第17話 飢えの末路

コツコツコツ

モーズラッドの死体に近づく。マシアルナノガディックV4のナノ製の銃弾に撃たれ爆発したモーズラッドの死体は肉片を飛び散らせ。上半身と下半身が離れて食糧保管庫の床に散乱していた。

俺は床に転がる上半身の顔部分に近付く。

口元の発達した上下四本の前歯をじっくり観察すると何かしら食べた形跡あった。


「食べカス?。」


発達した上下四本の前歯に微かにだが食べカスがある。俺はそれをそっと手で拭い。鼻に近付ける。


「甘い匂い。果肉か····。」


コンテナフラワで嗅いだ同じ匂いである。


「このモーズラッドが様子がおかしかったのはこの果実ようなものを食べたせいか?。」


モーズラッドは酔うというかラリっているというか。中毒性依存性のような状態であった。


「依存、中毒·····。」


そう言えば植物に詳しいネテリークから依存性、中毒性の高い植物を教えられていた。危険性が最も高く。宇宙レベルで有害指定された危険な植物である。

確か······んっ?

俺はふと食糧保管庫の棚にあるバスケットに目につく。棚に近付き棚にあるバスケットを上の面を覗くとプレートや身分証のようなカード類が積まれていた。


「これはっ!?。」


それは多量に積まれたタグと身分証であった。宇宙冒険者に欠かせないギルドのライセンスカードまである。


「何でこんなに大量に····。」


どうみても植物生えてミイラ化した死体達の持ち物である。

何故ミイラ化の死体の制服がまばらなのかこれではっきりした。あの廊下に横たわる死体はあの宇宙で打ち捨てられた宇宙船の乗組員なのだ。


プシュううううううう


突然食糧保管庫からガスが漏れ出す。


「ガスだと!?。」


ガスは漏れ出す。

俺は慌てて食糧保管庫の掴み押しタイプの扉のノブに手をやる。

ガチャ! ガチャガチャ‼️


「あ、開かない!。閉じ込められた!?。」


掴み押しタイプのノブは固定されたようにびくともしない。


プシュうううううう

そんな危機的状況に容赦なく食糧保管庫にガスが充満する。


「くっ、このままではガスにやられる。」


ガスが猛毒性か催涙性、睡眠性か解らないが吸ったらヤバいことは解る。

落ち着け、どんな危機的状況でも冷静に対処しろ!。宇宙冒険者として一番危険なのは冷静さを見失うことである。

俺はベルトについた小さなポシェットから一枚の葉を取り出す。ネテリークから貰った毒性や有害な物質を中和することができるセオネディカの葉である。ネテリークが地球の惑星人(ネヴィト)はガスマスク無しでは有害物質を吸ったら一発だと持たされたものである。まさかこんな時に役に立つとは思わなかった。使うとしたらエヴェルティア(未確宇宙領域)の未開惑星だと思っていた。

