第16話 一発の弾丸
コツコツコツコツ
トタタタ
生存者ジョン・コビンに案内されながら物資船の船内を散策する。物資船は物資を運ぶ船を用途している故船内は広かった。物資を運ぶための大型宇宙船でもあるのだから当たり前なのだが。
コンテナフロアからエレベーターに乗り込む。
「ど、何処から、い、い、行こうか、な、なあ?。」
呂律回らぬたどたどしい言葉で物質船の生存者ジョン・コビンが問いかける。
「まずはメインブリッジだな。その場所なら船内の状況を把握できそうだ。」
「そ、そうだね。そ、そそ、そうしよう。」
ジョン・コビンはエレベーターのボタンパネルのB2、B1、1階、2階、3階から2階のボタンを押す。どうやら2階にメインブリッジがあるらしい。
「船で食料の奪いあいでよく生き残れたな。」
大翔は生存者であるジョン・コビンに質問する。大翔は思っていた。ジョン・コビンという男(惑星人(ネヴィト))はどうみても食料の奪いあいの殺しあいで生き残れるようなタイプではない。ガッシリとした体型ではなく。どちらかといえばひょろりとした知識系の人間である。
「こ、ここ、コンテナフロアのこ、ここ、コンテナの陰にず、ずず、ずっと、か、かか、隠れていたからね。そ、そそ、そのおかけで、た、たた、助かったんだよ。」
生存者ジョン・コビンはたどたどしく説明する。
ぶいいいいい~~ ピポッ
物質船の2階に到着しエレベーターの扉が開かれる。
ガラララ
「きっ!?キィ~!!。」
ムムは突然ぴょんと跳び跳ね。咄嗟に俺の足にしがみつく。小さな白い獣耳が恐怖でぶるぶる震える。
「これは·····。」
エレベーターの扉が開かれ。その目にした光景に俺は愕然とする。
物質船の2階廊下には死体という死体がまばらに壁越しに横たわっていた。しかも死体はすでに腐敗というよりは水分や栄養が採られたかのようにカピカピに枯れ。肌黒くミイラ化していた。しかもそのミイラ化した船員とも思われる身体から蔓のような枝木の植物が肩や頭部、口から生えているのだ。
「これは一体どういことだ!?。」
殺しあいで死体が船内にあることは大翔は覚悟していた。だが何故食料の奪いあいで死んだ死体がミイラ化し。尚且つ蔓のような植物が生えているのか理解できない。
「ひ、酷い惨状だったよ。ぜ、ぜぜ、全員が、かか、限りある食料でこ、ここ、殺しあったんだ。ぜ、ぜぜ、全員し、しし、死んでし、しまった。」
唯一物質船の生存者であるジョン・コビンは険しげに説明する。
「何故死体がミイラ化しているんだ?。植物も死体から生えているようだが···。」
「さ、さあ?。み、みみ、ミイラなのはせ、せせ、船内のく、くく、空調のせ、せいかな?。え、えエアーサーキュレイションり、りり、リファレン(空気循環精製機)のちょ、ちょちょ、調子が、わわ、悪いのかも····。」
「そうか·····。」
惚けているという様子でもない。ただジョン・コビンの挙動不審な態度が素であるかどうか判断できないだけだ。
廊下の壁に横たわる死体から生える植物を大翔は遠くから観察する。
ミイラ化した人間と植物が一体化しているというよりは死体となってミイラ化した人間から植物が生えているようだった。どうみても自然発生したとは考えにくい。何らかの種子が死体に紛れ込んだとおもわれる。ネテリークから地球にある冬虫夏草という植物の生態を教えて貰った。昆虫類に寄生する菌糸の植物だ。この宇宙に寄生タイプの植物は確かにあるらしい。知らず知らずうちに植物に寄生され成長のために栄養を採られるそうだ。ただ寄生タイプのような植物は栄養の無いものには寄生しない。特にカピカピのミイラ化した人間の死体などには栄養にもならないから寄生しないのだ。
俺は少し疑念を抱く。
植物が寄生したのはミイラ化した前か後か。
ミイラ化した後という可能性はない。栄養の無いものに植物は寄生しない。しかし前というならそれもおかしい。食料の奪いあいで殺しあったならいつ植物が寄生した?。
大翔は思考を巡らせミイラ化した死体に生える植物が寄生タイプではないと判断する。
そう結論づける。
寄生タイプならここにいる生存者ジョン・コビンもただではすまないからだ。寄生タイプの植物は防菌服を着てやっと防げる代物だ。ならこのミイラ化した死体に生える植物は別の植物の生態系を持つ可能性がある。
俺は恐る恐る蔓のような枝木の植物が生えるミイラの死体に近づく。ミイラ化した死体は苦悶の表情をしていた。名前が書かれたプレートやタグのようなものはない。ただ違和感があった。廊下の壁に横たわるミイラ化した死体には服装に一切の統一性がなかったのだ。普通の大型船の乗組員は制服が一身に統一されているはず。制服の違いがあるとすれば働く部署違いだろうか?。。それにしては服装の格好がまるで違い過ぎる。部署違いというよりは船違いのようなそんなレベルである。
