第19話 老練の冒険者

ザッ ザッ


一人の老人が地面の土を耕す。荒れ果てた土地を戻すかのように何度もくわを突き立てる。


ミウミウミウ

老人の後ろには子供の背丈くらいの三匹のリスのような動物が老人を心配そうに見守る。

老人はくわを止め振り返る。


「大丈夫じゃ。絶対に実らせてやるからな。」


老人は三匹のリスのような動物に優しく語りかける。


老人は再びくわを地面に打ち付ける。

ザッザッ

老人は何度もくわを地面に打ち付けて土をならす。普通なら近代的な道具で土を耕すことが可能なのに老人は何故だが原始的な道具を用いて土を耕していた。

名もなき未開の惑星で老人は無我夢中でくわを打ち続ける。


おおおおおおおおーーーー


エヴェルティアの宇宙領域で銀龍号の銀翼から静かに銀色の粒子が放たれる。


「そろそろ何処かの惑星で補給しようか。ムム。」

「キィ。」


無限回路メビウスのおかげで燃料には困らないが。食料や水の確保は未開惑星で補給する必要性があった。エヴェルティアで商売する商人もいるようなのだが。まだ出逢ったことはない。と言っても手持ちの金があるわけではないので買い物は出来ない。一応立ち寄った未開惑星で価値ありそうな鉱石などを物色したりもしている。


おおおおおお


「キィ、大翔、近くに手頃な惑星を発見。空気もあり。生物も確認。サーチマーカーの色、マーカー300、色青。」

「マーカーの色が青ってことは既に他の宇宙冒険者が発見しているのか?。」

「キィ、発見しているというか採取済み。」

「採取済み?」

「既にこの未開惑星の資源は取りつくしている。」

「あ、なるほど。採取済みとはそう意味か····。」


なら宇宙冒険者同士のドンパチの危険性もなさそうだな。宇宙冒険者同士未開惑星で遭遇したらならお互い資源の所有権を賭けて争うらしい。

俺達は今は発見した未開惑星の所有権などどうでもいい。目的であるネテリークが欲しがりそうな植物をさがさなくてはならないのだ。

コックピットの窓から目的の惑星が見えてくる。色褪せた茶褐色のような色をしている。


「何やらやけに色褪せた惑星だな。資源を取りつくしただけはある。」


目の前の未開惑星は前はどうだったか知らないが。他の未開惑星と違って色合いが何処かくすんで色褪せていた。


「ムム、今からこの惑星に着陸する。準備しろ。」

「キィ。」


銀龍号の銀翼がバサッと扇ぐと色褪せた惑星を大気圏へと突入する。


びゅうううううううううううーーーー

すうううううううううーーーーーーー


大気圏を抜けると荒れ果てた大地が広がる。まばらに緑もあるが。所々に地上が何かけずりとられ穴が空いて荒れ果てている。穴は何かの削岩機で掘り尽くされたようであった、

大翔は不快げに眉を寄せた。


「資源を完全に取りつくしたということか。それにしては······。」


大翔は言葉に詰まる。

別に俺は自然保護団体のような善良な人間ではない。ただそれでも資源を掘り尽くしてハイさようならみたいな感じでこの荒れ果てた未開惑星をほったらかしにされるのはなんかこう違うような気がする。前の俺なら植物や自然のことなどどうでもよいと思っていたが。これも師であるネテリークの影響だろうか?。


「あの辺りの平地が良さそうだな。」


穴がない手頃な着地点を見つけ。俺は銀龍号のハンドルを動かす。


すうううううーーーー

銀龍号の銀翼はバサッと扇ぎ。ゆっくり旋回し平らな地上の平地へと進む。


ぶおおおおおおおお


着地点のひらけた平地の頭上に銀龍号を静止させ。ゆっくりと地上に降り立つ。

ズズ

船体の底が地面に少し擦れる音がした。銀龍号の船体はちょっとやそっとの傷でもナノマシンにより自己修復するらしい。多少なメンテをしなくてすむのだから有難いことである。


