第26話 三人でコラボする時に

 俺達が買い物に行った日の夜。


「先輩、プレゼント交換をしましょう」

「仕方ないな……」


 買い物した物を抱えてワクワクした顔で部屋にやってきた八坂を突き返すわけにもいかず、俺は渋々二人を家にあげた。


 俺も物は渡さないといけないし、物に関してはボイスチャットで送れないから、今回は無償で家にあげてやるしかない。


 それはそうと。


「なんで風無も同伴なんだ」

「えっ? いや、すみれがプレゼント交換するって言うから……」

「私と先輩のプレゼント交換なのでお姉ちゃんはいいって言ったんですけど」

「どうせ私も渡す物あったから来たの! いいでしょ別に……」

「まあまあ落ち着け風無」

「拗ねないでください」

「二人が追い込んできたんでしょ!?」


 まあまあ。なだめるのも怒らせた人の役目だから。マッチポンプ。


「それで……私も入っていいの」

「入っちゃダメって言ったことないだろ。どうせ俺のやつは三人で食うだろうし」

「今日だけはお姉ちゃんはダメって言ってもいいんですよ」

「いいから追い出される前に入れ」

「はーい!」

「お邪魔します……」


 そう言って入ってくる二人は、何が入ってるのかわからないけどどっちもゲーム機でも入ってそうな大きさの袋を持ってた。特に八坂のはおもちゃ屋に行ってきた後くらいデカい。


 おいおいなんだこいつらサンタか……?


「ちなみに……先に言っとくと、同等の物を求めるつもりなら何も渡すなよ」

「何言ってんの……同じ場所で買ったんだから何買ったかなんて知ってるに決まってるでしょ」

「それ本当に俺も知ってるか?」


 全く覚えがないんだけど。あの店で俺が休憩して、ケーキ屋行った後は、買い物するっていうかぶらぶらしてただけだったし。


 もしかしなくても、あの二十分離れた時に俺の見えないところで何か買ってたのか? 俺は二人と行動しなきゃ何も買えないのに不平等じゃね?


「じゃ、これは私からなので全部渡しますね」

「おいその説明だけで俺の机の上に大荷物を置くな」


 季節外れの福袋くらいのボリュームあるぞそれ。


「全部説明するのは重い女みたいで嫌じゃないですか」

「袋は充分重いよ」

「私は多くは望まないので使う物があったら使ってあとは捨ててください」

「その提案逆方向に重くない?」


 絶対使ってねの方が気が楽なんだけど。


「まあ捨てはしないけどさ……」


 そんな八坂の大荷物の中を覗くと、中には部屋着に使えそうなTシャツやゲームキャラのグッズがまず目に入って……その下に俺が前美味いと言っていたお菓子、目の疲れを癒やせるアイマスク……といろんな物が入っていた。あと一番下にあの店の和菓子が入ってる。これだけで良かったんだよ。

 ……というか。


「全くいらない物がない……?」


 まるで俺が選んだ俺の欲しい物の詰め合わせみたいな袋の中身なんだけど、どうなってんのこれ?


