第25話 帰りの一杯

「はあ···はあ····。やった···ぞ。」


ドサッ

大翔は力尽きてその場に倒れこむ。全身傷だらけの怪我を負いながらも何とか豚骨ラーメンの材料である地球産の豚に勝利する。


「キ、キィ、大翔っ!。」


トタタタタタ

ムムは心配そうに大翔の元に駆け寄る。


「すげーな坊主。まさか素手であの凶暴化した豚を倒すなんて。」


牧場管理者オーデンは素直に感心する。


「はあ、はあ·····」


オーデンは大翔と命がけのタイマン?をして気絶している豚に銃の形をしたものを撃ち込む。


ずしゅん ビリビリビリ


「それは?。」

「ショックガンだ。体内に電気を発して仮死状態にする電気銃だよ。家畜の肉を鮮度を保つなら殺すよりも仮死状態したほうがいいからなあ。まあ、今の世の中には家畜保護団体みたいのができてな。残酷過ぎる野蛮だといって猛抗議受けたりもする。喰らうために育てているのに残酷も何もないだろうにとは想うけどな。そういうなら逆におめえら食べ物を粗末にすんじゃねえ!と言いたい。あいつら家畜保護団体という組織は家畜保護とうたいながら逆に食べ物である肉や野菜を残しまくってるんだよ。ふざけた話だよ、全く。」


牧場惑星アラマキバの牧場管理者オーデンは不機嫌に鼻をならす。

どうやらその家畜保護団体とやらにかなりの憤りを感じているらしい。

こちらにもそういったクレーム団体やら反対組織が存在するらしい。あまり関わりたくはないが。宇宙冒険者として惑星探索にもそういった問題がついて回るのかもしれない。

出なければ宇宙冒険者であるロドルのような悲劇も訪れなかっただろう····。


·····難しい話である。


利益をとるか?環境をとるか?生態をとるか?倫理をとるか?道理をとるか?。


どちらが正しくどちらが間違っているか俺には解らない。資源をとることで裕福にもなるものも確かにいる。逆に生態系を壊して不幸になるものもまた存在する。多分宇宙冒険者の惑星探索、資源探索というものにはこの問題が付いて回る。師であるネテリークから教わった。植物に関して宇宙冒険者の惑星探索は自然破壊となんらかわらないと。資源を採取しつづければその惑星の生態系はいずれ崩れ環境が破壊されるのだと。だから宇宙冒険者がエヴェルティア(未確宙領域)で発見した未開惑星の環境や自然の未来、行く末さも全てその発見した一人の宇宙冒険者によって委ねられてしまうのだ。


···········

これに関しては答え出る問題でもないな。その時にならなきゃ解らない。

俺もまたいづれエヴェルティア(未確宙領域)で初めて未開惑星を発見したときこの問題に直面するのだろうか?。



「凄いです!。大翔さん!!。私、貴方の姿に感激致しました。」


突然、ガイド(案内人)エヒィラヒィビが大翔に接近する。牛のような先っちょに毛だまりのある尻尾を嬉しそうに激しくふりまくる。


「あ、ああ···。」


な、何か近くない?この惑星人(ネヴィト)。


「私、強い人が好きなんです!。私は貴方に強い人と認定しました。だから私と付き合って下さい!。」


何かいきなり熱烈な告白を受けてしまったのだが。色恋沙汰に疎い大翔であっても来て早々愛の告白を受けるのは大翔でも矢張変だと思う。

この銀河では普通のことなのだろうか?。



「強い人って宇宙冒険者の中で地球の惑星人(ネヴィト)は生物的にも生態的にも最弱だと聞いているが···。」


惑星人(ネヴィト)の中で肉体的に惑星環境に耐えられないのが地球の惑星人(ネヴィト)だと聞かされている。故に宇宙冒険者で地球の惑星人(ネヴィト)は最も不向きな種族なのだと。未開惑星探索において惑星環境に適合できる肉体を持つことは確かに有利である。寒い環境や熱い環境、猛毒な環境でもそれに耐えうる肉体があればスムーズに未開惑星を探索できるであろう。だが俺はそれが別に羨ましいとは思わない。俺は宇宙冒険者にあるスリムを求めているのだ。命を危険に晒す危機的状況こそ俺が最も求めるスリルである。だからこそ地球の惑星人(ネヴィト)が宇宙冒険者として不向きな職業だとしても別に俺は文句を言うつもりはない。



