第9話 今度、私と一緒に
「ふー……まあこんなもんだろ」
「あ、できた?」
午後七時頃。
わりと早い段階で風無がトラブった理由はわかって直せたんだけど、配信できない! とか言ってまた持ってこられたら嫌だなと思って、配信できることの確認やら準備やらを特別サービスでやっていたら一時間経ってた。
その間、二人は部屋に帰ることもなく、暇そうにしてくつろぎながらスマホをいじってた。八坂のスマホからは大体俺の声が流れてた。
今日パソコンを直すにあたって二人が部屋にいる必要がなかったことは言うまでもない。
「余程のことがなければ配信できる。余計なことするなよ」
「し、しないって……ありがとね。闇也がサポートセンターしてくれたってツイートしとくから」
「別にされても嬉しくないけど」
俺の配信中毒になってる視聴者は『闇也は生きてたぞ!』って喜ぶかもしれないけど。
配信がないだけで死亡説流されるの何とかなんねぇかな。
「じゃ……俺は自分の部屋で配信見るから」
「私の反応を見る配信とかやめてよ」
「いいアイデアだなそれ」
誰かの配信見てる時でも配信できちゃうとか無敵か?
「配信モンスター……。じゃー……ああ、ほら、帰るからねすみれ」
「わかった」
「うん……いや、あんたも帰るからね」
「え?」
そう言われると、部屋でくつろいでる八坂はきょとんとする。
「当たり前でしょ……何居座る気でいるの」
「いや、先輩が話があるって」
「言ってねぇ」
流れるように嘘をつくな。
「いやでも……」
「まさか泊まる気? 一応聞くけど」
「うん」
「残念ながら捕まる危険があるから女子高生は泊められない」
急にここに警察がワープしてきたら俺捕まるし。
いくら駄々をこねてもそこだけは妥協できない。
「え? それは捕まることをする気があるって――」
「よし外に運び出すぞ手伝ってくれ風無」
「おっけー、ほら帰るからねー」
「待ってください! 冗談です待ってください!」
強制送還されかけたところでダラダラしてた八坂は立ち上がって姿勢を正す。
「ち、違うんですよ……その、弟子として、師匠に話したいことがあったので……少しだけ残してほしかっただけで……」
「……なに? 師匠って」
「八坂のVtuberの師匠になってくれって言われた」
「それでなったの?」
「なった」
なんでなっちゃったのかはもう忘れたけど。
確か仕方なくだったのは覚えてる。
「へー……それで、どうするの? 私は別に、帰ってくるならいいけど……」
「まあ、風無の配信が始まるくらいまでに帰るなら……いいんじゃね」
多分無理やり追い出そうとしても粘るし。
少し時間ズラして帰るってだけなら、別にいいけど。
「ちゃんと帰ります! 長くは話しません!」
「それは信用できないけど」
「なんでですか!?」
八坂と話してて八坂の方から話が終わったことがないし。
今回に関しては、最終的には帰るってところは守ってくれることだけ期待しておく。
「そういうことなら……私は帰るけど?」
「もし配信するまでに帰ってこなかったら引き取りに来てくれ」
「逆にめんどくない……? まあ、わかったけど」
そう言って、直ったノートパソコンを抱えた風無は先に帰っていった。
そうして残ったのは俺と八坂だけ。
今思ったけど、風無のパソコンを直すって用がなくなった今、八坂はただ俺の部屋に遊びに来ただけってことになるのか。いや、最初からそうだったけど。
そうなると、ここでまた「付き合ってください!」とか八坂が言い出したら相当状況としては危ないな。言い逃れできない。
八坂が怪しい素振りを見せたらすぐにでも追い出さないと――
「お姉ちゃんと先輩には敵わないです」
「……何が?」
「今日見てて思いました。二人は凄いコンビって感じがします」
「……まあ、同期、だしな」
だけど、俺の予想を裏切って八坂が話しだしたのは、俺と風無のこと。
いや、俺と風無のことだけど、現実のじゃなく、Vtuberとしての、闇也と風無るりについて話してる気がした。
「私はまだ新人ですし、全然経験値が足りないです」
「いや……よくやってるとは思うけどな」
「本当ですか!?」
「そこはしおらしいままでいろ」
一瞬で褒めたことを後悔した。
まあ実際よくやってると思ってるからそう言ったわけだけど……新人だから経験値が足りないってのも、八坂の言う通りではある。
新人だからそれで正しい、と俺は思うけど。
「まあ、新人が新人らしい配信したって誰も文句言わないし……」
「でもいつまでもそれじゃダメなんです! 私は早く先輩に追いつかなきゃいけないんです!」
「だから手っ取り早く大物になれる方法が知りたいって?」
「そういう裏技があるなら是非教えてほしいです。なるべく楽なやつで」
向上心があるのかないのかわからない奴だな。
とにかく要は、なるべく早く俺や風無に肩を並べたい……ってことなんだろうけどさ。
「裏技はないし八坂はまだそのままでいいと思うけど。……ま、そういう相談なら、何か悩んだ時に言ってくれれば答える。それに関しては約束したし」
俺は師匠で八坂は弟子らしいし。切り抜き動画によれば。
それに、そういうちゃんとした相談をされると頼られる立場にいるようで若干気持ちいい。
そういう立場になったことなかったから。
「ありがとうございます師匠!」
「まあまあ……同じ事務所の先輩としてな」
当たり前のことをしてるだけだよ。
将来大物になった時は俺に助けられたってエピソード語ってくれな。
そんな感じで俺が気持ちよくなってると、八坂が何やら姿勢を正した。
「それで……先輩に一つお願いがあるんですけど」
「お願い?」
相談じゃなく?
「一応聞くけど、Vtuberとしてのお願いだよな」
「もちろんそうです!」
「ならいいよ。何でも聞いてやる」
付き合ってほしいとかなら断るけど、俺はそもそもは優しい男だからな。
案外真面目に考えてる後輩のために、先輩としてVtuberの活動のことなら大体のことは協力してやろう。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「まあまあまあ……俺も鬼じゃないから。とりあえず……言ってみ?」
配信にオススメの時間を教えてほしいです! とか、配信でやるゲームを探してほしいです! とかなら学者並みに真面目に答えられる自信あるから。言ってみ?
――ただ、そうして散々俺を気持ちよくさせた八坂は、よく見ると下心があるような笑みで、
「今度、私と一緒に配信してください!」
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