第18話 処理班

ズンチャカズンチャカ チャチャ


ポップなリズムが刻む音楽がエヴェルティア(未確宙領域)を航行する宇宙船から流れる。黒く染まったその宇宙船は掃除用具を持った奇妙な死神のロゴがついていた。

船内には真っ黒なラバースーツのようなものに身を包んだ乗組員が数名左右の備え付けの椅子に腰掛ける。操縦席で操縦する同じく真っ黒なラバースーツを着用し。何故だか乗組員全員が顔全身覆うゴツい黒マスクを被っていた。


ズンチャカズンチャカ チャンチャン

ズンチャカズンチャカ チャンチャン


顔全体を覆う黒マスクを被っている一人が手に持つレコーダーの音楽に合わせてリズミカル顎をひくひくさせる。

左右の壁付けの椅子に座る数人が表情は解らないが黒マスクの中で不快にしていた。


俺のアソコはビンビン OH! YEAH‼️

お前のアソコもビンビン OH !YEAH‼️

俺と彼女もビンビン OH !YEAH‼️


OUーOUー  Oh ーYES‼️


「おい、音楽を止めろ!。もうすぐ目的地に到着する!。」


椅子にどっしりと構える黒マスクの男が音楽を鳴らす黒マスクの部下に告げる。どっしり構える黒マスクの男は彼等リーダーのようであった。

カチャ

レコーダーの音楽を鳴らしていた黒マスクの部下は素直にレコーダーを止める。


「さっきからその変な音楽は何なんだ?。聞いてて頭がおかしくなるぞ。」

「知らないんすか?。今、地球の日本という国で流行っているgoldenballと言う名のヒップホップチームの名曲ですよ。」

「何だかよく解るんが。直ぐに仕事だ。真面目にやれ。」

「ヘイヘイ。」


音楽を聞いていた部下がレコーダーをバッグにしまう。


「隊長、今日はどんな案件ですか?。」


顔全身の黒マスクの奥からから女の声がもれる。ラバースーツの腰の胸のラインからして女性であった。


「デオペグ絡みだ。」

「うへぇ、隊長。またどっか馬鹿がデオペグの実を食べたんですかい?。栄養価も高く美味しいとは聞いていますが。中毒性も依存性も麻薬並みかそれ以上に高いという危険な代物だろうに。」


音楽を聞いていた黒マスクの部下が嫌そうに首をふる。


「しかも被害は甚大だ。デオペグの依存者中毒者が他の乗組員や救難信号で救助してきた乗組員さえも殺してデオペグの種を植え付けて餌食にしていたそうだ。」


「「「っ!?·······。」」」


黒マスクの隊員はマスクに隠れてはいたが皆青ざめ騒然としていた。

少し沈黙が流れた後隊員の一人が口を開く。


「餌食していたということはそのデオペグの中毒者は誰かに鎮静されたのですか?。」


黒マスクの被る大柄な大男が質問する。


「ああ、デオペグの中毒者が救難信号で罠をはっていたが。救助しにきた者が逆に返り討ちにしたそうだ。」

「ひゅ~やるねえ!。一体何処の惑星人(ネヴィト)だよ。べるぽか?ガルゼか?それともアルザルネか?。それにしちゃあ骨のある奴がいたもんだ。俺の予想なら宇宙冒険者かなあ?。あいつらいがいとキレるからなあ。」

