第11話 銀龍号
「キィ、大翔、大翔。」
ゆさゆさ
何かに身体を揺らされ意識が目覚める。瞼がゆっくり開かれる。
視界にはムムの白い長い胴体がみえる。
「キィ、大翔朝だよ。」
ムムの小さな白い獣耳がぴくぴく動き。長い白い尻尾が揺れる。
「うう·······。」
大翔はベッドから上半身を起こす。
「もう、朝か·····。て、酒臭え!。何だよこれ?。」
大翔の鼻からツーンとアルコールの刺激臭がしてきた。嗅いだだけで酔いそうになる。
「キィ、ネテリークが土あけびを酒にしたしている。」
「土あけび?、ああ昨日とった金玉に効く薬草か······。」
にしても朝から酒の臭いがしてくるのは辛いなあ。不良ではあるが酒は飲んだことはない。他の不良どもは酒やタバコなど普通に吸ったり飲んでいたりしていたが。俺には喧嘩以外特に興味はなかった。
酒は飲めども飲まれるなと昔親父が言ってた気がするが。今はどうでもいいが。
「はあ~、朝から酒の臭いなんてきついな。頭がくらくらすら。」
俺はふらついた足取りでネテリークがいる台所に向かう。ムムもとたとたと這うようについていく。
「おお、起きたか?。大翔。」
「ネテリーク。朝から酒の臭いはキツいぞ。まあ、そのおかげで眠気が覚めたがな··。」
「悪いな····。今日中に土あけびを酒につけたかったんだ。」
「酒につける意味があるのか?。」
「土あけびのバナナのような実からエキスを抽出するためだ。年数によって効果効能も変わる。一年は尿もれ、不眠。10年以上なら金玉全般と膀胱炎だな。」
「膀胱炎か·····。なったことがないから解らんなあ。」
「直ぐに朝食の支度しよう。」
「ああ·····にしても酒臭い場所で食事するのかよ。」
大翔は嫌そうに顔をしかめる。
アルコール臭が蔓延しているので舌の感覚が正常でいられるだろうか。
ガチャガチャ
ネテリークに用意された肉の無い野草料理を食べる。ベジタリアンではなかったが。毎日の野草料理になれてしまった。時折肉食べたいという欲求にかられることはあるが。
「今日はどうする気だ。私は土あけびを酒につける。特に薬草積みの手伝いはない。」
「なら俺は宇宙船を動かす方法を探すよ。未だ宇宙船を動かせてないからなあ。」
「そうか····。ランディル文明の遺産である宇宙船だ。操作には充分に気を付けろ。」
「解った。」
ネテリーク家裏手広場
「ここをこうか。」
ぶうううう~~ ううう~~ん。
稼働音のような音が鳴り。数秒間鳴ると音が途絶える。
「駄目か····。」
俺は手にいれたミスティックファイブ(五つ謎)の一つランディル文明の遺産である宇宙船を動かそうとする。宇宙船内にはコジョ族のムムのおかげで何とか入れたが。宇宙船そのものを稼働させるところまではまだいきついていない。
何故か稼働させようとすると途中で止まってしまうのだ。
燃料の問題かと思えばこの銀河内では無限回路メビウスによって燃料を必要としない。このランディル文明の遺産である宇宙船も例外じゃない。ならば宇宙船の機械、装置の故障の問題かと思えどみたこともない装置や機械が並んでいて理解できない。一応ネテリークに宇宙船のメンテ方法を習ってはいるが。このランディル文明の遺産の宇宙船は根本的に仕組みが全く違うのだ。
違いを例えるなら車と戦車ぐらいの幅があるだろうか。
「はあ、どうすりゃいいんだ。これ。」
俺は悪戦苦闘しながら操縦席を操作する。
ハンドルとペダルのようなものは一応ある。しかし、スイッチ類は見当たらず。スイッチ、ハンドル以外まっさらな操縦席である。隣席では白い獣耳をピクピクさせ呑気に長い尻尾を手に持ちながら毛繕いするムムがいる。
正直手伝って欲しいんだが····。
「ムムも宇宙船の起動手伝ってくれよ。」
俺は少し不貞腐れそうになる。
ムムは宇宙船の扉を開ることができたのだから宇宙船も起動できると思った。
「キィ。」
ムムは小さな真っ白な毛深い掌を操縦台(ほぼまっさらな台)にぺたぺたっと触れる。
ぶおおおおん
「なっ!?。」