「そんなことは関係ありません!。私はあんな強くで獰猛で狂暴な豚に立ち向かっていく貴方に惚れたんです!。」


豚って強い分類に入っていたっけ?。

確かにここの牧場で戦った野生化した地球産の豚はほぼ猪だったが。


「キィーーーー!。」


ムムの白い毛が逆立ち。大翔の前に触れさせないようにガードする。

脚をエヒィラヒィビに目掛けて空を何度も蹴り付ける。


「キィ!大翔に悪い虫がつく!。シッシッ!シッシッ!。」


ムムはおもいっきりシッシッとあっち行けみたいな感じで何度もエヒィラヒィビに向けて小さな白い脚を蹴りあげてくる。


「あら?先約がいたのですね。残念です。」


エヒィラヒィビはムムの行為に何か察したのか素直に身をひいた。


何だかなあ~。

俺は微妙な顔を浮かべる。

牧場管理者オーデンに地球産の豚を切り分け解体して貰った。肉と骨を分け腐る心配のないコールドタイムストレージ(時間)に入れる。


とりあえず地球産の豚を入手することに成功したのでそのまま惑星レイケットに戻ることにする。

豚楽亭のラーメン亭主人に豚肉と豚骨を渡して任務完了だ。これでやっと念願の豚骨ラーメンが食べられる。かなり苦労したけれどラーメンはへとへとで疲れて帰る時にに食べるのが一番上手いのである。3日間待つけれど苦にはならない。


      惑星レイケット

        豚楽亭


ガラガラ


「おっ!?。もう帰ってきたのか?。」

「お帰りなさい。」


豚楽亭のラーメン主人とその奥さんが出迎えてくれた。厨房で仕込みの準備をしている様子であった。


「ああ、あんたの養殖していた地球産の豚。やっぱ野生化してかなり手間取ったぞ。」

「そうか、世話かけたな。そのかわりとなんだが。飛びっきりの豚骨ラーメンを用意するよ。」

「楽しみだ。」


「じゃ、これが解体してもらった豚肉と豚骨だ。コールドタイムストレージ(時間凍結保管庫)専用のクールボックスに入れてある。」

「おお、あんがとな。」


豚楽亭主人セルゲヌは嬉しそうにコールドタイムストレージのクールボックスを受けとる



「で、これから仕込みと調理にとりかかるが。これからどうするんだい?。豚骨ラーメンができるのに3日は懸かるぞ。」

「当然レイケットに滞在するよ。帰るのも億劫だし。」

「いいのか?。」

「ネテリークににはお使いをすました後だが。特に期限を設けていなかったからな。大丈夫だろう。」


遠出のお使いを頼まれたんだ。目的のラーメンを食えないまま帰ってたまるか。


「わかった。仕上がったら連絡する。」

「頼む。」

「それとすまんがラーメンお持ち帰りもできるか?。」


本来ならラーメンのお持ち帰りなど出来ない。出前という手もあるが。生憎ネテリークの住む惑星は辺鄙な宙域にある未開惑星である。住所があるかどうかも怪しいところである


「ああ、出来るぞ。うちは生憎出前をやっていないんだ。銀河の遠出の連中には申し訳ないがお待ち帰りをさせている。コールドタイムストレージ(時間凍結保管庫)さえあればいつでも腐ることも冷めることもなく熱々の豚骨ラーメンを保つことができるからな。」

