第14話 それはあなたのわがままですよね?
テーブルを挟んで俺の前に座る八坂。
その八坂を真正面から捉える形で座る俺。
そして何故かテーブルの横から裁判長面で俺達の顔を交互に見てくる風無。
一体風無が何をするつもりなのかはわからないが、暇なら俺の味方についといてほしい。
それはともかく、八坂の家で行われる今日の話し合いの議題は『八坂の初コラボについて』だ。
「八坂、オフコラボについて迷ってたけど、俺は行くことに決めた」
「本当ですか! 嬉しいです! 私ももちろん行きますよ!」
「そうか。一応聞くけど家以外でもいつも通り配信できる自信はあるんだよな?」
「大丈夫ですよ! 私はどこだっていつも通り配信できますから」
「そうか」
まあその部分については信用しよう。
八坂は初対面で俺に会って目の前で倒れた人間だ。
多分他のVtuberと会っても同じように大胆に振る舞ってくれるだろう。
「それで、八坂と俺で一緒に『ラブラブ!? 仲良し男女Vtuber選手権!』出るとして、八坂には少し話しておきたいことがある」
「なんですか?」
「真面目な八坂のことだからそこまでわかってると思うけど」
「わからないので教えてください」
「まあ多分わかってるんだと思うけど、俺と八坂でコラボすることには多少なりともリスクがある。主に八坂側に」
「へー真面目じゃないのでわかりませんでした」
真面目そうな顔で話を聞く八坂は当然既にそんなリスクは承知済みだという顔で言う。
「まず、男女がコラボするって時点で結構やっかみがある。『○○とイチャイチャしないでください』みたいな。この企画はそういう危ないところをネタにした企画だと思うんだけど」
「そういう反応はむしろほしいところですね」
「まあ八坂はそう言うと思ったしこっちは正直気にしてない」
俺も気にしてないしな。
めちゃくちゃ少ないけど、風無とコラボする時もそういう反応は目に入るし。そう思う人もいるんだな、くらいに思ってる。
それに今回はそういう企画だから、多分男女だからってところで大きな反感を買ったりはしない。
「で、次が主な問題なんだけど」
「はい」
「八坂と俺の人気の差は多分問題になる」
「はい」
「これは前から何回か言ってるけどな」
八坂は新人で、俺は既にわりと人気もあるVtuber。
今まではそこまでちゃんとした関わりでもなかったものの、コラボをし始めたら「なんだこいつ」となる層は多分いる。
まあ既にそういう意見はあるっちゃあるし、気にしたら負けだというのもあるんだけど、なるべく俺はそういうところは予めケアしておきたいと思ってる。
俺は常に安定を求める男だからな。
「男女の問題と違って、こっちは今からでも何とかできる。だから、企画が始まるまで俺と八坂の差を少しでも埋めておきたい」
「つまり私が一瞬で闇也先輩に並ぶ人気Vtuberになる方法があるってことですか!?」
「そんなことは一言も言ってない」
「少しでも」って言ってんだろうが。
そんな方法があるんだとしたら俺はその方法でビジネスして大儲けしてる。
「で、ここからが本題なんだけど」
「はい」
「八坂はまだ誰ともコラボしたことないよな」
「はい」
「した方がいいよ」
「そんな初歩的なアドバイスを!?」
だって他に言い方ないんだもん。
コラボしたことないんだろ? した方がいいよ。
「だって……コラボしてないじゃん、八坂」
「いやでもその初コラボを先輩との企画で大盛りあがりで……」
「八坂はそういうレベルまでいってないんだって」
「ガーン!」
俺もあんまり言いたくないけど。
これが、もう半年くらいやってる人で、一人でずっと人気得てきた人がついにコラボ解禁だ! ってなったらそれは盛り上がるだろうけど。
今の八坂はただのまだコラボしてないだけの新人なんだよ。
「なんかどっかで話題になっとかないと意外と知られないもんだからさ。最初のコラボが青さんの企画で、急に何万人の人に見られるってなったら、ほとんどの人が初めて八坂のこと見て『なんだこいつ』って思うだろうし」
「初めて見た人は私のことを『なんだこいつ』って思う前提で話してませんか?」
「いや、事実だし」
「今日厳しくないですか!?」
だって、Twitterで関わりがあることとかを全く知らない状態で、急に俺と現れて好き好き言ってる八坂見たら誰だって『なんだこいつ』ってなるだろ。
俺の場合、配信が多すぎて最近の俺の配信は見れてないけど、企画に出るなら見るかって人もいるだろうし。
そういう人にダイレクトに初見八坂のうざさがヒットすることになる。
「だから……最初に俺に絡んできた時点で、八坂のやり方でなんだこいつって思われるのはもう仕方ないから、先にコラボとかしといて、なるべく視聴者の中に味方を増やしておいて、八坂のラブラブ芸を楽しんでもらえる人を多くしとこうぜって話」
「ラブラブ芸じゃなくて素なんですけどね」
「ああ、はいはい」
全部素全部素。
八坂は全部素だしアイドルはトイレ行かない。
「で、裁判長」