「闇也先輩の思考は配信を見ていれば全てわかります」

「こっわ」


 なにその一人に特化したメンタリズム。


 いや、八坂のことだからさ、きっとペアルックとかアクセサリーとか付けるように言ってくるんだと思ってたんだけど。……舐めてたな。


 心読まれそうだから今度からちょっと離れるか。


「あと……買う時も言ったけど、八坂から渡されたら俺の八坂に対するご褒美感は全くなくなるからな」

「いいんです。これはただ私が先輩にプレゼントできるとしたらどれだけ好みの物を選べるか試したくなっただけなので」

「わざわざこのタイミングで金払って実践することか」


 普通に会話で聞けばいいじゃんこれ好きですかって。


 ご褒美渡す前に高校生から明らかに俺より金使ってプレゼントされた俺の気にもなれよ。


「いえ! 私はとても満足しました。その闇也先輩の反応こそが私のご褒美だったのかもしれません」

「じゃあもう帰ってもいいぞ」

「嘘です全くご褒美じゃないです!」


 八坂もわりと何も考えずに喋る奴だな本当……。


「まあ……普通に有り難い物ばっかだから全部捨てずに貰う。ありがと」

「…………」

「なんでそこで黙る」

「いっ、いえ……な、何でもないです。感動しただけで」

「感動シーンどこにあった?」


 アーティストがちょっとエモいこと言っただけですぐ泣くファンか。


 そうして、やりたいことは終わったらしい八坂は隣を見る。

 隣にいるのは同じように袋を持った風無。八坂よりは小さめ。


 ただ、自分の妹のプレゼントを見て完全に戦意喪失したようだった。


「先に言っとくけど俺誕生日でも何でもないからな」

「……何の話!?」

「いやだから、今プレゼント渡さないといけない人間じゃないっていうか」


 何の記念もなく大量のプレゼント送ってきたこいつがおかしいだけっていうか。

 ただ妹につられて何の理由もなくプレゼントをあげようとしてくれてるなら張り合おうとしない方がいい。こいつは化け物だ。


「……まあそうだけどね?」

「いつでもいいなら今は逃げた方がいいかもしれない」


 ここであげると裏番組が強すぎる。

 枠移動した方が視聴率は取れるかもしれない。


 ただ、それでも特に迷うような素振りは見せず、風無はバン! と袋を机に置いて。


「はい半年記念! それだけだから!」

「ああ、それだったのか」

「……いいから早く見て」

「ハイ」


 そうして中身を見ると、何やら立派な箱が見えた。

 この薄い縦長の箱は……。


「あ、ゲーミングキーボードじゃん。しかも有線」


 普通に嬉しいやつだ。ラッキー。


「めっちゃ助かるな。でもなんでこんな高いもん」

「いや……闇也が欲しいって言ったからでしょ」

「…………ああ? え、あれ俺に物あげるために聞いてたのか?」

「それ以外に何があんの……」


 呆れてる風無を見るに、普通にバレて当たり前の質問だったらしい。


 確かに、今思えばわざわざ俺に何欲しいか聞くとかプレゼント探ってる人間の行動でしかないな。

 八坂とくっつけることに必死で気が付かなかった。


「ちゃんと、ネット開いてゲームやってる人に聞いてちゃんとしたの買ってきたから」

「そこまでやってよくあの短い時間で帰ってこれたな」

「まあ……半年経ったら何かするのは、決めてたから。すぐ買いに行っただけ」

「それは……ありがとな」

「いや……うん。お礼は別にいいから、いつか同等の物で返して」

「今のありがとう取り消していいか?」


 まあ、お返しがほしいだけならこんな物わざわざ渡さないだろうけどさ。


 何か貰うとしても普通に俺は食べ物とかで充分喜んだし……あ、こっちも底に和菓子入ってる。扱いが可哀想な和菓子。


「じゃ、私のは……これで終わりだから」

「ああ。これは今日から使う」

「まあ、中々の勝負でしたね」

「誰だよお前は」


 何目線で何の勝負を評価したんだよ。


「では先輩のターンを始めましょうか」

「だからお前は……いや、俺のはもう、すぐ出すけどさ」


 これに関してはもったいぶる必要すらない。


 俺は後ろに置いてあったケーキ屋の箱を持って、テーブルの上に置く。

 四角い箱が今度はちょこんとテーブルに乗る。


「はい」


 箱を開けるとケーキが六個出てくる。


「好きなの食え」


 一応、ケーキの種類は全部違うのが入っている。


 わー、うまそー。


「…………せめて反応はしないか?」


 全部食っていいかこれ。


「いや、だって一緒に買っちゃったから」

「だろうな」

「私が自分で選んだので」

「そうだな。これお前に渡す奴だけどいいのかって聞いてもお前はケーキ屋に入ってきたな」


 虚し。

 せめて先に俺はケーキだって宣言しとけばよかった。


「……じゃ、食べるか」

「うん」

「そうですね」

「俺は貰ったプレゼントのツイートしてるから」

「あ、それなら送り主も書いといてくださいね?」

「ちょ、恥ずかしいから私の名前は出さないでよ!?」

「俺のツイッターだから好きにやる」


 俺がお前らの前でしか物を買えないと知りつつプレゼント勝負を仕掛けてきた罰だ。

 まあ丁度、牛さん達への先輩孝行にもなるしな。きっとこのツイートを見たら安心してくれるだろう。


 それから、俺達は丁度二個ずつケーキを食べながら雑談をして時間を潰した。


 ちなみに、実際のところ八坂と風無の間には何かあったのかと、それまで気になっていたことを聞くと、八坂はあの日、頑張ってたゲームのハイスコアを、間違って八坂のアカウントでやっていた風無に一瞬で塗り替えられたんですよ~、というエピソードを教えてくれた。


 ゲームでもいつか自力でお姉ちゃんに勝ってみせます、と八坂には熱い思いを伝えられた。もし八坂がサンドバッグだったら迷わず殴ってただろう。



「う…………食いすぎた」

「どんだけ食細いの闇也は……羨ましいんだけど」

「その気になれば一日一食でも困らない体だからな……」


 ケーキが二個も入ってきたら体もビックリするさ。


「ちなみに私は大満足です」

「そりゃ良かった」


 元はと言えば買い物に行った理由は八坂に何か渡すってだけだからな。

 二人のせいでメインクエストが一番地味になったけど。


「じゃ、帰る? すみれ」

「私は帰れって言われるまでここに」

「じゃあ帰ってもらおうか」

「くっ…………そう言われたら仕方ないですね」


 立ち上がりながら、本当に名残惜しそうな顔をする八坂。

 そんなに楽しかったのかよこの時間。


「まあ……どうせまた集まるしいいだろ」

「えっ。それはどういう」

「三人でコラボする時に」


 ……あ、この話八坂にはしてなかったっけ?

 風無に言って満足してたんだっけ?


 と、初めて話を聞いたらしい八坂は目を見開いて、


「本当ですか!? いつしますか今日しますか何時間しますか!?」

「帰れって言ってるだろ……それはまだ決めてないから、帰ったら風無と相談してくれ。案件の前でもいいし、後でもいいし。俺はいつでもいいから」

「いつでも!? しかも回数無制限で!?」

「言ってない」


 毎日する気だろその様子だと。


「まあとりあえず一回やってみてって感じだけど……八坂と風無がよかったら、ゲームでもやろう。三人で」

「もちろんです! お姉ちゃんも喜んでます!」

「いや勝手に……まあ、やるけど」

「じゃあ早速帰って日時を決めましょう!」

「はいはい……」


 姉を引っ張りつつ外に出ていった八坂は「成功した実績があれば続くと思うので――」「人が見てくれる時間帯を選ぶなら――」と何やらガチなことを言いながら隣の部屋に入っていった。


 何もそこまで考えてほしくて日時を相談するよう言ったわけじゃないんだけど。


「……ま、いいか」


 俺の心配事がなくなるなら。

 今日俺が伝えたかったことが正しく伝わったなら、日時なんてどうでもよかったりするしな。


「……配信するかぁ!」


 そうして。

 何故かハイテンションになったその夜は、勢いのままに雑談配信をして、俺は元の気楽な日常の中に戻っていった。

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