俺はネテリークから貰ったセオネディカの葉を鼻と口に抑え呼吸する。

さあ、これで呼吸はできるけど。ガスが皮膚にまで影響与えるなら厄介だ。ガスが部屋中に充満するまでに逃げなくては。

どうみても罠に嵌められたらしい。嵌めた相手は恐らく·····。

俺は逃げ道を探す。

大翔の視線は壁際から少し高めの通風口に目が入る。大人一人分が丁度這いずって入れる大きさである。

大翔はふっと笑いがこみあがりそうになる。


「定番だな····。」


大抵SFでも宇宙船で危機的状況に陥って通るのが通風口のダクトである。

大翔は即食糧保管庫で踏み台を探す。

食糧保管庫だけあって踏み台は直ぐに見つかる。踏み台を通風口の前の壁際に置き登る。通風口は金属製のレジスターで塞がれていてネジ止めもされていた。


「邪魔だな。」


大翔はベルトのホルスターに収められていたRazerナイフ取り出し。安全装置を解除して起動スイッチを入れる。

ぶううん

柄から透けた刃がとびだす。

ギギギ ギギギ

Razerナイフの柄部分のギアを回し出力を調節する。


刃の部分が青白く発光する。

俺はそのままRazerナイフをレジスターの枠部分目掛けて突き刺した。

サク

寸なり突き刺さった。流石はRazerナイフである。金属製などものともしない。


俺はRazerナイフで通風口を塞いでいるレジスターの枠をなぞるように切り込みをいれる。正方形に一回りするとパカッとなぞった部分に沿ってレジスターの蓋が剥がれる。


「よし!。」


俺はそのまま通風口に入り込む。どうやら吹き出したガスは酸素より重いようで通風口の高さにまでは上がらず沈殿している。それでも部屋中に充満したなら通風口にまで入ってくるのも時間の問題だ。


「ムムが危ないな!。この物資船の異常な状況にやっと目星がついた。急がないと!。」


宇宙に打ち捨てられた宇宙船、甘い香りのする果肉のカス、植物が生えたミイラ化した死体、中毒性依存性と思われるモーズラッドの異常な行動、そして身分証とタグが多量に積まれたバスケット。それらの謎の点と点が一つに結び付く。

俺の予想が正しければあの植物だろう。そしてあのジョン・コビンという物質船の唯一の生存者はもう····何もかも手遅れだ。人間的にも····。そして生物的にも······。

俺は急いで通風口のダクトを這いずりながらムムの所へ向かう。ムムの居場所は小型通信機で把握している。俺は急いでコンテナフラワへ向けて進む。


       物質船

     コンテナフラワ


「こ、ここ、この辺りにあ、ああ、あると、お、思うんですが。」


ジョン・コビンと一緒にムムはコンテナフラワでメンテに必要な工具を探していた。ムムはぴょこぴょこと下部のコンテナ辺りを探す。


「キィ、何処にあるの?。」

「あ、ああ、あの辺りだ、だったかなあ?。う、うう、うろ覚えです、すす、すみません。」


ムムはジョン・コビンの指し示す方向に背を向ける。背を向けてぴょこぴょこと進みながら探す。ジョン・コビンはそれを見計らったように懐からごそごそと何かを取り出す。それはRazerナイフの柄であった。

スッ

ジョン・コビンがRazerナイフのスイッチを押すと無音で刃が飛び出す。ジョン・コビンのRazerナイフは人体の向けても安全装置が働かない。セーフティが解除された無音に改造された特別製であった。

ジョン・コビンは背を向けるムムにゆっくりと無言で近付く。足音もたてずにゆっくりとムムの白い尻尾を揺らす背中に近づいていく。

はあはあと静かな荒い息がジョン・コビンの口から漏れる。

ジョン・コビンがムムの白い背中に近付くと手に持ったRazerナイフを大きくふりさげる。


「そこまでだ!!。」


ピタッ

突然の呼び止められた声に反応し。ジョン・コビンのRazerナイフの手が止まる。

呼び止めた声の方向にジョン・コビンが視線をむけると食糧保管庫にいたはずの少年がたっていた。

少年は銃を持っており。銃口を此方に向けている。


「キィ、大翔!。」


ムムは大翔の声に反応して顔をあげ小さな白い獣耳が嬉しそうにピクピクする。


「な、ななな、な、何で?。」


ジョン・コビンは激しく動揺する。


「何で?死んでいないかか?。或いは何で此処にいるか?だろうか?。生憎様だったな。閉じ込められた食糧保管庫から脱出したよ。宇宙冒険者はどんな危機的状況でも対処するものだ。それにしてもよくもやってくれたな!。」