「ムム、先に惑星の様子を確認してくる。採取済みなら危険はないと思うが。後から来てくれ。」

「キィ。」


ムムは頷く。

俺は操縦席から離れる。


カチ ぷしゅうううう

ボタンを押し銀龍号のハッチ扉が上に上がる。

折り畳み式なのか解らないが。突然現れる階段を俺は降りていく。


「本当に何もないな·····。」


大翔は辺りを見回すと荒れ果てた荒野のようであった。所々には一応緑もあった。

荒れ果てて何もない·····。水はあるだろうか?。食糧の心配もある。


「もしかしたらハズレ引いたかもな····。」


補給する惑星に確実に食糧あるとは限らない。水もない食糧もない未開惑星もあった。危険な惑星にだって希に遭遇した。そっちはスリルあったけど。

俺は荒れ果てた元未開惑星が安全であることを確認する。


「もう、良いぞ!ムっ。」

「誰じゃ‼️。お前はっ!?。」


カチャ

突然大翔のムムを呼ぶ声が遮られる。視線をゆっくりと向けるとそこには紫波を帯びた白い髭生やす老人が立っていた。

紫波を帯びた白髭の老人は銃の銃口を此方に向けていた。

大翔は両手を腰ベルトに付けてあるホルスターに納められているマシアルナノガディックV4とアマリルフォルッソンSAIenに手をかけようとする。銃弾とレーザーでは一番速く放てられるのどちらか正直大翔には解らなかった。しかし相手の銃持ちに対抗するには両銃の力が必要だった。見るからに年寄りと言っても場数を踏んだようか経験者であることは大翔の目から見ても明白であった。もしかしたら同業者かもしれない。しかし何故同業者がこんな採取済みの未開惑星にいるかは疑問である。この未開惑星が資源を取りつくしたなら宇宙冒険者ならもうここは用済みの筈。

大翔は警戒を怠らない。

銃口は向けられたままだ。場合によってはこの老人は自分を撃つ気満々である。


「この惑星に何しに来た!。この惑星にはもう奪うものなんてねえぞ!。とっとと帰えれ!!。」


目の前の老人は物凄い形相で俺を威嚇する。


「落ち着け!。俺は補給で立ち寄っただけだ。それにこの惑星は資源が取りつくされたんだろう?。なら同業者でも問題ない筈だ。」


資源があったなら撃ち合い殺し合いに発展したかもしれない。


「同業者?。はっ、宇宙冒険者の新米若僧か。ならこの惑星には何もない!。とっとと帰れ!。」


大翔は老人から罵声を浴びせられる。

銃口も降ろす気配はない。


埒があかないな····。

どうやらこの目の前の同業者と思われる老人はこの惑星で補給することさえも許さないようだ。

このまま引き返して別の惑星の補給場所を探すか?。燃料には困ってない。困るのは水と食糧くらいだ。

ちっ、仕方ないな······。

俺は身を退こうとする。このまま無駄な血を流したくないというよりは目の前の老人とやりあえばただではすまないと直感で感じとったからだ。背が少し曲がっていてもただ者ではない。強者しか喧嘩をしなかった不良であった大翔だからこそ解る長年の勘である。


ミウ!ミウ!ミウ!

突然老人の背後から子供の背丈くらいの長い耳をしたリスのような動物が三匹ひょっこり顔を出す。


「お、おい、お前らっ!?。」


老人は背後から現れたリスのような動物にあわてふためく。

何だ?。


「キィ?。」


そのタイミングで銀龍号のハッチ扉からムムも顔を出す。


「コジョ族!?。」


老人は俺がコジョ族を連れていることに驚いていた。

ミウ!ミウ!ミウ! キィ

リスのような三匹の動物とムムは躊躇いとなく接近する。


「キィ~。」

「ミウ~。」

「ミウ~。」

「ミウ~。」


警戒心などなく。お互い頬擦りしたり尻尾を絡ませたり。スキンシップ?みたいなことをしていた。

老人は三匹と一匹の行為に毒気を抜かれたように力を抜け。いつの間にか銃口を下ろしていた。

俺もホルスターベルトにかけた手を降ろす。


「コジョ族と一緒にいるなら安心できるか····。コジョ族は悪意のある惑星人(ネヴィト)には懐かないからな。」


老人はもう俺と戦う意志はないようだ。


「悪かったな。この辺鄙な惑星(ホシ)にくる奴は大抵密猟者か海賊しかいない。」

「密猟者?。」


海賊は解る。この銀河には宇宙海賊がいるらしい。てっきりアニメや漫画の世界の話だけだと思っていたが。宇宙海賊は宇宙冒険者の探索船や商船をターゲットにする悪徳集団らしい。密かに襲いに来ないかなあと期待はしている。