「そうか、なら1ヶ月分頼めるか?。」

「おいおい、1ヶ月もラーメン食べるつもりかよ?。」


豚楽亭の亭主は豚骨ラーメン1ヶ月分と聞いて呆れ顔を浮かべる。


「違う。俺の家には植物好きのネテリークというのがいて。いつも献立が野菜、植物全般なんだ。肉料理なくてな。」

「何か難儀な生活をしているだなあ。」


食生活が植物全般と言われ豚楽亭の主人は大翔に深く同情する。


「別に植物全般の料理嫌というわけではないが。どうしてもあきてしまうんだ。」


一年間も植物料理を食べてみろ確実に飽きるだろう。あきないというのであるならそいつは生粋のベジタリアンである。


「解った。」


豚楽亭主人セルゲヌにラーメンの約束を取り次いだ。


        3日後


約束の3日が立ち。大翔は約束通り豚楽亭の店に出向く。3日の間は惑星レイケットの周りをブラブラしていた。北西銀河ラビングのエヴェルティア(未確宙領域)を探索したかったが。どうやら宇宙冒険者には管轄というとのがあり。北西銀河ラビングの探索には北西銀河ラビングの宇宙冒険者ギルド本部に許可を得なければならないようである。地球教育機関(アースエジュケイシュン)の目もあり断念せざる得なかった。どうやら北西銀河ラビングではアースエジュケイシュン(地球教育機関)の活動が活発のようであった。下手なことをすると俺の存在がバレかねない。何処まで行っても邪魔な組織である。

教育の面に関しては優秀だろうが。いざ星の大海原で冒険する若者にとって邪魔以外なにものにでもない。ついでに三日間戻らなかったせいで通信で連絡をとっていたネテリークにこっぴどく怒られる羽目になってしまった。ラーメン食べるまで帰らないと断固拒否したら。前の件の関してネテリークはまだ根に持っていたようで帰ったら強制的に薬草積みの手伝いをさせるそうだ。それまで宇宙冒険者としての活動も一時停止するそうだ。正直大人げないとは思うが。保護者で身元引き受け人などだから文句は言えまい。


ガラガラ

コトコトコト

「おっ!?来たようだな。」


豚楽亭の引戸の玄関扉を開けると豚楽亭主人セルゲヌが3日間煮込んだであろう豚骨スープの入った圧力鍋を煮出しながら待っていた。


「もう出来たのか?。」

「ああ、万事オッケイよ。」

「さあさあ、どうぞお入り下さいませ。直ぐにラーメンをご用意致します。」



豚楽亭のおかみさんは何処か嬉しそうである。

大翔とムムは厨房近くにあるカウンター席に座る。

幅広いテーブル席もあったが。どうしてもラーメン食べるならカウンター席で食べないと食べた気がしないのである。こだわりというわけではないのだが。


「約束通り豚骨の1ヶ月分のラーメンを圧縮コールドタイムストレージ(時間凍結保管庫)詰めこんといたぞ。コンパクトだから持ち運びに楽なはずだ。」


おかみさんから肩にかけるボックスを受けとる。


「感謝する。これで暫くは喰いに困らんよ。」


大翔は素直にお礼を告げる。

いざというときは宇宙探索や惑星探索の食糧にするつもりだ。栄養価も高いし。コールドタイムストレージ(時間凍結保管庫)に入れているから腐る心配もない。


「そんじゃ、この惑星レイケットの本場の豚骨ラーメンを味わってれ!。」


セルゲヌは煮込んで熟成させた豚骨スープをラーメン容器に入れる。

麺を熱湯に使っていた網をセルゲヌはさっさと水を切り。豚骨スープが入ったラーメン容器に入れる。続いてチャーシュー、メンマ、なると、もやし、味付け玉子、刻んでいない大きな海苔までまるごと麺の上にいれていた。ここまで地球産の食材を集めるなんてどれだけの労力を費やしたのだろうか?。ネテリークから植物を学んで解ったことだが。別の銀河の植物を他の銀河で育てることはかなり難しいらしい。しかも地球環境のような恵まれた土地を持った未開惑星などエヴェルティア(未確宙領域)ではそう簡単に発見できるものではない。そんな恵まれた土地で育つ植物を限りある資源と土地で生産することは容易でないのだ。それを可能にしたということは。この惑星レイケットに住む豚楽亭の主人はラーメンに対する執念と熱意は尋常ならざるものを感じる

矢張大翔はおもってしまう。このラーメン店の廃業は勿体ないと。惑星レイケットの住人が裕福になり。高級な料理をたらふく食えるようになってもこのラーメン店の味はここしかたべれないのである。ラーメンは高級料理ではない庶民の食べ物である。しかし高級料理に勝らないと誰が言える。