俺は絶句する。
まっさらな操縦席かと思っていたらムムが座る操縦席の前に突然メタル感溢れる球体が現れたのだ。メタル色の球体はムムの前でふわふわと浮かぶように静かに停滞する。
「キィ。」
ムムは恐れもせずメタル色の球体にさっと触れる。
『生体認証確認。ナノ粒子放出。銀翼ヲ発動シマス。』
脳に直接語りかけてくる。矢張ランディル文明の遺産のことはある。前に入ったこの惑星の遺跡のシステムとも似通っている。
「本当に何でムムがこの宇宙船を動かせるんだあ?。」
「キィ、解らない?。」
ムムは不思議そうに首を傾げる。
ブァサッ!!。
コックピットの左右のモニターから船体から翼のようなものが出てくる様子が映っていた。宇宙船なのに翼って·····。
俺は噴射口からジェット噴射する宇宙船を想像していたが。ランディル文明の遺産の宇宙船は見事に俺の想像をぶち壊してくる。宇宙船に銀色を帯びた翼が左右に生えているのだ。船体は近未来的な鉄の塊なのに翼が生えるって宇宙船としてどうなのよと内心思ってしまう。
「とりあえず船体の様子を確認するか?。」
「キィ。」
俺は船体の全容を確認する為外へ出る。
宇宙船のハッチ扉を出るとランディル文明の宇宙船の全容が確認できた。
ぶうううう
船体の側面左右から突き出るように銀色の翼が生えている。翼からは銀色の粉雪のような粒子なようなものを放出していた。
「この翼触れたらやっぱ危ないだろうな。」
噴射口からでる炎に触れる馬鹿はいないだろう。触れたら一気に手が焼け溶けるなんてこはあり得る。
「おお、宇宙船はちゃんとうごかせたようだな。事故も起こらず安心したよ。」
後ろから声をかけられ。振り返ると家の中で薬草を煮込んでいたネテリークがいた。
「ああ、どういう原理かしらんが。ムムが宇宙船を動かせた。理由が本当に全然解らないが。」
「気にすることはないぞ。コジョ族は何故だかランディル文明の機械や遺物を起動することができるんだ。理由は解明されてはいないがなあ。」
「そうか····。」
ネテリークはじっと宇宙船から生えた銀翼を観察する。
「蒼白色の粒子が微かに銀翼から出ているな。もしかしたらナノマシーンが使われているかもしれないなあ。」
「ナノマシーン?。」
「小さな細胞レベルくらいの機械のようなものだな。あの一般の宇宙船の燃料であるエリクシル光石もナノマシーンが化石化したものだと噂もある。もしかしたらランディル文明の遺産も同じ原理なのかもしれんなあ。違いあるならば無限回路メビウスのエネルギーくらいかもしんが。」
「無限回路メビウスのエネルギーもナノマシーンじゃないのか?。」
ネテリークは静かに首をふる。
「いや、あれは多分違う。この船の主翼の役割をはたしているのがナノマシーンだろうが。根本的な無限回路メビウスのエネルギー源はナノマシーンではなくもっと生体に近いものかもしれぬ。」
「生体?。生体エネルギーってことか?。」
生体エネルギーなんて生物から生み出されるエネルギーということだよなあ。火力、風力、水力、でもないエネルギーか。まあ、うちの地球では生体エネルギーのような非人道的なエネルギーは誰も使わんだろうが。動物や生き物からエネルギーを取り出す技術など非人道的過ぎて誰もやらんだろうし。
無限回路メビウスが回収しているエネルギーがもし本当に生体エネルギーというのなら何処かでエネルギーをとり出されている生物がこの銀河の何処かにいるのだろうか?。
だが宇宙は広いからエネルギーが生物から取り出されると言っても普通に納得してしまう。
「それでこの船の名を決めたのか?。」
「名前?。」
「せっかく手に入れた小型宇宙船なんだから名をつけなきゃ損だろう?。何なら私がつけようか?。」
何だかネテリークは宇宙船を名付けるのにやたら乗り気であった。
「いや、結構だ。自分でつける。」
このままだとネテリークが植物の名前を船につけそうな勢いだったので俺は即座に断る。
「そうか·····残念だ····。」