「ジョン。ここの物資船は他の船の船員はいないのか?。」
「い、いい、いないよ。僕達だ、だだ、だけだったよ。」
「········。」
ジョン・コビンは呂律の回らぬ返答を返す。
大翔は険しげに眉を寄せた。
嘘をついているのか?。惚けているのか?どちらだ?。ジョン・コビンは物資船に自分達以外船の乗組員はいないといった。しかしムムの報告では他の船の乗組員のタグがこの物質船に集まっているという。
廊下にミイラ化して転がっている死体はどうみてもここの乗組員のものではない。別の船の乗組員だ。辻褄があわない。
俺は少し警戒レベルを上げた。
ジョン・コビンが嘘をついている可能性があるからだ。だが何故嘘をつく必要性がある?。
矛盾点を問い詰めることもできるが。それで何かしらの危険な行動を起こしかねない。
今は情報が少ない。この船の現状、乗組員の状態、ジョン・コビンの内容は嘘か真実か見極めなくてはならない。
ミイラ化した死体の口から生えている蔓を俺は満遍なくじっくり観察する。ふと口から生えていた蔓に小さな茎のようなものがついているのを大翔は気づいた。細い茎がたれている。何かがもぎ取られた形跡がある。
何だ?。
何かがミイラ化した死体の植物から実っていた形跡があった。俺は毎日植物好きのネテリークから植物の採取や育成をかかさず関わっていたから解る。このミイラ化した死体には確実に何かが実っていたのだ。
何が実っていた?。
コンテナフロワで嗅いだ甘い香り。死体に生える蔓の植物。大翔はネテリークから何か重大なことを教えられていた気がする。しかし頭に何かがつかかって肝心なことがおもいだせない。
「め、めめ、メインぶ、ぶぶ、ブリッジにい、いい、行こう。」
ジョン・コビンは俺がとどまってミイラ化した死体に観察していることにしびれを切らしのか声をかけてきた。
俺はスッと腰を上げる。
「ああ···。」
俺は返事を返す。ジョン・コビンの言葉に素直に応じる。
船の指揮系統であるメインブリッジに到着する。メインブリッジにはミイラ化した死体はなかった。しかし操作パネルは動作しており。確かにメインコンピューターは生きているようである。
「ジョン・コビン。ここでの監視モニターとかで船内状況とか解るか?。」
「ま、まま、待ってくれ。せ、せせ、船長の操作盤ならで、で、できるかも。」
ジョン・コビンは中央に位置にある船長用のパネルを操作する。
ぶいーん ぶいーん ぶいーん
次々ホログラム型のモニターが空間上に開かれる。
医務室、ボイラー室、機関室、厨房、食堂の様子が写しだされる。そこにもミイラ化した死体があった。皆阿鼻叫喚するほど大口を開けて。蔓のような植物が生やしている。
食料の奪いあいで殺しあいしたというのに死体はまばらだった。どちらかと言えば死体は一つ一つ個室などに多かった。争った形跡もない。
スッ
「んっ!?。」
ホログラム型の一つのモニター映像に素早くろい何かが横切る。場所は厨房フロワにある食糧保管庫か。
「厨房フロワの食糧保管庫に何かが横切ったようだ。確認してくる。この物質船の見取り図はあるか?。」
「こ、ここに。」
ジョン・コビンに船の見取り図と思われる電子パネルを貰う。
「感謝する。」
俺はジョン・コビンから電子パネルを受け取る。
まだジョン・コビンという惑星人(ネヴィト)に疑念を抱いてはいるが。今は冷蔵倉庫を確認するのが先だ。
「キィ、大翔気をつけて!。」
「き、危険なも、もも、ものがいたらす、すす、直ぐに逃げてく、くく、下さい。」
「じゃ、行ってくる。」
俺はメインブリッジにムムとジョン・コビンを置いて厨房フロワの冷蔵倉庫へと向かう。
俺はジョン・コビンから貰った物質船の見取り図を確認する。
「厨房フロワは3階か。」
俺は横たわるミイラ化した死体の廊下を横切る。
動く気配はない。動いたらゾンビ映画になるだろうが。
エレベーターに乗り込む。エレベーターの操作パネルに3階のボタンを押す。
ぶうううう
エレベーターは3階へと上がっていく。
メインブリッジにて監視モニターから大翔の様子をムムとジョン・コビンは確認していた。
ムムは小さな白い耳をとじて心配そうにみている。ジョン・コビンはもぞもぞと制服の懐から何かをまさぐっている。
「む、むむ、ムムさん。」
挙動まじりの呂律の回らぬ言葉でジョン・コビンは声をかける。
「キィ?。」
ムムはジョン・コビンに視線を向けると首を傾げる。
「す、すす、すみません。こ、ここ、コンテナふ、フロワでわ、わわ、忘れものしたみたいで。い、いい、一緒に取りにき、きき、きてくれませんか?。こ、この船のメンテに重要なも、もも、ものなんで。は、はは、大翔さんにとってもや、やや、役にたつものです。」
