鬼頭宗左衛門、推して参る！

平手政秀の連歌会参加

　平手五郎左衛門殿から連歌会の招きに応じる旨の書状が届き、それを今川左馬助様に伝えると大いに喜んでおられた。

　今川左馬助様が駿河から伴ってきた家臣たちは、平手五郎左衛門殿を連歌会に招くことを訝しんでおったが、左馬助様が近隣の国人たちとも交流を深めるべきなので招いたと近臣たちに申すと、近臣たちも諦めた表情を浮かべる。

　今川左馬助様が連歌のこととなれば、駿河から伴ってきた家臣たちの話を聞かないのを分かっているのだ。

　今川左馬助様は、平手五郎左衛門殿が連歌会の招きに応じたことで、機嫌が良さそうにしておられていた。

　今川左馬助様が催した連歌会の日になり、平手五郎左衛門殿は招きに応じて、柳之丸(那古野城)へと参られた。

　平手五郎左衛門殿が初めて参加されると言うことで、五郎左衛門殿と付き合いのある今川那古野氏の家臣も招かれている。その中には、わしも含まれていた。

　平手五郎左衛門殿が加わった連歌会において、五郎左衛門殿も連歌の見事な才を披露する。

　今川左馬助様は、いつもは身内ばかりのため、平手五郎左衛門殿の連歌の才に驚きになられた様で、大いに感心なさっておられた。

　平手五郎左衛門殿が加わった連歌会は、終始和やかであり、今川左馬助様は五郎左衛門殿と交流を深められた様だ。

　連歌会が終わった際に、今川左馬助様は平手五郎左衛門殿をまた招きたいと仰せになり、五郎左衛門殿も是非ともと応えていた。

　それから、平手五郎左衛門殿は何度か今川左馬助様の連歌会に呼ばれることとなった。

　今川左馬助様は、平手五郎左衛門殿の連歌の才をお褒めになり、お気に召したのか、何度も呼んで交流を深めている。

　今川左馬助様は、今川那古野氏の家内ばかり招くのでは徐々に飽き足らなくなり、尾張国の近隣の国人や連歌の名手たちも連歌会に招く様になったのだ。

　そんな中で、平手五郎左衛門殿が今川左馬助様に一言申した。

「今川左馬助様の連歌は見事な物にございます。

　今、尾張国では今川左馬助様の連歌会に呼ばれることが、誉れとなっておりますぞ。

　今川左馬助様が度々、某を招いてくださるので、大いに自慢の種になっております。

　それを家中に話しましたところ、我が主の耳に入りまして、大層羨ましがられました。

　我が主も連歌好きなれば、家中で頻繁に連歌会を催すほどの御方にござります。

　家臣の某だけが今川左馬助様の連歌会に招かれることが悔しいのでございましょう」

　今川左馬助様は、平手五郎左衛門殿から、本当かどうか分からないが称賛されて、大層喜んでおられる。

　平手五郎左衛門殿の主君である織田弾正忠殿が、今川左馬助様の連歌会に呼ばれていることを羨ましがってると言われた時は、悦に入っていた。

「なるほど、わしの連歌会が尾張国でその様に評判であったとは知らなかったぞ。

　織田弾正忠殿も連歌を好まれ、平手殿を羨ましがっておるとはな。

　織田弾正忠殿の連歌の才は大層なものなのだろうな」

「えぇ、我が主も連歌好きを広言するだけありまして、なかなかのものにございます。

　今川左馬助様に比べれば、見劣りしてしまいますが」

　平手五郎左衛門殿のおべっかに、今川左馬助様は更に気分を良くされる。

「そうか、そうか。ならば、織田弾正忠殿もお招きせねばならぬな。

　織田弾正忠殿は尾張国でも有数の実力者なれば、お招きしない訳にはいくまい」

　今川左馬助様は、そう言うと平手五郎左衛門殿に、織田弾正忠殿を招く約束をしたのであった。

　その後、連歌会はお開きとなり、平手五郎左衛門殿が帰り際に一言申す。

「上手くいったな。後は、弾正忠様が上手く判断してくださろう。

　宗左衛門殿には、弾正忠様の手助けを頼むぞ。

　弾正忠様から新たな御役目を与えられるかもしれぬ」

　平手五郎左衛門殿は、そう言うと志賀城への帰っていったのであった。

　数日後、今川左馬助様は織田弾正忠殿に書状を送り、連歌会に招きたい旨を伝えた。

　織田弾正忠殿からの返事も是非とも招かれたいとのことであったので、今川左馬助様はすぐに連歌会を催す旨を家臣たちに伝え、織田弾正忠殿を含め、客人たちを招くのであった。