ネテリークは本当に残念そうな顔をしていた。相当この銀翼の翼を生やす小型宇宙船に名前をつけたかったんだろう。
俺は銀翼の生えた宇宙船をじっと眺める。
そして言葉が浮かんだ。
「銀龍号·····。」
「銀龍号?。」
ネテリークは眉を寄せる。
「俺の知りあいに族のヘッドをしていた男がいて。そいつが龍が好きで特攻服にいつも龍の刺繍した服を着ていた。今は引退して何処かに行っちまったんだけどな。」
「ふ~ん。族というのは地球の暴走族のことだな。いつもバイクとかという乗り物に乗ってスピード違反しては喧嘩に明け暮れる野蛮な集団と聞いている。そんなやつらとつるんでいたのか?。」
「ネテリーク。俺が不良であることをすっかりわすれているだろう?。たくっ、でもまあ····銀河を駆ける龍で銀龍号。悪くないだろう?。」
俺はネテリークに同意を求める。
「ああ、確かに悪くない名だ。」
銀翼を生やすランディル文明の遺産の宇宙船を俺は銀龍号に名付けることにした。
「それで宇宙船が起動したから遊泳飛行したいんだが。エヴェルティア(未確宇宙領域)でしては駄目か?。」
俺の提案にネテリークは顔をしかめる。
「お前なあ。宇宙冒険者の見習いとしてまだ修行中だろうに。」
「でもやはり宇宙船の航行やエヴェルティアの探索にはなれておきたいんだが。矢張無理か?。」
「まあ、ベテランの宇宙冒険者が同行なら問題ないが。そうだムムと同行すれば問題ないな。」
「ムムと?。」
何故そこでムムの名が出るのか俺は困惑する。
「ムムは宇宙冒険者のライセンスを持っているのだ。」
「キィ。」
ムムは長い尻尾を揺らし。白い獣耳をぴくぴくさせ。自慢するように金色のカードをみせる。
「ムムって、宇宙冒険者のライセンス持っていたのかよ。」
「キィ。」
ムムはえっへんと言った感じで白い長い胴体を前に突き出す。
「ムムが同行なら心配ないだろう。」
「逆に心配なんだが····。」
ムムが宇宙冒険者の先導役なら逆に遭難するんじゃないかと心配になる。
「キィ~、大翔心配ない!。大船乗る!。」
ムムはむきになるように反論する。
「はいはい、解ったよ。じゃあムム宇宙のエスコート頼む。」
俺は複雑そうに苦笑する。
「キィ~。」
ムムは嬉しそうに長い尻尾を揺らす。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
とある惑星のテントの中で少女は佇んでいた。少女の幼い手にはRayザーナイフを所持していた。少女は幼いながらも優秀なエンジニアだった。それ以上に少女は他者知らぬほど長い年月を費やしていた。
少女の瞳には光を宿していなかった。辛く苦しく絶望にまみれていた。
ふふふふ ハハハハッ
しかし少女がいるテントの外には少女の父と母と思われる仲睦まじい談笑の声が聞こえる。
そんなテントの外からくる爽やかな声さえも少女にとって苦痛でしかなかった。
少女はいを決したかのようにRayザーナイフを両手に持ち。突き出る青い刃先を喉元にむける。
Rayザーナイフには安全装置がついていたが。少女が改良し。今は安全装置は外れている。刃が肌に触れても消えることはない。
「お父さん、お母さん。ごめんなさい。でも、もう私耐えられないの。」
少女はRayザーナイフの青い刃先を迷いもせずおもいっきり喉元に突き立てた。
皮膚にすんなり青い刃が入り首もとから血がふきだす。
ドサッ
少女の身体はテントの床へと倒れこむ。
テントの外では少女の行った惨劇など露知らず。夫婦の楽しい家族団欒ののどかな会話が続いていた。
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不良少年大翔とコジョ族ムムは手に入れたランディル文明の遺産である宇宙船でエヴェルティアに試験航行する。
次回 社会不適合者の宇宙生活
第12話 『ループの惑星』
不良少年は荒波の海へと飛び込む····。
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