
そのままさっさと階段を上っていく。
毅然とした態度はとりつくしまもない。
ひとまず、アイタルトを追い返してからもう一度話し合う必要があるようだ。
「ほえー綺麗な人だな。いつの間に…子供まで作ってるだなんて、君ってなかなか手が速かったんだね」
「まったく身に覚えがないんだが、仕方ないだろ」
「なにそれ、手を出しまくってわからないってこと? てっきり女の人が苦手だと思ってたけど、違うんだな。大事にしてあげなよ、優しそうないい奥さんじゃないか」
詳細に説明したところで、目の前の男は理解してくれないに違いない。
頭をがしがしとかくと、カデフェイルは椅子に座り直した。
「それより、何の用だ。原稿はかき上げただろうが」
「ああ、いや、それはいいだ。作業は順調で来月には出版できそうだからね。そうじゃなくて、とうとう教会のやつらが騒ぎ出したんだよ」
「なんだ、それなら前からヤバいって言ってたじゃないか。今更、騒ぐことでもないだろ」
アイタルトが言っている教会は創世神を祀っている総主教だ。一夫一妻を尊び、清貧さを第一とする。欲を禁じ戒律を重んじる。
カデフェイルが書いているような内容は悪の書物として焚書扱いにされている。
娯楽と称して細々と活動はしてきたが、向こうも抗議文などを寄こしてくるなど小さく対抗してくる。
「それがなぜか君を名指ししてきたんだ。明日、教会本部に呼び出しを受けた」
「なんで俺だけ? 他にも目をつけられている奴等はたくさんいるだろうが…」
「大主教様が直々に召喚状を送りつけてきたんだ、何やらかしたんだよ」
「心当たりなんぞ、あるわけないだろ」
「とにかく、明日は一緒に来てもらうからな」
アイタルトはひとまず、びしりと指を突きつけて宣言したのだった。
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