「ご名答だ。コジョ族と地球の惑星人(ネヴィト)の宇宙冒険者らしい。」

「コジョ族に地球の惑星人(ネヴィト)だって?。コジョ族は論外として地球の惑星人がやったのかよ!。スっゲーな!。」


音楽を聞いていた部下が感心する。


「しかもまだ見習いらしい。」

「ひゅ~~、見習いって凄いルーキーがいたもんだ。それじゃ今後のヘクサギャラクシーの宇宙冒険者は安泰だな。」

「まあ、鎮静したと言っても警戒を怠るなよ。」

「オクトパース‼️(了解)。」


ごおおおお

「隊長着きました。目的地である物質船です。」


宇宙船の操縦者が告げる。


「うむ。コンテナ口からはいるぞ。」


ごおおおおおおお

掃除用用具の死神ロゴのついた黒い宇宙船は物質船の船尾のコンテナ口にはいる。


「中型宇宙船ノ搭乗ヲ確認。無重力モードヲ解除シマス。船体ノ消毒ヲ開始。」


無重力が解かれ。黒色の宇宙船は静かに着地床に船体が落ちる。

ガッシ

バネのような機会仕掛け下地が黒色の宇宙船の船体を支える。


ぷしゅううううう

コンテナ口の噴射口から霧状の液が噴射される。


「メインコンピューターは生きてるようですね。」

「報告通りだな。」


ぶううううううううん

黒い船体はレーンに運ばれコンテナフラワに到着する。


ガシッ

「着いたな。危険ないとおもうが用心のために銃は所持するように。」

「「「オクトパース(了解)」」」


黒マスクを被る一団がマシンガン、ショットガン、火炎放射機を持って船を出る。


黒マスクの一団が船を出ると突然目の前の二人にギョッと豆鉄砲喰らったように驚愕する。何故なら宇宙冒険者と思われる地球の惑星人(ネヴィト)はまだ年端のいかない少年だったからだ。少年の隣には胴体が長目に白く。小さな白い獣耳をぴくぴくさせるコジョ族がちょこんと立っていた。


「あんたらが処理班か?。」


少年は臆することもなく堂々とふてぶてしく聞いてくる。

処理班の隊員が暫く固まっていたが。処理班の隊長が話をきりだす。


「そうだ。私は処理班の隊長を務めているザバラック・ネガンだ。」

「俺達のことをクリーンs”と呼んでくれ。」


処理班の隊員の一人が大翔の前でおチャラけた態度をとる。


「クリーンs”?。」

ポカッ!

「あだっ!。」


チャラけた部下は隊長であるバラック・ネガンに頭をコツかれた。

大翔はそんなチームの様子に少し面食らう。


「気にしないでくれ。こいつが勝手に命名しているだけだ。」

「そうか····。」

「あんたが通報者か?。」

「そうだ、俺は小田切大翔だ。一応見習い宇宙冒険者だ。まだギルドで正式な登録はしてはいない。隣のムムが正式な宇宙冒険者のライセンスを持っている。」

「キィ!。」


ムムはえっへんという感じで長い胴体の胸を張る。


「驚いたな。まだ研修期間だったのか。てっきり既に宇宙冒険者ギルドに登録しているとおもっていたが。」


物資船のデオペグの中毒者を鎮静させた実力なら既に正式な宇宙冒険者だとおもっていた。


「俺としては直ぐに宇宙冒険者になりたいんだが。俺の師匠にあたる隠居した宇宙冒険者が課題をクリアしないと正式にギルドで登録してはくれないんだ。今は俺は課題をクリアするためにエヴェルティアを探索している。」

「課題でエヴェルティアを探索だって?。そいつはその師匠相当スパルタだな。」

「そうなのか?。」


大翔は眉を寄せ困惑する。

ネテリークは確かに厳しいところがあるが。スパルタというイメージはないとおもう。俺としては危険なエヴェルティアの冒険できるのだから文句はない。


「本来ならある程度訓練して。ギルドで指定されたエヴェルティアの未開惑星で冒険して生き残れたら宇宙冒険者として合格なのだ。そもそも宇宙冒険者見習いがエヴェルティアを冒険することは許されていない。ライセンスを持つコジョ族がいるなら問題ないが。それでも素人がエヴェルティアを冒険するのはギルドはあまりよくおもってはいない。死亡する確率が高いからな。」

「そうなのか?。知らなかった。」


宇宙冒険者としてネテリークの課題であるエヴェルティアの植物探しは普通だとおもっていた。


「まあ、お前さんの師匠がどんな理由でそんな課題を出すのか知らんが。普通の宇宙冒険者のやり方ではないな。」

「確かにうちの師匠は普通ではないな。」


俺は納得する。

普通というよりは植物好きの変わり者ではある。宇宙冒険者は大抵そうだと思っていた。


「それよりもデオペグの中毒者は何処だ?。」

「ああ、それならあそこだ。」


大翔の指を示した方向に処理班達が視線を向けるとそこには植物化したジョン・コビンの阿鼻叫喚した姿があった。顔部分が飛び出るように樹木と一体化しており。一種のアートのように木像化をしていた。


