第21話 姉妹喧嘩でもしてるのか?

「はー……」


 できーるだけ悩み事なんてしたくないと思いながら生きてきた。

 ただ、時には悩まないといけないことがある。


 人生ってのはむずかしい。やみを。


 そんなことを考えながらも、配信はしようかといつも通りゲームを立ち上げて配信準備をする。


「トイレトイレ……」


 先に行っとかないとな。

 配信中に行ったら「手洗った?」って言われるからな。別に言われてもいいけど。


「ふぃー……」


 ということで、俺がパソコンつけっぱなしでトイレに行って戻ってくると、


『せんぱーいせんぱーいせんぱーいせんぱーいせんぱーいせんぱーい』


 俺のパソコンが乗っ取られてた。


「……パソコン壊れた」


 これはウイルスのせいだな。間違いない。


 とりあえず『sumire_yasaka』とかいうプレイヤーがパーティに入ってきてるゲームも含めてシャットダウンしてみるか?


『せんぱーいせんぱーいせんぱーいせんぱーいせんぱーいせんぱーいせんぱーい』

「はぁ……こっちは今から配信するんだよ」

『楽しみです!』


 俺がボイスチャットで喋ると、八坂はそれだけ言って出ていった。

 配信の邪魔だけはしないファンの鑑。


 こう言うと八坂は出ていくと最近学びつつある。

 ただ、何故か今回は一瞬で戻ってきて。


『あ、新しいゲームのお話聞きましたか!?』

「ん……ああ、聞いた聞いた。その様子だと八坂も――」

『すみれで大丈夫です!』

「八坂も聞いたみたいだな」


 この前のオフコラボからやけに八坂から距離を詰めてきたがる。

 ただ、あれからずっと俺は一人で引きこもって配信してるから、一応まだ何も変なことは起こっていなかったりする。


 関わってないから変な噂も立ってないし。

 八坂が配信で「闇也先輩と付き合ってて~」とか言い出したらさすがに動くけど。


 今は一応まともに案件についての話をしにきたらしい。


『はい! ちなみに先輩はいつがいいんですか?』

「俺はいつでも空いてるから事務所行く日時はそっちで決めといてくれ」

『あ、いや、初デートの日時です』


 あ、まともじゃなかった。


「……じゃ、俺は配信するから」

『先輩!?』


 マイクの向こうで八坂は『約束したじゃないですか!?』と喚いてる。

 一週間ぶりで記憶が混濁してるらしい。


 あの時はどっちも慌ててたからな、仕方ないか。


『え、あれ、もしかして本当に行ってくれないやつですか?』

「いや……買い物なら行くとは言ったけど」

『あ。じゃあそれでいいです。行きましょう』

「妥協するなよ」


 その様子だと絶対デートのつもりで来るだろそっちは。


 というか、オフコラボの時にご褒美にあげる物が思いつかなかったから「一緒に買いに行こう」とは言っちゃったけど、今は全く外に行きたくないんだよな……。


 むしろ買い物に関してはどんな気分の時でも行きたくない。

 何とかして通販サイト巡りにすり替えられないか?


『だってずっとそれを楽しみに過ごしてたんですよ? もうデートは行ける気分だったんですよ? むしろもう行ってる気分です』

「ならいいだろ」


 もう行ったんだから。


『あれ、先輩冷たくないですか……? 私本気で楽しみにしてたんですよ……?』

「いやうやむやにする気はないんだけど……今は気分じゃないっていうか」

『それはうやむやにする気の人しか言わない台詞ですよ』

「うん」


 今一瞬、気分じゃないって言い続ければうやむやにできるかなって思ったけど。


 ただ、今がそういう話する気分じゃないんだよな……風無のこともあるし。

 あいつ今、何してんのかな。


「そういえば、風無って今何してる?」

『……お姉ちゃんですか?』

「んっ……?」


 気のせいか?

 俺が風無のこと聞いた瞬間、八坂の空気が変わった気がするんだけど。


『お姉ちゃんはスマホで闇也先輩の配信でも見てるんじゃないですか?』

「いやそういうテキトーな憶測じゃなく」

『でも大抵の時間はそんな感じですよ』

「えぇ……」


 暇人かよあいつ。あ、暇人か。


 でも、なんで俺の配信……一緒に配信はしたくなさそうだったくせに。

 いや、むしろ俺のソロ配信が好きだからコラボしたくない説も……?


「で、ちなみに」

『はい?』

「今って姉妹喧嘩でもしてるのか?」

『いいえ? お姉ちゃんは毎日抱きついてきますよ』

「あぁ、そう」


 当然のようにその歳で抱きつくんだ。


「いや、なんか風無のこと話したら間があったから、何かあるのかと思っただけなんだけど」

『姉妹としては普通です』

「ほう」


 姉妹としては?


『ただ、私とお姉ちゃんは今――ライバルでもあるので』

「ライバル?」


 ……Vtuberとして?


 別に言うほどキャラも被ってないし事務所も同じだから、どちらかというと共闘する側な気がするけど。


「ってか、Vtuberとしてって話なら俺もライバルだろ」

『いえ、そういう話ではないので』

「そういう話ではないのか」

『どういう話でもないです』

「ならいいや」


 聞かれたくないならいいけども。

 そっちの家の話ってことか?


『では、配信の邪魔をしたら悪いのでもうそろそろ失礼しますね』

「十分邪魔したけどな」

『買い物のことも忘れないでくださいね!』

「気分になったら」

『約束してますからね!! 約束してますからね!!!』

「わかったわかった」


 そう言って、八坂は珍しく自分からパーティを出ていった。

 やっぱり、風無の話したのが関係してんのかな。


 毎日抱きついてる姉妹が嫌い合ってるのは全く思えないし、やっぱりVtuber関連な気もするんだけど、


「……牛さんにでも聞いてみるか」


 あの人なら視聴者目線で常に配信見てるだろうしな。

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