宇宙冒険者として資格を得たならヘ北西銀河ラビングに立ち寄っては常連になりたいくらいである。


「ほい、できたぞ。地球直伝、豚骨亭特製豚骨ラーメンだ。」


コト、豚骨ラーメンが入ったラーメン鉢がカウンター席に置かれる。ヘクサーギャラクシィ(六角銀河)でこの近代的な技術を持ちながらも敢えて陶器製のラーメン鉢にこだわるとは豚楽亭の主人はかなりおつである。


「ではいただきます。」

「キィ、いただきます。」


大翔はラーメン用のスプーン、レンゲを使い先ずは豚骨ラーメンの豚骨スープの味を確かめる。


ずずず


うん、豚骨がダシきいており。コクのある濃厚な味だ。熱々のスープながらクリーミーに口元に広がっていく。そして

続いて大翔はチャーシューを口に含む。

肉汁たっぷりの豚肉を噛み締める。

チャーシューもうまい!。よくチャーシューはラーメン店では別個で独立させてだしているところがある。麺とスープに合わせずにただラーメンはラーメン。ラーメンの具材は具材ととしてと区分けしてるのだ。故に別個にされたチャーシューはパサパサ感があって大翔は正直好きにはなれなかった。

しかしこのラーメンはそうじゃない!。チャーシューのパサパサ感はなく。脂身があるチャーシューが濃厚な熱々の豚骨スープを合わさり上手く調和し溶け合っている。

次に大翔は麺の上の隅にある味付け玉子を箸で掴み口にまるごとふくむ。。

うむ、味がすみずみまで染み込んだ見事なまでの味付け玉子である。全く申し分ない。

続いて大翔は気になっていた刻んでいない大きな正方形の海苔を箸にとる。それを豚骨スープに染み込ませ。豚骨スープに染み込んだ濡れ濡れとなった海苔を大翔はそのまま口に頬張る。

モグモグと海苔の味を深く確かめる。


ああ···濃厚な豚骨スープに染み込ませた海苔の磯の香りが上手く豚骨スープと絡みあっている。磯の香りと豚骨スープがより一層食欲をそそらせてくれる。

そして····

大翔は麺を箸で掴み伸ばしてみる。

麺はまっすぐ伸びるものではなくジグザグにうねった凹凸のある麺であった。

これは縮れ麺だな。細麺でもなければ太麺でもない。麺の中では俺はこのちぢれ麺が大好きである。ちぢれ麺をよく使うのは東北地方に多いと聞かされている。よく麺は細麺、太麺の方がスープの浸透性が深く。染み込みやすいと聞く。しかし俺としては唯一縮れ麺こそがより一層スープをためこませる麺だと思っている。コシの歯応えのある麺にちぢれ麺の独特の凹凸部分に付着する豚骨スープの味。


ずずず~~ずず~~ずずず~~

大翔はおもいっきり豚骨スープに入ったちぢれ麺をすする。


あああ·····麺とスープが相性がいい。何一つ違和感がない。ちぢれ麺が口の中ではね。麺に付着し溜め込んだ豚骨スープがぶわあと口のなかにひろがる。正に麺とスープが一体化している。


「キィ、大翔、美味しいね。」


隣でムムは美味しそうに豚骨ラーメンをすする。すするというよりはすすって口元でよく噛んでいる様子である。カワウソのような食べ方である。よく知らないが。


「ああ····これ程のラーメンは滅多にお目にかかれないよ。」


大翔は素直に豚楽亭の豚骨ラーメンを誉める。


「·········。」

「あんた、どうしたんだい?。」


美味しそうに二人が食べている姿に豚楽亭の主人セルゲヌは気難しげそうに眉を寄せる。ふと圧縮鍋に入った豚骨スープをお玉ですくい。ほんの数滴ほど小皿に移して。そのままセルゲヌは小皿に移した豚骨スープをぐびっと口に含む。


「·········。」


セルゲヌの脳裏に若かりし頃の修行時代の記憶が蘇る。



▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


生きる意味とは何か?働く意味とは何か?

それを問うように惑星レイケットの住人は再び生を噛み締める。


次回 社会不適合者の宇宙生活 上等‼️


第26話

     『生き甲斐』


不良少年は荒波の海へと飛び込む······


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