第10話 あの"企画"
『ちょっとぉ~最近配信不足なんじゃない?』
「俺が配信不足なら大体のVtuberは配信不足ですよ……」
最近恒例になりつつある、ほぼ雑談しかしない真城さんからの業務連絡中のこと。
『そんなんじゃ配信モンスターの肩書きは返上しなきゃいけないわね』
「別に俺が望んだ肩書きじゃないし」
どちらかというと蔑称だと思ってるし。
そんな感じで、俺のマネージャーとの社会人の電話は配信時間が減ったことで煽られるところから始まっていた。
配信不足って言っても毎日配信はしてるし、当社比で減ってるってだけなんだけど。
ちなみにそのあったはずの配信時間は大体八坂関連で消えてる。
「というか……テンション高いですね。給料日かなんかですか」
『給料日は大体の会社が月末よ。闇也君は興味ないでしょうけどね?』
「貰えれば一緒じゃないですか」
そんな給料日に興味あるかどうかでマウント取られても。
となるとますます真城さんの謎テンションは謎だ。謎が謎を呼ぶ謎解きミステリーの謎。
『ちなみに担当Vtuberの躍進が私の何よりの喜びだから』
「ウワーマネージャーの鑑ダー」
『特にうちの子が大きめの企画に出る時はワクワクするわ』
「へぇ?」
誰かそういう企画に出るからテンションが高いってことか?
お前も出ろよって意味で言ってるのかもしれないけど。
『そういえば、最近はすみれちゃんとどう?』
「最近それしか聞かないですね」
もう口癖みたいになってるもん。
会ったらとりあえず『学校はどう?』って聞いてくる親戚みたいなもん。
『ツンケンしてるように見えて裏で実は仲良いっていうのは聞いてるけど』
「それはもう何回もイジられた後なので大丈夫です」
『否定はしないのね?』
「散々否定し終わった後なんだよ!」
散々否定しても否定した分だけ「またまたw」ってなるだけだから疲れて否定しなくなっただけなんだよ!
裏で仲良くないこととか証明しようがないし、もし証拠があったとしても裏の裏では仲良い可能性を持ち出してくるだろうからあいつらは無敵なんだよ。
「八坂は何も言いませんし」
『青春ね~。ああ、でも告白に関してはもう終わったのよね?』
「一応」
『寂しくなってるんじゃない?』
「いや、ほとんど変わってないんで」
確かに、「付き合ってください!」は言わなくなったかもしれない。
でも言葉が変わっただけで八坂の行動は大して変わらない。
前までは「付き合ってください!」がブームだっただけだ。
八坂の最近のブームは、
「今の八坂は『コラボしてください』って言うだけの機械です」
『Vtuberの鑑じゃない!』
果たしてそうか?
一人での配信もせずにコラボしかしなくなりそうな勢いだけどそれでも鑑か?
『それで、初コラボはいつにするの?』
「する予定はないです」
『え、なんで?』
「嫌だからです」
『すみれちゃんの数字が足りない?』
「違います」
そういう論理的な理由じゃありません。
相手が八坂だから。ただそれだけです。
『頑なねー、せっかくすみれちゃんはVtuberに目覚めたのに』
「いや……コラボコラボ言ってんのは俺にだけっぽいですけど」
『それはそうでしょ? 事務所公認の闇也君ファンなんだから。すみれちゃんの初コラボは闇也君以外ないって最初から決まってるのよ』
「えぇ……?」
あれは、俺とまずコラボしないと始まらないから早くコラボさせろって意味の「コラボしてください」だったのか……?
いやでも、普通に風無より俺とコンビ感出したいからコラボしてほしいって言ってたしな。
『大体、知ってる?』
「何をですか」
『闇也君の部屋に入った後遺症ですみれちゃん熱出してるらしいわよ』
「どういうことなの……?」
え、なにそれ俺の部屋に呪いかなんか掛けられてた?
俺が風邪引いてたならともかく、それを俺のせいにされる理由はなくない?
『部屋にいた時我慢してたのが爆発したんでしょ。よくあるじゃない』
「よくあるんですか?」
『あるあるよ。健気よね』
何を我慢して何が爆発したのかもわからないしどこのあるあるなのかもわからないし。
多分健気でもないし。
でも確かに、部屋にいた時は意外と大人しい……八坂にしては大人しかったなとは思ってたけど。
『闇也は面倒がなくなったくらいに思ってるかもしれないけど、可愛い後輩兼普通の女子高生兼恋する乙女なんだから、優しくしてあげないとダメよ?』
「肩書きが多すぎる」
どの部分を見て俺は優しくしなきゃなって思えばいいんだ?
