第2話 ミスティックファイブ(五つの謎)
「このアレイストアという銀河は中央銀河と呼ばれる銀河で。他の政府組織に所属しない独自の進化を遂げた銀河なのだよ。アレイストアは六つの小さな銀河に囲まれた大銀河だ。本来なら銀河の隣に銀河があればそれを吸収されて対消滅するのだが。このアレイストアは他の銀河を吸収せずに何億年もその均衡を保っている。故に6つの銀河に囲まれたこの不思議な宇宙領域をヘキサギャラクシー(六角銀河)とも読んでいる。」
俺はネテリークからこの宇宙の成り立ちを坦々と語る。
「大翔、この銀河の宇宙船の燃料が何か解るか?。」
ふいにネテリークは俺に問いかける。
「さあ、俺は優等生でもなかったからなあ。真面目に授業を受けたこともない。」
俺は興味無さげにこたえる。
もし学校の授業がスリルと関係していたならば真面目に受けていたかもしれない。
「他の宇宙、他の銀河の宇宙船の燃料はエリクシル光石というものだ。」
「エリクシル光石?。」
「水素と結合すると化学反応を起こし。膨大なエネルギー粒子を放つ不思議な鉱石だ。」
「はあ。」
特に興味を引くような事柄ではない。宇宙船の燃料が何なのか知ったところで俺としてはどうでもいいことだ。
ただ未知の宇宙に旅立つなら宇宙船の燃料も知っておいたほうがいいだろう。これから宇宙に旅立つとして貪欲に宇宙の知識は吸収したい。
例え興味無くてもだ。
「だがこのアレイストア銀河の燃料は違う。」
「違う?。」
俺は不思議に眉を寄せる。
「まあ、銀河が違えば使っている燃料も変わるってことですか?。」
車や飛行機が同じ燃料なわけではない。機体によって違うなら銀河にとっても使っている宇宙船の燃料が違っていても可笑しくはない。
「いや、全ての銀河で使われている宇宙船の燃料は全てエリクシル光石だ。燃料、燃費、馬力、性質、環境にもよい。どれをとってもエリクシル光石に勝る宇宙船の燃料はないよ。」
「?、なら何故アレイストア銀河にエリクシル光石が使われてないんですか?。」
銀河全体がエリクシル光石の燃料を使っているのにアレイストア銀河だけ使っていないのはおかしい。考えるとしたらエリクシル光石の燃料に勝る何かがこのアレイストア銀河にあるということだ。
「無限エネルギー回路メビウス。」
ネテリークはとある単語を呟く。
「燃料ではない。その名の通り部品でいう回路にあたる。メビウスは古代遺跡から発掘されたオーパーツなのだよ。それらがこの銀河の宇宙船の動力源になっている。」
俺はとある違和感を感じた。メビウスの発言に回路によって燃料が必要ないとネテリークが言ったのだ。機械に詳しくないが。どうみても話の内容がおかしい。
「それ、可笑しいですよ。馬鹿な俺でも解る。乗り物には必ず燃料は必要だ。エンジンであろうがモーターであろが元となる燃料があるはずだ。回路はどうみてもパーツ類に含まれるもので燃料に当たらない筈だ。」
部品のパーツだけで動く乗り物なんて聞いたことがない。人力やソーラーなら解るが。
「無限エネルギー回路メビウスは言葉の通り無限にエネルギーが湧く回路という意味だ。無限にエネルギーが湧くのだよ永遠になあ。」
ネテリークは含み笑みをみせる。
俺はそんなネテリークの仕草に怪訝に眉を寄せる。
「何処からかエネルギーが湧いているんですか?。」
「そう、それだ。」
ネテリークはピシッと指を指しニヤリと不適な笑みを浮かべる。
「ミスティックファイブにエネルギーという項目があるだろう。」
「まさか····。」
俺ははっと気づく。
「アレイストア銀河のミスティックファイブの5つの謎の一つが無限エネルギー回路メビウスが何処からエネルギーを引き出しているかだ。メビウスがエネルギーを引き出す効果範囲はこのアレイストア銀河とそれを囲む6つの銀河圏内。ならば何処かにエネルギーを送る機関この広大なアレイストア銀河圏内にあるということだ。それを宇宙冒険者達が躍起になって探している。そのエネルギーを送り出している機関を見つけることができれば一攫千金も夢ではないからなあ。エリクシル光石の大鉱脈にも勝る富が手にはいるだろう。銀河圏内に行き渡らせるほどのエネルギーだ。それは予想以上に膨大な筈だ。」
俺はごくりと緊張で喉唾を飲み込む。