大翔はジョン・コビンを鋭い眼光で睨みつける。


「な、なな、何のこ、ここ、ことかなあ?。」


元々から挙動不審な態度であったが。動揺した様子さえもカモフラージュされている。


「あんたがここの物質船の乗組員全員を殺したんだな。それだけじゃない!。救難信号で救助にきた宇宙船の乗組員さえもあんたはその手で殺した。」

「な、なな、何を根拠に!?。何のた、たた、ために!?。へ、へへ、変ない、いい、言いがりや、やや、止めてく、くく、ください!、」


ジョン・コビンは余計に呂律回らぬ言葉でまくし立てる。


「デオペグという植物を知っているか?。」


デオペグという名を口にした途端ジョン・コビンの目は血走ったように見開く。


「デオペグは宇宙危険度A級指定の有害植物だ。デオペグという植物の危険なところはその植物からなる果実の中毒性依存性にある。一度その果実の味を知ってしまうと。その果実以外は食べたくなくなってしまう。そしてデオペグの特徴は生物から栄養を摂取することによる異常成長だ。デオペグは生物に種を植えつけると1日で根をはり。2日目で蔓を伸ばし。3日目で果実をならす。寄生タイプではないが。種を生物に植え付けるとその生物の栄養を摂取し。摂取された生物は植物が同化したようなミイラ化した状態となる。あんたは何らかの理由でデオペグの果実を食べ。そしてここにいた物質船の乗組員を全員殺し。種を植え付けてデオペグを育てていた。それだけではあきたらず、救難信号で救助にきた宇宙船の乗組員さえも罠にかけ殺し。再びデオペグの種を植え付けて育てさせ。そこから実るデオペグの果実を貪りくったんだ。何くわぬ顔してな。つまりあんたはここにいる物資船の乗組員と救助にきた乗組員全員をデオペグの苗床にしたということだ。」


ふるふるとジョン・コビンの身体が震える。デオペグの果実の末期症状ではない。怒り、恐怖、怯え、強迫観念、あらゆる感情がごちゃまぜになりジョン・コビンを暴走させる。

バッ!!


「キィっ!?。」


咄嗟に起こした行動によりジョン・コビンはムムの白い身体を掴み自分の身体に引き寄せる。

手持ちのRazerナイフをムムの白い顔に突き立てる。


「く、くく、来るな!。そ、そそ、それ以上ち、ちち、近付くと。こ、こここ、このコジョ族のい、いい、命はな、なな、ないぞ!。」


狂乱したかのようにジョン・コビンは大翔に罵声を浴びせる。

大翔はベルトのホルスターからいつでもマシアルナノガディックV4取り出せるようにする。


「き、キィ····。」


ムムは小さな白い獣耳がとじて。抱き寄せられた身体は弱々しく縮こまる。


「し、しし、仕方ないじゃないか!。食べるものが無くて。う、飢えて、飢えて、苦しくて。その時に食糧保管庫から果実をみつけたんだ!。」

「それがデオペグだったのか?。」

「そ、そそ、そうだ!。は、はは、初めてだったよ。あ、ああ、あんな美味しい果実をた、たた、食べたのは。は、はは、腹も何もかもみ、みみ、満たされるようだった。」


ジョン・コビンはうっとりとした表情を浮かべる。


「確かにデオペグの果実は美味であると言われている。栄養価は高く。一つ食べるだけで満足感と満腹感をあたえるという。その分依存性と中毒性は高いがなあ。」

「ぼ、ぼぼ、僕はもう一度あの果実を食べたいと思った。」


大翔の会話をジョン・コビンはまるで聞いてない様子であった。


「こ、ここ、このメインコンピューターのサーバーでこの果実は生物から栄養を摂取して育てられると知った。だ、だだ、だから、こ、ここ、個室にいた疲弊していた仲間をね、ねね、眠らせて。た、たた、種を植え付けてそだてたんだ。も、もも、元々仲間は食糧の不足で疲弊していたからね。その後次々植えてあのう、うう、上手い果実をた、たた、食べたんだ。」


この食糧の奪いあいは真っ赤な嘘だった。エヴェルティアで無限回路メビウスの故障で遭難し。食糧不足で疲弊していた時にこのジョン・コビンという男はデオペグの果実を見つけて食べてしまったのだろう。

