第3話 化け物VS配信モンスター
俺は実に交友関係が狭い人間だ。
Vtuber事務所のバーチャルライブといえば70人以上がデビューしてる大きな事務所なわけだけど、その中で関わりがあるのはたった数人。
その中でも、誰かと何かをやりたい場合、俺は気軽という理由で、ほとんどの場合同期デビューの風無を誘う。
今日もいつもと同じそんな日だった。
『珍しいんじゃない? 配信以外で一緒にゲームするの』
「俺の場合配信してないことが珍しいからな」
通話を繋げて、風無と一緒にいつものFPSゲーム内で合流する。
別に面白くなくても暇潰しに使ってくれる人がいるならと、いつもゲームだけするくらいなら配信する俺がこうして配信せずにゲームしてるのは、全世界に向けては言えないことがあるから。
『何か話でもあんの?』
「そういえば風無からまだ妹の詳しい話を聞いてなかったなと思ってな」
そう言うと、風無は気まずそうに「あはは……」と笑った。
笑って許されると思うなよ。今日の俺は優しくないぞ。
「結論から言うとお前の妹は化け物だ」
『化け物!? いや言いすぎでしょ!』
「いーや化け物だ」
誰が何と言おうと化け物だ。
怖い物知らずなメンタル、目的のためなら何でもする曲がった執念、恋愛についてのブレーキが壊れてる頭脳。
実の姉に向かって言うのも何だけど残念ながら八坂すみれは化け物だ。
「よくもあんな化け物と俺を引き合わせてくれたな、と俺はずっと思ってる」
『えー……いや、でも、元々はあんな子じゃなくて……』
「真面目な子が突如化け物になるか」
『元々闇也のファンなのは知ってたんだけどさぁ』
「その時点で察しろ」
『……いや、こうなるのを察するのは無理でしょ』
「……まあな」
そこは同情しよう。
普通「闇也のことが好き!」って言ってても画面越しのファンに留まる。
一目惚れしましたなんて言い出すことは誰にも予測できない。誰も悪くない。
「というか、今更だけど、風無の配信大丈夫なのか? いきなり後ろから叫び声聞こえるとかないか?」
『いや……別にいきなり叫びだすような子じゃないし……』
「ああ、そうなのか」
そういえばこの前一対一で話した時も普通と言えば普通だったな。
『一応、配信時間はズラそうって話はしたんだけどね』
「ふーん、窮屈そうだな」
『いや、私はあんたほど配信モンスターじゃないから。あ、そういえばあんたも化け物じゃん』
「配信モンスターは愛称だ」
他の人より配信してる時間がちょこっと長いことからそう呼ばれることがたまにあるだけで。
本物の化け物と比べちゃいけない。
「まあ、どちらかというと、風無の妹も俺側の人間に見えるけどな」
『ああ……なに、配信したがりってこと?』
「多分、放っといたらどんどん配信時間長くなるぞ」
俺に追いつく、とか言ってたし。
まだデビューしたてだけど、人気になりそうな予感はする。
『それは気にしとくつもりだけど……ああ、そういえばもう、すみれとは話したんだっけ』
「話した。通話なら安全だと思ったからな」
『いや、安全って……ああ、そうなんだ』
いつも遠慮ない言葉が持ち味の風無にしては歯切れの悪い会話が続く。
まあなんだかんだで、妹のことでいろいろ気にしてるんだろうけど。
『じゃあ、その……すみれ、変なこと言ってなかった?』
「変じゃないこと? 言ってたっけな……」
『変なことしか言ってなかったんだ』
基本的に相手が俺のことを好きだって前提で進む異常な会話だった。
まあ本人に変なこと言ってる気は全くなかったんだろうけど。
『で、そのさぁ……すみれ、本気であんたのこと好き……とか、言ってるんだけど』
「言ってるな」
『闇也は、どうするつもりなのかなー……って、思って』
いつになく不安そうな声で言う風無。
「あ、右に敵一人」
『ん!? ああ、そういうことね……』
「今ゲームしながら通話してること忘れてたろ」
『……忘れてた』
言いながら、サクッと挟み撃ちして相手のHPを一瞬で削り切る俺と風無。
デビューした時からやってるだけあって連携が上手い。自画自賛。
「まあ、どうするもこうするも……Vtuber同士で恋人とか、俺はないと思ってるし」
『あ、ああ……その話』
「俺は家で過ごすのが好きだ。家で過ごせるこの仕事が好きだ。不要なスキャンダルで人気を落とすかもしれない賭けに出るつもりはない」
真城さんは別にいい、と言っていたけど、俺はそこに少しでもリスクがあるならそんなことはしない。
ただゲームしながら配信してるだけで安泰なんだ。それ以上のことなんて望むもんか。
『はは……闇也はそういう奴だもんね』
「なんだ、妹が俺と付き合ったらどうしようとか考えてたのか」
『そりゃ考えるでしょ。すみれ可愛いし』
「シスコンだったんだな風無」
新たな発見。
『シスコンじゃなくてすみれが可愛いだけ。私と比べたらわかるでしょ、昔からすみれの方が女の子らしいの』
「そうかぁ? というか可愛くても妹を可愛いって言った時点でシスコン扱いされるだろ」
『妹が絶世の美女でも?』
「絶世の美女の妹を持ったら多分誰でもシスコンになる」
『確かに』
そこは納得するところなのか?
まあ風無は妹がいることは公表してないだろうから、どうせ配信上ではシスコンとは呼べないんだけど。
もう素でそれならいっそ姉妹Vtuberのシスコンキャラでやってもいいんじゃないかと思う。
『まあ……すみれと、何もないならいいんだけど。すみれ可愛いし』
「わかったよシスコン」
『すみれもなんか本気っぽいから、もし告白でもしてたらどうしようかと思って』
「ああ」
それに関しては、さっき言った通り何もないから好きなだけ安心すればいい。
俺はVtuber同士で付き合ったりするつもりもないし、高校生に手を出すつもりもない。
それは恐らく一生変わることのない俺の考えだ。
「まあ、普通に告白はされたけど」
『…………え?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます