服部半蔵との邂逅と乱波の雇用条件

 その後、参拝を終え、岩清水八幡宮の神職の者と別れて、境内を散策することにした。

 境内を散策していると、暗い雰囲気を漂わせた一人の武士が近付いてくる。

 家臣たちが、わしとその武士の間に立ち塞がると、武士は一礼をしてきた。


「鬼頭宗左衛門殿にござろうか?

某は、足利将軍家家臣の服部半蔵と申す」


 暗い雰囲気を漂わせた武士は、服部半蔵と名乗る。


「貴殿が服部半蔵殿か。先日、遣いを出したばかりなのに、随分と早い上に、御本人自らいらっしゃるとは」


 わしは、京の奉公衆たちから、足利将軍家に伊賀者が仕えていると言う情報を得ていた。

 近江国を通過する際に、平手五郎左衛門殿が乱波の話をしてくださり、わしが乱波を雇うにはどうすれば良いのか尋ねたところ、伝手を持つ者に頼むのが良いと言う。

 平手五郎左衛門殿は、乱波の伝手は無いらしい。

 そのため、奉公衆から足利将軍家に仕える伊賀者の服部半蔵殿の話を聞き、朽木谷へ家臣を派遣し、伊賀者の乱波を斡旋してもらおうと思ったのだ。

 まさか、本人自ら現れるとは思わなかったが。


「足利将軍家に仕えているとは言え、あまり御役目も与えられておりませぬ故。

 伊賀者の乱波を所望されているとのことでしたが、何故にござるか?」


 服部半蔵は、伊賀者を雇いたい理由を尋ねてくる。


「当家が足利将軍家より給わりし、相模国大住郡を伊勢新九郎に押領された。

 何れ、伊勢新九郎より大住郡を取り戻すため、東国の情報が欲しい。

 そのため、乱波を雇いたいのだ。ましてや、伊勢新九郎は風魔なる乱波を召し抱えていると聞く。」


 わしは、伊勢新九郎に押領された大住郡を、いつか取り戻したいと考えていた。

 そのためには、伊勢新九郎が支配する相模国や駿河今川家など東国の情報が欲しい。


「相模国大住郡を取り戻したいのですか。

 確かに、伊勢新九郎は風魔なる乱波を召し抱えており、情報を得るのは難しいでござろうな。

 鬼頭殿には申し訳ないが、伊勢新九郎から大住郡を取り戻すのは困難かと思われまするが。

 ましてや、途中には駿河今川家が立ちはだかっております。

 それでも、大住郡を取り戻すために、東国へ乱波を送って、情報を得たいのでござるか?」


「如何にも。大住郡を取り戻すことが困難なことは分かっておるつもりだ。

 当家が足利将軍家より一郡を給わったと言うことは、足利将軍家から一郡の郡主たる家格と認められたと言うこと。

 それを簡単に手放せようか。

 大住郡を取り戻すためにも、東国の情報が必要なのだ」


 服部半蔵は目を細めながら、わしの話を聞いている。


「成る程。しかし、東国の情報を得たとて、尾張国から相模国まで遠いのに、そこまで向かう術はござるのか?」


 服部半蔵は、尾張国から相模国まで攻めるための術を考えているのか問う。


「わしは尾張国の織田弾正様に仕えることになったが、それを好機と考えている。

 尾張国で最も豊かで力ある織田弾正忠様が東国に目を向け、東へ領地を切り崩していけば、何れは大住郡を取り戻すことが叶うやもしれぬ。

 織田弾正忠様には、それだけの才覚があるからな」


「成る程。今の主君を東国に攻めさせることで、大住郡を取り戻されるおつもりか。

 よろしかろう。貴殿に乱波を斡旋致そう。しかし、条件がござる」


 わしは、織田弾正様を東進させることで、大住郡を取り戻す機会を得るつもりだと述べる。

 服部半蔵は乱波を斡旋するつもりになってくれた様だが、条件がある様だ。


「鬼頭殿の大住郡を取り戻す算段には時間が 掛かると思われまする。

 故に、斡旋する乱波は一時的に雇うのでは無く、召し抱えていただきたい」


「よかろう。長期的に情報を得ようと思えば、召し抱えた方が信用出来るだろうからな」


 服部半蔵は、わしの大住郡を取り戻すと言う願いには、時間が掛かるので、乱波を一時的に雇うのでは無く、召し抱えろと言う。

 確かに、長期的に情報を得ようと思えば、一時的に雇う者より召し抱えた者の方が信用出来るだろうな。


「乱波を召し抱える条件として、役目への褒美とは別に、召し抱えた乱波に田畑を与えてもらえぬだろうか?」


 服部半蔵は、乱波を召し抱える条件として、乱波に田畑をくれと言う。

 織田弾正忠様から加増していただけるそうなので、田畑を与えるのは別に構わぬが。


「田畑を与えるのは構わぬが、何故だ?」


「尾張国は豊かな田畑が多いと聞く。

 伊賀国は貧しい故、召し抱えられた乱波が家族を養うための田畑が欲しいのだ」


 服部半蔵は、召し抱えた乱波が家族を養うための田畑が欲しいと言う。

 確かに、尾張国は豊かな土地が多いからな。

 当家は常に干拓や開墾を行っているので、田畑は増える一方なので、乱波に田畑を与えても問題無かろう。


「よかろう。召し抱えた乱波には田畑を与えるが、間もなく加増されるので、それまで少し待ってくれ」


 服部半蔵に田畑は加増されるまで待ってくれと言うと、承知してくれた。


 その後、服部半蔵と乱波を召し抱える条件などの細部を詰める。

 細部を詰めた後、尾張国や当家の様子を知りたいとのことなので、わしが尾張国に戻ってから、使者として乱波を送ることで合意した。

 その乱波が、服部半蔵と今後やり取りする上で連絡を担当するらしい。

 こうして、わしは服部半蔵を通じて乱波を召し抱える算段をつけることが叶ったのであった。

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鬼頭宗左衛門、推して参る! 持是院少納言 @heinrich1870

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