飢えの苦しみで食べるのは仕方ない。しかしこの男は更に取り返しつかないことをした。


「飢えの苦しみで危険な果実を食べてしまったことは仕方ないかもしれない。だがあんたはせっかく救難信号で救助しにきた乗組員さえもデオペグの餌食にしてしまった。そのまま救助されることもできただろうに。」

「し、しし、仕方ないじゃないか!!。お腹すいてすいてたまらないんだー!。何も食べるものがなくて。何も満たすものがなくて。もうあんな飢えと苦しみをあじわうのは二度と御免だ!。ひ、ひひ、人は生きるためにも!食べるためにも!ひ、ひひ、人を殺しても構わないんだあーーーーーー!。」

「きっ、キィーー!。」

バッ

ジョン・コビンは手持ちRazerナイフでムムの首を突き刺そうとする。


ドォッ!!

コンテナフラワ内に銃声が響く。

一煙の硝煙がのぼる。


「あ···。ああ···あああ····。」


ジョン・コビンは視線を真下におろされる。自分の服部を垣間見るとお腹の一部にぽっかりと風穴が空いていた。そこからジワリと血が滲みだす。


「キィ!!。」


ぴょん トタタタ

ジョン・コビンの撃たれたショックで腕の力が緩み。その隙をついてムムはジョン・コビンの腕をすり抜けて逃げ出し大翔の足にしがみつく。

ジョン・コビンの血走った目が大翔を捉える。


「ぼ、ぼぼ、僕をう、う、撃ったなああ!。ひ、ひひ、人殺しーー!!。」


ジョン・コビンは非難するかのように大翔に対して叫ぶ。しかし撃たれたことに関しては意に介してない。まるで痛みさえも感じてない様子だった。

大翔は静かに銃を向けたまま口を開く


「ああ、撃った····。どんな理由があろうと。俺の仲間に手を出す奴は容赦しねえ!。それにあんたはもう人ですらねえよ。」



「な、なな、何をい、いい、言っている!?。」


ジョン・コビンは身体を震わせながら眉を寄せ困惑する。


「デオペグの果実に中毒性依存性があるのにはちゃんとした理由がある。デオペグはみずからの種子を運ぶ能力はない。タンポポという植物を知っているか?。地球産のタンポポは風の力を利用して種を運ばせる。しかしデオペグに関しては実らせた果実を生物に食べさせ虜にして種を運ばせて種を存続させる。つまりあんたは知らず知らずのうちに無意識的にデオペグの使いパシりにさせられたというわけだ。そしてもう一つデオペグにはある特性がある。あんたがデオペグの果実食べ続けた結果。あんたの身体はデオペグの果実に含まれる種子だらけになっているはずだ。もし種を運ぶ役割が生命的危機的状況に陥った場合どうなると思う?」

「な、ななな、何を、い、いい、言ってる!?。」


ジョン・コビンは冷や汗が流れ出す。青白い顔色の更に悪くなり。顔色も青より茶色へと変わる。


「デオペグそのものになるんだ。」

「ひぃっ!?。」


しゅるしゅる

突然ジョン・コビンの腹の風穴から蔓が伸びでる。身体という身体から葉のついた枝が生えてくる。


「うわああああああ~~~~~~っ!!。」


バキバキベキベキ

皮膚がバキバキバキと樹皮のように硬くなり。ジョン・コビンの身体はまるで人形の形をした樹木へと変貌していく。


「だ、だ、ずげぇ····で····。」

「き、キィ~!。」


ムムは恐怖に怯え大翔の足に更に強くしがみつく。


バキバキバキバキバキバキバキバキ


ジョン・コビンは身体はあっという間に一本の樹木へと変わる。樹木の人の背丈がある表面部分には阿鼻叫喚のように呻き苦しむジョン・コビンの顔を写しだされていた。


「ミイラとりがミイラになったな····。」



▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


デオペグの虜となってしまったジョン・コビンに終止符うった大翔。後処理のためにとある者達を連絡する。



次回 社会不適合者の宇宙生活 上等‼️


第18話

  『処理班』


不良少年は荒波の海へと飛び込む······

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