「密猟者ってのは何だ?。」


名前からして生物を勝手に乱獲するイメージがある。


「密猟者てのはこの銀河の特にエヴェルティアの未開惑星の珍しい生物を捕獲し。勝手に売りさばいている連中のことだ。宇宙冒険者ギルドの許可取らず。無作為に狩るから宇宙冒険者からも煙たがれている。無政府のヘクサーギャラクシーではあるが。各々縄張りやルールにうるさいからな。幾つかの組織はルール反するものがいれば組織が勝手に処罰するんだ。」


警察のような役割がいないから組織が勝手に処罰しているということか。


「補給しにきたんなら儂の家に来い。どうやらお前のコジョ族は儂んとこのものと仲良くなっちまったようだからな。」


ミウミウミウ キィ

三匹のリスのような動物とムムは知らないうちに勝手に遊んでいた。

大翔はそんな光景に苦笑する。


「あんたはこの惑星にずっといるのか?。」



前をずんずん進む老人に大翔は問い掛ける。


「ああ、宇宙冒険者は既に引退している。俺はこの惑星にずっと住んでいる。」

「俺の師のようだな。俺の師も引退して未開惑星を買い取って。植物を育てながら暮らしている。」

「未開惑星を買う?。そりゃあ、酔狂な奴がいたもんだな。」


老人はあきれている様子であった。


「あんたもそうじゃないのか?。」


この採取済み未開惑星にいるということはこの老練の宇宙冒険者はこの惑星の関係者か何かだろう。


「買ってはいない。所有権はあるがな。」


老人は少し言葉を詰まらせたがそれだけを口にする。

なるほど。つまりこの老人はこの未開惑星の第一発見者ということか。


「着いたぞ。ここは儂の家だ。」


目の前に立つ家は木製のいかにも掘っ立て小屋のような家であった。


「すまんな。みすぼらしい家で。特にこの家で暮らすには不自由にしていなかったからな。」


老人は家がみすぼらしいことを謝罪しているようだった。


「いや、俺の師の家も似たようなものだから気にしなくていい。ほぼ樹木と一体化したような変な家だからな。」


ネテリークの家に比べたら目の前の掘っ立て小屋のような家はまともである。


「そうか·····。お前さんの師も相当変わり者のようだな。」


俺とムムは老人の家に入る。老人の家は雰囲気的には猟師のような家だった。薪を積む暖炉もあり。ネテリークの暮らした家とは少し狭いがそれほど違いはなかった。


「適当に腰かけてくれ。今、茶をだす。」


俺とムムは適当な椅子に座る。三匹の子供背丈のリスのような動物は暖炉近くにお互い密着してうずくまりながらくつろいであおた。

老人は台所にむかう。台所だけは未来的な携帯コンロが設置されていた。

老人はコンロのスイッチを押すとコンロの上部部分が輪のように青く輝き。そこに老人は鍋をおく。近くの水瓶を尺を使ってすくって鍋に注ぐ。鍋の水が直ぐに沸騰し。そこに乾燥した葉のようなものを老人は鍋に放り込む。


「ん?何だそれは?。」


植物に詳しいネテリークに教えこまれた植物の知識でも老人の入れた乾燥した葉は大翔は知らなかった。


「ああ、この惑星にだけ生える植物だ。長年暮らしていて。どうやら茶葉に合うようでな。いつもこうして乾燥させた葉を湯に付けては飲んでいる。なかなかいけるぞ。」


そういうと老人は乾燥した葉を入れた鍋から尺ですくい容器に入れて俺に差し出す。

器の中は夕焼けの暁のような真っ赤な色をしていた。色合いが幻想的で吸い込まれそうでもある。


「飲んでみろ。」


老人に薦められ。大翔は恐る恐る謎の乾燥した葉を湯につけた茶を口に含む。


ズズ

「上手い!。」


大翔は素直な感想をもらしてしまった。茶であるのに甘みがあるがくどくない。スッキリとしたかんじである。


「だろう?。俺はこんな素晴らしい茶を味わったことがなかった。だがそれも全て儂自身が台無しにしてしまったんだがなあ。」


老人の顔が何処か悲壮感を漂わせていた。


「自己紹介が遅れたな。儂の名はロドル・ザーラス。元宇宙冒険者じゃ。既に引退しているがな。んでこの三匹は右からマム、ラム、チムだ。クイト族だ。正式名になってないが。知的生命体として認知するために俺が種族名をつけた。」