「キィ~。」
ムムは思い悩む。目の前ホログラム型の監視モニター映像には今大翔は厨房フロワに横切った影を確認しに行っている。
少し考えこんだムムだったが。大翔にとって役にたつものと聞いてキィと声をあげて頷き承諾する。
「ではい、いい、行きましょうか。直ぐにお、おお、終わりますので。」
ジョン・コビンに案内され。ムムはコンテナフロワへと向かう。
3階厨房フロワ
大翔は物質船3階の厨房フロワに到着する。大型宇宙船であって食堂と厨房の設備は充実していた。ランディル文明の遺産であり小型宇宙船の銀龍号には調理する設備はない。ほぼ保存食か未開惑星でキャンプする形だ。いずれは中型か大型宇宙船を買い取って調理する場所も設けたいとは思っている。
食堂は静かだった。ミイラ化した死体は食堂には横たわっていなかった。矢張死体は多目的な広い部屋よりは個室の部屋の方が多い気がする。気のせいだろうか?。
食堂を素通りし厨房フロワに回る。厨房も広い。ここで物質船のコック達が乗組員達のための食事を作っていたのだろう。
冷蔵倉庫はあの奥か。食糧保管庫は食材を腐らせないように保管する大型宇宙船だけにある特殊な倉庫である。コールドタイムストレージ(時間凍結保管庫)も内装しているらしい。
厨房フロワの食糧保管庫の扉の前に立つとゆっくりドアの掴み押しタイプのノブに手をやる。ベルトのホルスターからマシアルナノガディックV4だけを取り。右手でグリップを握る。セーフティは解除している。何が出てきても対処できるようにする。左手で掴み押しタイプの扉の取っ手を握る。一気に押し出す。
バン!
「誰かいるか!。」
俺は食糧倉庫内で声を張り上げる。
食糧保管庫の食糧は確かに不足していた。
棚にあまり食材は置かれていない。
ささ
黒い影が大翔の目の前を横切る。人間というよりは動物のような動きをしている。生存者ではなさそうだ。
ぎぃええ~
高めの呻き似た声を発せられる。
とたとたとたとたとた
その動物は四本脚ではなく八本脚であった。ぎらつく目が四つ。突き出た鼻から左右6本のひげが伸び。前に伸びた口から上下に四本の発達した鋭い前歯がカチカチと音を鳴らす。皮膚は毛のない肌色をしいた。
「モーズラッドだと!?。」
モーズラッド、通称宇宙ネズミ。ネテリークから宇宙船の食糧庫には必ずと言っていいほど時折モーズラッドという宇宙ネズミが出没するらしい。何処から入ってくるのか解らない。ただモーズラッドが食糧倉庫に出没したなら10匹はいると思えと教えられている。宇宙危険度C級指定の害獣である。モーズラッドを放っておけば必ず食糧を根こそぎ喰われると言われ。発見したら即処分する。体型は中型サイズであり。気性は獰猛且つすばしっこい。
ぎぃええ~~ぎぃえええ~~
高めの呻き声のような鳴き声を発しているがどうも様子がおかしい。何か酔っているというかラリっているようなそんな雰囲気である。
何か変だな。
俺はモーズラッドの状態に違和感を感じた。瞳の焦点が会わず。口元から涎をだらだらと枯れることもなく流れだしている。
ぎぃえええ~‼️ びょん!
モーズラッドは俺に向かって跳び跳ねる。
襲い掛かるというよりは暴走してなりふり構わない感じである。
「くっ!。」
俺は回避もせずに空中を跳ねるモーズラッドにマシアルナノガディックV4の銃口をむける。
食糧保管庫なので多分可燃性はないはずだ。大翔はモーズラッドの肌色の体にサイトを狙いトリガーを引いた。
ドン‼️
ナノ製の弾丸がモーズラッドの胴体に直撃する。
バアッーン!
「何っ!?。」
胴体に直撃したと思ったら突然胴体部分が何故か弾けとんだ。
ボトボトボト
食糧保管庫の床にはモーズラッドの胴体を撃ち抜かれ弾け飛んだ肉片が散らばっている。
「撃ち抜けるのは解るが。何で爆発したみたいに飛散するんだ?。」
ほぼ接近したショットガンのような威力である。ナノ製の特殊な弾丸ではあるが。爆発して飛散する性能はない。
「·······。」
マシアルナノガディックV4をベルトホルスターにしまう。
俺は恐る恐る胴体部分から離れていったモーズラッドの顔部分に近付く。
▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩
宇宙危険度C級指定害獣モーズラッドと遭遇した大翔だったが。それを難なく撃退ししのぐ。一方物質船唯一の生存者であるジョン・コビンと一緒にムムはコンテナフロワへと向かっていた。
次回 社会不適合者の宇宙生活 上等‼️
第16話
『飢えの末路』
不良少年は荒波の海へと飛び込む······
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