鬼頭宗左衛門、推して参る！

石清水八幡宮参拝と熱田社との違い

　飛鳥井雅綱卿を尾張国に迎える約束を取り付け、我々は京で引き続き活動をしていた。

　京の公家衆や奉公衆などを織田弾正忠家の使者として訪れたり、個人の用件で各所を訪れている。

　そんな京での諸々の用事を終え、そろそろ我々は尾張国へ帰ることとなった。

　尾張国に帰る前に訪れたかった場所として、石清水八幡宮を参拝したいと願っていたのだが、平手五郎左衛門殿から参拝の許しを得ることが叶う。

　石清水八幡宮は、洛外にあるため、平手五郎左衛門殿から中々許しを得ることが出来なかったのだ。

　領内に闇之森八幡社や牛立八幡社などの八幡社を抱え、源為朝の子孫であることから、八幡神を氏神と奉っている鬼頭家としては、二所宗廟の一つに数えられ、八幡社の元締めの様な存在に地位にある石清水八幡宮を参拝しない訳にはいかない。

　わしは家臣たちとともに、石清水八幡宮へと向かう。

　石清水八幡宮は洛外に有るため、道中が安全とは言い切れない。

　石清水八幡宮へ到着すると、事前に参拝したい旨を伝えていたので、神職の者が対応してくれた。

　わしも幼い頃は熱田社で学問や教えを受けていたので、神社での作法等には慣れている。

　源為朝が熱田社で大宮司家に育てられて以来、鬼頭家の男は幼い頃は熱田社で学ぶのが習慣となっていた。その様な習慣があるため、熱田社や権宮司家とは深い関係を保ち続けることが叶っている。

　石清水八幡宮には、多くの堂宇が建ち並び、まるで寺の様な有り様であった。

　危うく、麓の高良神社を石清水八幡宮と間違えるところだったが、石清水八幡宮へ使者として出した家臣が案内してくれたので、間違えずに済んだ。

　後で、神職が高良神社を石清水八幡宮と勘違いするのは『徒然草』にも載っていると言ったの聞いて、確かにそんなことが書かれていた気がする程度には思い出したが。

　石清水八幡宮が寺の様な有り様なのは、創建以来、石清水八幡宮は境内の護国寺と一体になっているからである。

　貞観元年(859年)に南都大安寺の僧である行教が、豊前国の宇佐神宮にて「われ都近き男山の峯に移座して国家を鎮護せん」との神託を受けた。

　そのため、貞観2年(860年)に清和天皇が石清水寺の境内に、八幡社を勧請し、社殿を造営したのが創建とされる。

　石清水八幡宮が創建されると薬師如来を本尊とする石清水寺は、石清水八幡宮の神宮寺となった。

　貞観4年(862年)に石清水寺は名称を護国寺と改める。

　その後、宮寺として「石清水八幡宮護国寺」と称するようになり、多くの寺院と深い関係を持つようになるとともに、壺井八幡宮や鶴岡八幡宮など各地に勧請されていったのであった。

　わしは、神職に案内され、石清水八幡宮を参拝するが作法などで、闇之森八幡社や牛立八幡社と所々違うところがあるのが気になる。

　わしは幼い頃より、熱田社で学び、鬼頭家の当主になってからは、領内の闇之森八幡社や牛立八幡社の祭礼には必ず加わっており、那古野荘にある若宮八幡社の祭礼にも頻繁に加わっているのだ。

　そのため、八幡社の作法に詳しいつもりであったが、八幡社の元締めと言える石清水八幡宮と作法が所々違うことが気になった。

　参拝が終わった後、神職に尋ねてみると、那古野荘や熱田周辺の八幡社は、熱田社が管轄している様で、石清水八幡宮は関わっていないらしい。

　岩清水八幡宮は、創建の経緯から、仏法の影響を強く受けているそうだ。

　熱田社は神道の影響が強いため、那古野荘や熱田周辺の八幡社も熱田社の影響を強く受けており、作法も所々違うとのことである。

　岩清水八幡宮も熱田周辺は熱田社の力が強く、手出し出来ないと神職の者も苦笑していた。

　わしが闇之森八幡社や牛立八幡社の祭礼の作法は、八幡社の作法だと思っていたが、熱田社の作法であったか。確かに、熱田社の祭礼でも同じ様にやっていたな。

　今まで、特に疑うことなく、熱田社の作法で闇之森八幡社や牛立八幡社を奉っていたが、熱田周辺は熱田社の管轄だそうだから、別に構わないのだろう。

　熱田社と岩清水八幡宮の違いを知ることが出来たのは、良い機会だったと言えるな。