第5話

「え、じゃあ私が産んだのは貴方の子供なの?」

「なんてことだ……勘弁してくれ…」


邪神はどこまでいっても邪神ということだろうか。

まさか南の公国の姫を代理母代りにするなど、正気とは思えない。


「俺が公女殿下の代わりにこの駄女神を退治いたします!」

「ええー、なんでそうなるのよ。知り合いなら良かったじゃない。親子三人で楽しく暮らせばいいでしょ」


口を尖らせた神は、そのままサリィミアを飛ばした。


「お前、公女殿下を何処にやった?!」

「心配なら追いかければ良いじゃない」


蔦に絡まったまま女はひらひらと手を振って見せた。


そして景色が一変する。


見慣れた仕事部屋に戻ったカデフェイルは、目の前でキョロキョロと見回していたサリィミアの前に膝まづいた。


「この度は邪神が犯したこととはいえ、殿下に多大なるご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません!」

「え…えと、事情は粗方聞いたのだけれど、貴方の口からも説明してもらえるかしら…?」

「はい、わかりました。ですが、ここでは殿下も落ち着かないでしょうし、下へご案内させていただきます」


仕事が軌道に乗ってから一軒家を買ったのだ。四部屋くらいしかない小さな家だが、独り暮らしには十分な広さではある。

ただ人が増えればやはり手狭だ。


部屋をでて一階におりてすぐの食事用のテーブルに彼女を座らせると、カデフェイルも向かいに腰を落ち着ける。


「あの邪神からどう説明を受けたかは存じませんが、とにかくあの神は人から子種を奪って女を孕ますことができるのです!」


実際はエロ本に興奮して、勝手に人をオカズに子種まで盗んで妄想に耽っていたようだが、清廉な公女に赤裸々に語るわけにもいかない。

そもそも変態の愚行を対極に位置する方に説明しなければならないジレンマといったら…っ


あの邪神はいつか必ず滅ぼしてやるとカデフェイルは心に誓う。


「あら、そんな話だったかしら…? もうちょっとこう…破廉恥な感じだったような??」

「邪神に惑わされてはいけません、殿下!」

「そう…貴方がそう言うのならきっとそれが正しいのね。そういえば、小説家をしていると聞いたわ。もう剣を振らないの?」

「はい。身分がないので、剣で生きていくのはとても難しくて…」

「そう…貴方の訓練している姿を見ているのが好きだったのだけれど…」

「は…訓練ですか?」

「あ、いえ、なんでもないわ。それで、女神に乞われるまま本を読んであげていたのでしょう?」


小説とか本とかぼかしているが、内容は伝わっているのだろうか。

カデフェイルははあ、と曖昧な返事を返すことしかできない。下手なことを口走って墓穴を掘ることは避けたい。


「カデフェイルは手紙の代筆もしていたものね。昔から文才があったのかしら」

「ご存知でしたか?」

「あの手紙が貴方からではないと知っていたのに、結局貴方が責任を取らされる形になって本当に申し訳なかったわ…私の力不足で…本当にごめんなさい」


静かに頭を下げたサリィミアに、カデフェイルは慌てた。


「いえ、殿下は陛下にも周囲にも掛け合ってくださったと聞いております。そもそもあの手紙はきっかけにしか過ぎないのです。私は近衛の中で嫌われていましたから」


平民上がりで剣の腕だけは立つ。

公女の覚えもめでたく、一番信頼されていた。だから、嵌められたのだ。


過去を思い出しながら、カデフェイルは自嘲するのだった。

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