ミウ、ミウ、ミウ、

「宜しくミウ。」

「はじめましてミウ。」

「お客ミウ!、お客ミウ!。」


「しゃべるのか!?。」


俺は三匹が言葉を発したことに驚いた。いや確かにコジョ族でもあるムムもしゃべるが。リスのような三匹の動物はどうみてもしゃべれるような感じに見えなかったからだ。


「ああ、儂が昔現役の頃に面白半分で言葉を教えたら覚えたんだ。見た目に反してどうやらこいつらはこの惑星(ホシ)の唯一の知的生命体なんだ。」


ロドルという隠居の宇宙冒険者は何処か陰があった。


「お前さん。名は?。」


ロドルは椅子に腰掛けあぐらをかく。


「俺は宇宙冒険者の見習いで小田切大翔だ。こっちは相棒のコジョ族のムム。」

「キィ~。」


ムムのくりくりした円らな瞳がニッコリ微笑む。


「今は師の課題でエヴェルティアで希少で珍しい植物を探している。」

「エヴェルティアで植物採取?。そりゃあけったいな課題だな。まるでネテリークのようだ。」

「ネテリークを知っているのか?。師がネテリークなんだが。」

「あの植物マニアまだ生きていたんだな。しかも弟子をとるとは。もうそろそろだろうに·····。」


ロドルは白い口髭が渋るようにへの字を曲げながら言葉を濁す。


「そろそろ?。」


大翔は首を傾げ困惑する。


「いや、こっちの話だ。話してないならお前さんには酷だろうし。」

「?。」

「気になっていたんだが。差し支えないなら何で資源を取りつくしたこの惑星(ホシ)にあんたは住んでいるんだ?。ここを隠居場所に決めたのか?。言いたくないなら別にいいが·······。」


資源取りつくしたこの惑星で家を構える理由が大翔に解らない。あの三匹のリスのような動物のためだろうか?。


「ああ····こいつらのためだ·····。」


三匹は暖炉の前でうとうと気持ち良さそうにくるまってスヤスヤと眠りについている。


やっぱりそうか····。

大翔は納得する。


「強いて言うなれば儂の後悔と贖罪だな。」

「後悔と贖罪?。」


意外な言葉に大翔はいぶかしげに眉を寄せる。

紫波がれたロドルの老人の顔が曇る。


「儂はこいつらの生活を暮らしを奪ってしまったんじゃよ。今でも昔の儂の若々しい頃の己の傲慢さを叱りたいくらいじゃ。だが、もうそれも手遅れだがな······。」


ロドルという引退した老練の宇宙冒険者は何か悔やむように唇を噛み締める。


「その贖罪とは何なんだ?。」


大翔は老練の宇宙冒険者の重い言葉に少し躊躇いはあったが。好奇心に勝てず聞いてみる。

ロドルは紫波を帯びた顔の眉が上がる。


「そうさな。いいじゃろう。儂の罪と儂の過ちを聞くといい。お前さんの今後の宇宙冒険者としてのありかたを考えるのにもいい機会だ。儂の罪、儂の過ちはこの未開惑星を発見したときからはじまった。」


老練の宇宙冒険者ロドルは坦々と己の罪と己の贖罪となった出来事を語りだす。



▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


自らの過去を悔いるように語りだす老練の宇宙冒険者ロドル・ザーラス。立ち寄った未開惑星の第一発見者である彼がこの惑星でおかした罪は取り返しのつかないものであった。


次回 社会不適合者の宇宙生活 上等‼️


第20話

  『傲慢なる贖罪』


不良少年は荒波の海へと飛び込む······


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