処理班の隊長は樹木化したジョン・コビンの方に静かに近付く。ジョン・コビンの樹木化した姿を黒マスク被る処理班の隊長が何処か寂しげに眺めている。


「憐れなものだな······。デオペグの果実の虜となった末路など誰でも解る。我々もデオペグの根絶に向けて動いてはいるが。それでもデオペグの被害は後を絶たない。」

「デオペグの植物は普通に市場にでているのか?。」

「いや、表市場には一切でないな。しかし裏市場はまれにでてくる。デオペグの味の快楽を求めて買う客もいる。デオペグになる危険性をあるとしっててもな。」

「そうか·······。」


デオペグを危険性を知っていて手を出そうすると輩の心情など俺には解らない。そもそ他人を殺してそれをデオペグの苗床にする心情など解りたくもない。


「他の被害者達は?。」

「ああ、物質船の個室や廊下にいる。」


俺は処理班達を案内する。

船内のデオペグの被害者を見て一瞬処理班は凍りついたが。直ぐに冷静になり処理を始める。処理班は植物の生えたミイラ化した遺体を坦々と処理をする。死体処理も手慣れているのか手際が良かった。


「これで全員か?。」

「はい、物資船のすみずみまでデオペグの遺体を確認しました。」

「よし!、デオペグの遺体はすみずみまで処理をする。塵を一つ残さないように」

「「「オクトパース(了解)。」」」


処理班全員が掛け声をあげる。


「処理ってどうするんだ?。」


大翔は疑問を処理班に投げ掛ける。

処理班の隊長ザバラックが顔をあげる。


「焼却処分だな。一切デオペグの細胞のかけら一欠片さえも残してならないというギルドからの決まりだ。家族には申し訳ないが。家族には遺体の経緯をギルドから伝えるしかない····。」

「そうか······。」


肉親には辛いだろうが。デオペグという危険な植物を周囲に広がせないための対策なのだろう。


「さっきからずっと気になっていたんだが。何故ずっとあんたらは黒マスクを被っているんだ?。」


大翔ずっと処理班が船から入ってから黒マスクを被ったままでいることに疑問に思っていた。


「我々はいついかなる時も対処対策をたてて用心している。黒マスクを被っているのもウィルスや危険な寄生生物に寄生されないためのものだ。」

「そうか·····。」


あんなゴツい黒マスクを被っているのにもちゃんとした理由があるのだなと大翔は納得した。

まるでプレ○ターだな····。昔みた狩り好きエイリアンの映画を思い出す。中身は爬虫類のような顔ではないだろうな?とふと大翔は疑ってしまった。


「君達はこれからどうすのだ?。」


処理班の隊長ザバラックか問いかける。


「師匠の課題である珍しい植物をエヴェルティアで探すよ。」


どう見てもデオペグのような危険な植物を悦んでネテリークが受け取るとは到底思えない。確かに表市場に出ない珍しい植物ではあるが。人間の遺体かり生えている植物なんて採取する気もおきない。それでもネテリークがそのデオペグを悦んで欲しがるなら相当の変人である。