ミスティックファイブというこのアレイストアの銀河の謎に俺は魅力を感じたからだ。未知に対しての探求心。俺の胸の中に熱いものをこみ上げ膨れ上がってゆくのを感じた。
そしてネテリークからミスティックファイブとネテリークが宇宙冒険者だった頃の冒険の話を聞いた。
アレイストア銀河に伝わる古の高度な文明、ランディル文明、そしてその文明から忽然と姿を消したとされる古代人パピノア。惑星をも木っ端微塵に破壊するほどの兵器メセイス。そしてアレイストア銀河の始まり起源。それらの謎を追い求めるこの銀河の宇宙冒険者達の数々の冒険淡。俺は乾いた心が満たされるのを感じた。俺はそれを強いものとの喧嘩や恐喝することで埋めていた。だがそれに勝る俺が追い求めるスリルを今ようやく巡り会えたのだ。
「キィ~、大翔笑っている。」
ムムの白い獣耳が跳ねる。
「矢張男の子だな。冒険に憧れるか。」
ネテリークは含み笑いをする。
「嗚呼、やっと俺が求めるスリルが味わいそうだ。ミスティックファイブ、良いじゃねえか。中々のスリルだぜ!。ネテリーク、俺はミスティックファイブ5つの謎を全て解明して見せる!。だから俺に宇宙冒険者の知識を教えてくれ!。頼む!。」
俺は生まれて初めて丁寧にお辞儀をした。
じっとその姿をネテリークが見つめる。
「やれやれ、受け入れ先の惑星で更正させるのが目的なのに。逆に非行に手を貸すとはねえ。宇宙を飛行するだけに。」
ネテリークは絶対に受けることのないダジャレをいいはなつ。
俺は顔を上げ微妙に口がひきつく
「解った。どうやらこの惑星はお前にとって小さすぎるようだ。宇宙冒険者として知識も教えるが。更正させるための教育も一緒にするが問題ないか?。」
「嗚呼、それはついででいい。」
「更正がついでか····。」
ネテリークははあと何とも言えぬため息を吐く。
「では毎日私の薬草つみに付き合うように。宇宙冒険者の知識はそのつど教えよう。」
「感謝するぜ。」
俺は普通に頼み込んで宇宙冒険者の教えを請うことになった。
アレイストア銀河にある5つの謎、ミスティックファイブ。絶対に俺はそれを全て解明させる。血が滾るぜ。
大翔の口元がニヤリと笑みを浮かべる。
「良いスリルだ·····。」
ザッザッ ジョリジョリ
宇宙冒険者の知識を得るために興味の無い薬草つみを手伝うことになった。
雑草と一緒に多分他も薬草なのだろうが。地面に根を張った小さな紫の花のついた薬草を小型のシャベルで丁寧に根ごと地面を掘り抜いていく。
ギュイ キィ ギュイ キィ
コジョ族のムムも小さな毛並みの手で器用にを掘りながら地面に根をはる紫の小さな花のついた薬草をとっていく。
ジョリジョリ
「この薬草何ですか?。」
「知らないのか?。この薬草は地球原産の植物だ。キランソウ、別名医者倒しや地獄の釜の蓋とも呼ばれている。」
「医者倒し?地獄の釜の蓋?。」
やけに物騒な二つ名を持つ薬草だなあ。毒でもあるのか?。俺はキランソウを疑わしめな眼差しで見つめる。
「医者倒しは幾つかの説があるが。医者の商売をあがったりにさせてしまうほどの効能、効果を持つとされる薬草という意味合いにつけられたとか。地獄の釜の蓋に関しては地獄から湧いた悪いものに蓋をするという意味だそうだ。効能は収斂、解熱、高血圧、胃腸病、咳、去痰、下痢止め、健胃だなあ。」
「やたらありますねえ。」
ほぼ生活病に関して効果を持つようだ。ネテリークという異星人は本当に薬草に詳しかった。この買ったとされる惑星に植えられている植物も殆どが薬草であり。銀河中からかき集めたものらしい。わざわざ地球上原産の植物も収集する位だ。
ゴトゴト
料理は当番制になっている。料理の支度など幼い頃親の手伝いくらいだ。
ゴトゴト あちっ!。
焼けた鍋に少し腕を触れてしまった。触れた皮膚が蒙古斑のように赤く染まる。
「どうかしたのか?。」
「大丈夫だ。少し火傷しただけだ。唾つけときゃあ治ります。」
俺は火傷した腕の皮膚を舐める。
「それはいけない。水ぶくれになるし。後も残る。」
ネテリークは室内に飾られた植木鉢の植物から一枚の葉をとると釜戸の火で炙る。
炙った葉の皮を剥がす。
「これを火傷に貼るといい。」
「何ですかこれは?。」
俺は炙って皮を剥がした植物の葉をぺたりと火傷の痕にはる。
「アオキの葉だ。葉を炙って皮を剥がし皮膚に貼り付ければ火傷に効く。というより効果は火傷と凍傷なのだがなあ。」
