第17話
「どうかしら、上手くできましたでしょう? 演出も完璧、なかなか神らしく素敵で威厳に満ち溢れていて、ね、ね?」
いつもの巨木の下で、誇らしげに胸を張る美女の額に、カデフェイルは無言で手刀を食らわせた。
「あうっ、痛いのですけど~っ」
「遅いんだよ、危うく殺されるところだっただろうが! しかもあんなわざとらしい演出があるか。あざとすぎて信じてもらえなかっだろう」
何か仕掛けがあるのではと、あの場にいた全員に疑われたのは、笑い話にもならない。聖職者が神の奇蹟を疑うなよ。
なんとも世知辛い世の中に、こっそり嘆きたくなった。
「えー、あざといってどういうことです? いつも祈ってくれている可愛い子供たちから疑われるとかどういうことです?!」
「あっはっはっ! オバサンが堅物過ぎてダメなんじゃないの? やっぱり神に必要なのは色気なのよ」
「うるさいですわよっ、貴女みたいに下劣になるつもりはありません!」
「途中から焦ったのが決定的に胡散臭かったんだよな…」
「胡散臭いってなんですの?!」
地面にガックリと膝をついて崩落ちた女神をアッサリ無視してカデフェイルはなんとか神殿から帰ってきた日のことを思い出す。
とにかく産まれるまでの猶予はもらったが、産まれてくる赤子は自分にそっくりな男の子だというからには聖職者二人が詰めかけてくるのも時間の問題だ。
だからといって何の策も思い浮かばない。
国を出ようかとまで話しているが、教会側が素直に国境を越えさせてくれるとも思えない。
「それより、続きができたんでしょ。馬車道の続き! 早く聞かせて」
邪神が木の幹に囚われながら騒ぎ立てる。
わりと生死が関わっているような状況なのだが、この神たちは呑気なものだ。元凶のくせに、と思わなくはないが何かあったらきっと転移させてくれると信じてこうしてせっせとご機嫌伺いをしているのだ。
前回3日で書き上げた乗り合い馬車の馭者が客たちを手玉にとって犯しまくるという話がこの邪神はいたく気に入ったらしい。題名は『腐った馭者の馬車道~乗った客はオレの嫁』だ。
こういう話はシリーズ化しやすいため、一度筋ができてしまえば簡単に書き上げられる。邪神が満足する出来ばえかは別だが。
ちなみに馬車道は創造神代理である女神にもいたく好まれた。
客としてやって来た未亡人が馭者の手で真実の愛に目覚めるところがお気に召したらしい。
いや違うよね、単に欲求不満だった二人がヤりまくるだけだよねとか思ったりはしない。
捉え方の違いだなと遠い目をしながら思っただけだ。
「その前に、聖女が孕んだ理由はわかったのか?」
途端に地面に座り込んでいた女神がびくりと肩を震わせた。
「えー、その話? 早く続きが聞きたいのに…わかったわよ。というか、原因はやっぱりアナタなんだけどね」
「違うんです、そんなつもりなかったんです。だってまさか、知られてるだなんて思わなかったんです!」
取り乱して弁解を始める女神を無視して、邪神を見つめればにやりと口角を上げて愉快そうに笑う女と目があった。地面でうちひしがれていた方は、慌てふためいていて要領を得ない。
「どういうことかさっさと説明しろ」
「というかアナタがその手にしている本を読み上げた方がアタシたちが説明するよりも早いと思うわよ?」
「は?」
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