「そうか。止めたいも気もするが。エヴェルティアの宇宙領域は未開の地であり。何が起こるか解らない。気をつけることだ。」

「肝に命じておく。」


大翔は強く頷く。


「それで君達の船は何処なんだ?。」


処理班対処ザバラックは大翔達の乗ってた船が気になる。もしかしたらデオペグの中毒者が何か仕掛けていないかと心配になったからだ。


「ああ、あそこにある。」


大翔の指差したところ宇宙船をみた処理班達は更にギョッとする。


「こいつはランディル文明の遺産かよ!?。自分の宇宙船にするなんて。とんだファンキーだぜ!。」


おチャラけた処理班の隊員さえも絶句して固まっていた。


「宇宙冒険者がランディル文明の遺産を実際宇宙船として使ったところなど初めてだな。」


処理班の隊長ザバラックは驚きを通り越して呆れていた。


「普通しないのか?。」

「ああ、普通は博物館行きだ。実際扱えるものでもないからな。本当に何度も驚かされる地球の惑星人(ネヴィト)だ。」


処理班の隊長含んだ全員が呆けたように銀龍号を眺めていた。

別に驚くようなことはしていないつもりなんだがなあ。

宇宙の常識と非常識はよく解らん。


「それじゃ。ここでお別れだ。」

「ああ、この物資船はどうなるんだ?。」


もうこの船には乗組員はいない。


「俺達の処理班が処理した後に回収班がくる問題ない。」

「なるほど。」


処理班以外にも回収班というものもあるらしい。


「では新たな新米の宇宙冒険者。よい冒険を。」

「ああ、あんたらも気をつけて。」


俺は処理班と別れを挨拶をすませ別れる。


ごおおおおお

処理班の掃除用具の持った死神姿のロゴのついた黒い宇宙船が宇宙空間を進む。


「隊長。気になっていたんですが。何故物資船の中にデオペグがあったのでしょうか?。あれは危険度A級指定の植物です。厳格な管理下に置かれた植物です。エヴェルティアとはいえ一般の物資船の積み荷あるとは思えないのですが····。」


処理班の隊員の一人がバラック隊長に疑問を投げ掛ける。


「それは私も思った。あの物資船の行き先のルート何処だ?。」

「メインコンピューターをハックして調べて起きました。行き先は南東銀河シルニスにあるオルゾフという惑星です。」


オルゾフという惑星を聞いたバラック隊長は難しげにマスクの顎辺りに手をやる。


「匂うな·····。」

「まさか!?隊長。そのオルゾフという惑星にデオペグの裏ルートがあると?。」

「かもしれないが調べる必要性があるな。宇宙冒険者ギルド本部にも報告しよう。」


デオペグの裏取引があるなら早々に発見しなくてはならない。あの植物の依存性と中毒性を利用されたら大変なことになる。


「隊長、あの新米の地球の惑星人にまた逢えますかねえ?。」


いつもチャラけている隊員が珍しく真面目に聞いてくる。あの地球の惑星人が気にいったのかもしれない。


「さあな。だがもしヘクサーギャラクシーのエヴェルティアで生き残ることができたらまた何処かで逢えるさ。」


あの地球の惑星人の新米の宇宙冒険者の青年はこのヘクサーギャラクシーの銀河で生き残れるそうなそんな気がした。


ごおおおお

船体からつきでる銀翼から粉雪の粒子が漏れる。

銀龍号の船内では大翔は静かに操縦席に座っていた。隣席にはいつものようにムムがベルト締めたまま毛繕いしている。


「さて、出発するかっ!······っ!?。」


勢いよく大翔はハンドルに手をやろうしたが。咄嗟に手が止まる。いつの間にか大翔の手が震えていた


「キィ?。」


ムムは不思議そうに白い首を傾げる。


「そうか。俺は初めて人を撃ったんだな····。」


大翔は自分が初めて人を撃ったことを自覚する。相手を撃って殺したというわけではない。ジョン・コビンの死はデオペグの副作用で自爆したようなものだ。それでも間接的に死を招いたことには変わりはない。この銀河で正当防衛があるなら成立するだろう。大翔は自分はもっと肝っ玉が強い人間だと思っていた。しかし現実は人一人撃っただけでこの様である。


「さっさと慣れないとな····。宇宙冒険者なら必ず通る道だ。」


大翔は震える手をもう片方の手で強く抑え込む。

そんな大翔の手を上から小さな白い手がそっと添えられる。


「ムム?。」


困惑げにムムに視線を向ける。

ムムの白い毛並み顔の表情は何処か怒っている様子だった。


「キィ!、大翔。人を撃つの慣れちゃ駄目!!。」

「ムム·······。」

「人を撃つの絶対馴れちゃ駄目!!。」


くりくりとした円らなムムの瞳が真面目に大翔の顔を直視する。

ムムの真面目な顔にふっと大翔の切り詰めた感情が和らぐ。


「そうだな·····。人を撃つのを馴れてしまったらスリルが味わえなくなるもんな。」

「キィ~。」


ムムはニッコリと微笑む。

大翔は再び銀龍号のハンドルを強く握る。

目の前の操縦席から見える前窓から写る広大な宇宙を遠目で見据える。

大翔の口元が軽くゆるむ。



「良いスリルだ······。」


▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


大翔が目的の植物を見つけるためにエヴェルティアを探索し続ける。補給でたちよった惑星でとある人物と出逢う。


次回 社会不適合者の宇宙生活 上等‼️


第19話

  『老練の冒険者』


不良少年は荒波の海へと飛び込む······

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