京の奉公衆回りと飛鳥井卿との会談

 平手五郎左衛門殿は、飛鳥井卿の屋敷に遣いを出し、訪問に都合の良い日取りを確認している。

 飛鳥井雅綱卿を訪問するまでは、京で自由にして良いと言うことだったので、京で所縁のある家や場所等を廻ったりすることにした。

 平手五郎左衛門殿には行き先を告げるとともに、気を付ける様にと注意を促される。


 わしは、所縁の有る奉公衆の京の屋敷へ家臣を遣いに出していたが、在京している奉公衆はそんなに多くなかった。

 そんな数少ない奉公衆たちの屋敷を回り、話をして情報を集める。

 京は都なだけあり、各地の情報が集まっている様で、様々な情報を得ることが出来た。

 その中には、わしが欲している情報も有り、奉公衆の屋敷を回った甲斐が有ったと言えるだろう。


 京の各地を回っていると、飛鳥井卿と約束した日取りとなる。

 平手五郎左衛門殿とともに、飛鳥井卿の屋敷を訪れると、屋敷の一室へと通された。

 暫くすると、立烏帽子に狩衣を纏った一人の公家と側仕えの者が現れる。

 側仕えの者が、公家の方が飛鳥井雅綱卿であると告げた。

 平手五郎左衛門殿が挨拶の言葉を述べ、自身と供の者を紹介する。

 そして、土産の品々を飛鳥井卿の側仕えの者にお渡しした。

 土産の品々を見た、飛鳥井卿が平手五郎左衛門殿に声を掛ける。


「わざわざ、尾張国より遠路遙々、よう参られた。

 都での生活は、中々入り用になる故、ありがたく頂戴致す。

 それで、尾張より、どの様な用件で参られたのか?」


 飛鳥井卿は土産の品々に感謝するとともに、どの様な用件でやってきたのか問う。


「我等が参りました用件につきましては、飛鳥井卿を尾張国に御招きしたく参じました。

 我が主は、尾張国で蹴鞠会を催したいと考え、蹴鞠の宗家であらせられる飛鳥井卿を御招きしたいと申しております。

 我が主の蹴鞠会に飛鳥井卿が来てくだされば、飛鳥井卿を慕う尾張国の蹴鞠好きたちも大いに喜びましょう」


 平手五郎左衛門殿は、織田弾正忠様が催す蹴鞠会に、飛鳥井卿を招待したい旨を伝える。


「尾張国で蹴鞠会を催す故、我を招きたい招きたいとな。

 しかし、我も多忙な身である故、尾張国まで行くのはのぅ。

 尾張国の蹴鞠を愛する者たちとともに蹴鞠をしたいとは思うのだが」


 飛鳥井卿は、蹴鞠会に参加したいとは言うものの、渋っていた。

 要は、謝礼次第と言うことであろう。


「飛鳥井卿が尾張国に下向してくだされば、相応のおもてなしと謝礼をさせていただきたく思っておりまする。

 また、飛鳥井卿に尾張国の者たちに蹴鞠を伝授していただき、弟子を増やしていただければ、尾張国の蹴鞠好きたちにとっては至上の喜びにございましょう」


 平手五郎左衛門殿は、尾張国に下向してくれれば、もてなすしと謝礼をしっかりすると述べる。

 また、尾張国で蹴鞠を伝授し、弟子を増やす様に促した。弟子を増やせば、飛鳥井卿の実入りが増えると言う意味であろう。


「そうか、そうか。尾張国の者たちは我に蹴鞠の伝授を望むか。

 ならば、尾張国に赴いて伝授せねばなるまいな」


 飛鳥井卿は尾張国に下向する旨味を理解し、織田弾正忠家の蹴鞠会の招きに乗り気になった様だ。


 その後、飛鳥井卿と平手五郎左衛門殿は、蹴鞠会の都合の良い日取りや謝礼についてなどを話し合い、尾張国に戻ってから更に使者をやり取りすることで落ち着く。

 我々は、織田弾正忠様から命じられた飛鳥井卿を蹴鞠会に招くと言う御役目を果たすことが叶ったのであった。

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