いやまあ、新人Vtuberとしては、結構頑張ってるし、気にかけてやった方がいいのかなーとは思うけど。
「常人が闇也君の真似したらすぐ壊れるよ」って一回牛さんに言われたことあるし。とりあえず配信時間で俺に張り合おうとしてきたら止めようと思ってる。
『闇也君と違って頑丈じゃないだろうしね』
「そうですね」
『あ、そこは何も言わないのね』
「言われ慣れてるので」
配信モンスターとか闇也は配信しないと死ぬ病気とか配信時間がニートなのに働き者とか。
「普通そんな配信できない」と言われすぎて最近真面目に配信依存症かなんかなのかと思い始めてる。
『んー、じゃ、雑談はこの辺にして電話は終わりにしましょうか』
「それ電話で雑談しかしなかったってことになりますけど大丈夫ですか?」
『別にいいじゃなぁい。そういう日もあるし。今更闇也君の配信に口を出したいところもないしね』
「そうですかい……」
まあ、一人での配信については、俺も特に変えたいところはないからいいんだけど。
真城さんがマネージャーとしてそれでいいのかだけ心配だけど、Vtuberには自由にやらせた方が面白いって場合の方が多そうだし、それでもいいんだろうな。
それから、最後に『じゃ、あの企画のことで進展あったら教えてねー』とだけ言って、真城さんは電話を切った。
本当に最後の最後にだけマネージャーっぽいことを言っていった気がする。
だけど――
「……『あの企画』ってなんだ……?」
◇◆◇◆◇
「ふー……とりあえずここで終わるかぁ。また夜にやるかもしれん」
起きてからすぐのことだった真城さんとの電話から数時間後。
午後の六時前くらいまで配信した後、俺は一旦配信を切る。
真城さんの電話の分だけ若干早起きしてるからか既にダルい。
そんな気分のまま、配信終了した後も『乙』『また夜までの辛抱か』『来たばっかなのに』と流れ続けるコメントをボーッと眺める。
普段はすぐに配信画面も閉じるから気づかなかったけど、俺が配信終わった後もここで雑談してやがるらしいなこいつら。可愛い奴らだ。
「ふーっ……ん……ん?」
と、無駄な時間だなと思いつつパソコンの画面を見続けてると、『青ちゃんの企画闇也は呼ばれてないのかな』というコメントが目に留まる。
そのコメントに反応する形で『そういえば大きめの企画やるかもって言ってたね』『闇也は呼ばれてなさそう』『闇也はいかなさそう』『闇也ぼっちだし』と有益なコメントと失礼なコメントが流れていく。
青ちゃんというのは、俺も尊敬してる
俺は別にバーチャルライブのファンでこの事務所に入ったわけじゃないから、先輩なら誰でも好き、みたいな人間じゃないんだけど、青さんは俺と違って他のVtuberを集めて面白いことをするってスタイルのVtuberだから、そのやり方を尊敬してる。
あとはいつか企画に呼ばれないかなという下心もあって「視聴者に最近見てるVtuberは? 」とか聞かれた時は大体「青さんです」と答えてる。
「……そういえば牛さん、企画やるって言ってたもんな……」
ちなみに牛さんと青さんはいわゆる同期で仲が良い。
だから、この前牛さんに先に青さんの企画については教えてもらってたんだけど……ああ、ちゃんと呼ばれたいって伝えとけばよかったかな……こんな早く発表されると思ってなかったからな……。
多分この企画が俺のこと呼ぼうかと思ったけど断られそうだと思ったって企画なんだろうけど。
「……逃したな」
チャンスを。
ダルい時に真面目にショックを受けるようなことを俺に知らせないでほしい。横になっちゃうだろ。
「企画か……」
……そういや、俺のこと呼ぼうかと思うってどういう企画なんだろ。
今から言っても遅いだろうから虚しいだけなんだけど、単純にどんな企画なのか気になった。
そこまではコメントで教えてくれる人はいなかったから、Twitterを開いて探そうとする。
一応皆と仲良くする気はありますよという意思表示で、Twitterでは事務所のメンバーは新人以外はフォロー済み。
青さんが企画について情報を出したのがツイートか配信かはわからなかったけど、『企画』とかで検索すれば出てくるだろ、ととりあえずTwitterを開くと。
「……おろ?」
……メッセージが来てる。
どうせ八坂だろうと思ったから、通知が来てたメッセージ欄を流れ作業的に開いたんだけど、そこには八坂でも風無でも牛さんでもない人からダイレクトメッセージが来てた。
俺の見間違いじゃなければ、一回も話したことはないはずの先輩、水野青。
「偽アカ……? いや本物……?」
いやマジで……? 青さんの方から俺に……?
一応アカウントを確認して「本物だ!」と喜んでから、呼吸を整えてからどんなメッセージか見てみる。
するとそれは、俺の期待通り、青さんからのコラボへのお誘いで、
『はじめまして。あおです』
『わたしのチャンネルでおこなう放送に闇也くんを呼びたいとおもって連絡しました』
『もしよければ、闇也君ともうひとり女の子をさそって参加してほしいとおもっています』
『ちなみに放送は「ラブラブ!? 仲良し男女Vtuber選手権!」という企画の予定です』
『気になることがあればなんでもきいてください』
「……――ハハッ」
メッセージを読み終えた後。
俺は喜びと絶望の狭間でその場に倒れ込んだ。
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