「何ですか!その真逆の効能。」
火傷も凍傷も別物だろ。
「ああ、だからこそ植物は未知の神秘に溢れているのだよ。全く真逆の効能効果を持つ薬草もあるくらいだからなあ。私は自然の恵みであらゆる病気も治せると信じている。今は最先端の宇宙の医療技術やナノマシン医療である程度の病やウィルスにも対抗できるが。それでもいづれそれらの医療も敵わないウィルスや菌が新たに現れるかもしれない。だから私はこう考えるのだ。ウィルスも菌も自然から生まれたものならばその応えもまた自然にあるのではないかと。だから私はあらゆる銀河から植物、薬草をかきあつめたのだ。その植物の中にあらゆるウィルスや病気を治せる薬草をなあ。」
「見つかったのか?。」
「ああ、見つけた。いや、まだ手に入れてないというほうが妥当か。私は確かにその植物を見つけたのだが。どうやら私はその植物に嫌われているか。或いは縁が無いのだろう。何十年もこの惑星で暮らしていてまだ巡りあえていない。」
ネテリークな何処か儚げな力の無い笑みを浮かべる。
「それでその植物というか薬草はどんな効能効果を持つんだ?。」
「簡単に言えばどんな傷もどんな病気も治せて。どんなウィルスにも対抗できて治すことが可能な薬草かなあ。。」
「何ですか!?。そんな出鱈目な薬草。」
そんな薬草があったら医療崩壊するんじゃねえ!。そんな薬草に巡りあえたなら最先端の医療技術もナノマシン医療も意味なさなくなる。
「だがその薬草は希少でなあ。薬草じたい見つける事態奇跡に近い。」
「はあ。」
まあ、そんな出鱈目な効果効能を持つ薬草なんて簡単に手に入るわけないだろう。
・・・・・・・
「キィ、大翔こっちこっち。」
トタトタ
地を這うようにコジョ族のムムは原生林を駆ぬける。
コジョ族のムムとはこうして暇な時に一緒に植物の惑星を散歩している。といっても見るものが植物だけなのでスリルが全くもって足りない。
「はあ、植物が凄いと解るけど。やっぱり刺激が足りない。」
危険な生物や人喰い植物もいないのだからサバイバルにもならない。
「なんかどっかに遺跡でもあれば探検できるんだが。こんな辺鄙な惑星に古代の遺跡のようなものがあるわけねえし。」
俺はあぐらをかきはあと落胆に満ちたため息を吐く。
「キィ、大翔。遺跡入りたいの?。」
ムムはくりくりとした亜麻色の円らな瞳を向ける。
「嗚呼、遺跡探検なら暇な生活も少し刺激を与えるんだが。」
「キィ、あるよ遺跡。」
「あるのか!?遺跡?。」
「キィ、ムム見つけた。とっても大きな遺跡。」
「へぇ~そりゃあいい。」
俺は良からぬことを企む悪ガキのような表情をしていた。
「キィ、こっちだよ。」
トタトタトタトタ
ムムに案内され森林に抜けるとそこに巨大な石が積み上がってできた遺跡を目にする。
「これが遺跡か。」
石は正確に正方形に積み上げられ建物の形状をしていた。確実に人工物である。
「入ったことがあるのか?。ムム。」
ムムは白い毛並みの顔をふりふりと振る。
「キィ、無い。何かここくると嫌な気持ちになる。だからムムはあまりここには来ない。」
どうやらムムはこの遺跡が嫌いのようだ。もしかしたら危険が潜んでいるかもしれない。それなら上等だ。危険が潜んでいれば潜んでいるほど俺には刺激を与える。それはまだみぬスリルを味わえるということだ。
「ムムはここで待ってろ。俺はこの遺跡を探検する。」
「キィ、大丈夫?。」
「嗚呼、もし一時間戻って来なかったらネテリークに知らせていいぞ。」
まあそうなったらネテリークにこぴっとく怒られるだろうが。
叱られることは目に見えているが。それでも好奇心には勝てないものだ。
俺は視線を目の前の建つ正方形の石が積まれた遺跡に向ける。
「さあ~て、どんなスリルが味わえるか楽しみだな。」
大翔はニヤっと不適な笑みを浮かべる。
「良いスリルだ······。」
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スリルを求め謎の遺跡へと入る大翔。そこに大翔の予想だにしない出来事が待っていた。
次回 社会不適合者の宇宙生活 上等‼️
第3話 『古代遺跡』
不良少年は荒波の海へと飛び込む···········
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