「……え? 私?」
「なんでそんな近くいるのに話しかけられて驚く?」
傍聴席にいたつもりだったのにみたいな顔してるけど。
テーブルの真横にいるんだからそりゃ話しかけるだろ。
「とりあえず八坂は風無とコラボしたらいいんじゃないかと俺は思ってるんだけど」
「え? なんで?」
「頼れそうな俺の知り合いが他にいないから」
コラボしろよって言って後は八坂に丸投げするのもなんか可哀想だし。
でも俺は人脈ないから。必然的に頼むのは風無になる。
「なにそれ、姉妹だって明かしてってこと?」
「いや、明かさなくてもいいけど」
明かしたらなんだこいつと思われるわ裏口入学感あるわで大変なことになりそうだし。
「別に、後々明かすとしても、二人なら特に変わらず配信できるだろ?」
「……えぇ……?」
風無は自然体だし。八坂は作ってるし。いやいつでも素だし。
配信の時の八坂なら姉妹感もないだろうし、いいんじゃないかと思うんだけど。
「とりあえず、一回でも誰かと配信しとけば、本番になってド緊張するようなこともないだろうし――」
「はい!」
そこで八坂が手を挙げる。
「はい?」
「それは闇也先輩とのコラボじゃダメなんでしょうか!」
「いやだから大きな企画の前に……」
「そうじゃなく、企画の前に闇也先輩とコラボするのはダメなんでしょうか!」
「ああ……」
「ダメなんでしょうか!」
「いや……」
久しぶりに声がうるさい。
つまり、俺とコラボする前に、一回俺とのコラボを挟みたいとのたまってるわけなんだけど……。
「……でも、そういうこと言うなよ八坂。お姉ちゃんが嫌だなんて言ったら風無が可哀想……」
「いえ、お姉ちゃんが嫌じゃなく初めては闇也先輩と決めてるだけです」
……そう言われて俺はどう反応すればいいんだ。
とりあえずこういう困った時は風無を頼って……
「でも……なあ? 風無も八坂とコラボしたいよな?」
ほら、風無シスコンだしさ。
「いや……私はそもそもそんな関わる気ないし」
「いやだけど可愛い妹のために……」
「大体……最近闇也ともコラボしてないのに。なんか、こういう時だけそういうこと言われると、便利に使われてるみたいで嫌なんだけど」
結構ガチめのトーンで言われる。
「…………ごめん」
それはごめんなさい。
いや、決して便利屋扱いしてたわけじゃないんだけど、企画と八坂のことで頭いっぱいになってて、つい唯一頼れる相手に頼りすぎていたというか――
「というか、闇也先輩、お姉ちゃんとは普通にコラボするのに私とはなんで嫌なんですか? 姉妹差別じゃないですか?」
「いやだから八坂とコラボしないのはまだ――」
「というか毎回思ってますけど明らかにお姉ちゃんと距離が近いですよね? 今もお姉ちゃんの方に寄ろうとしてましたし私のことは避けがちなのに明らかに差別ですよね? 百歩譲ってお姉ちゃんと付き合ってるなら――」
「うるせぇごめん一回待って!?」
なんで急に俺だけこんなに責められる展開になった!?
いや、二人に鬱憤が溜まってたのはわかったけど今はそういう話じゃなく……
「まず話すべきはコラボの――」
「そういえば、闇也がすみれとコラボしない理由って結局なんなの? もう一緒に企画出るって決めたんでしょ? 別によくない?」
「いや……それはですね……」
ちょっと言い訳チックな話だからこの流れではちょっと言いたくないんですけど……
「まあ、その……俺と八坂が普通にコラボしちゃうと『あいつら普通に仲良くね?』ってなるだろ? あくまで俺は仲良くない状態で『ラブラブ!? 仲良し男女Vtuber選手権!』出る、ネタ枠のコンビでいたいから……企画の前に八坂とコラボするのは――」
「でも既に裏では仲良さそうって散々言われてるけど?」
「それはあくまで噂だから、確定するまでは――」
「もう確定事項みたいに言われてるけどね」
「……まあな」
今日はやたら言葉が鋭い風無は容赦なく俺をぶった切ってくる。
いつから俺は同期の好感度をここまで下げていたんだろう。
「……でもぉ! それでも絶対ネタ枠として出た方がぁ!」
「でもそれって結局先輩がそうしたいってわがままですよね? ネタ枠でいたいのは頼まれたわけじゃなく先輩がやりたいことですよね?」
「い、いや……そんなこと言ったら八坂の要求だって大体――」
「そうです。私の要求は大抵先輩への欲求が止められない私のわがままです。先輩も同じってことですよね? どちらもわがままということですよね?」
「いや……」
なんで俺急に2chの創設者みたいな人に論破されなきゃいけないの?
八坂のために「コラボとかした方がいいんじゃないですか」ってアドバイスしたかっただけなのになんでこうなってるの?
「でも……青さんも多分そういうつもりで呼んでるし……」
「だけどそれって先輩の想像ですよね? 実際に言われたわけではないですよね?」
「まあ……」
「ってことは私の要求と先輩の要求はどっちもわがままってことですよね」
「お前……そこまでして俺とコラボしたいのか……?」
親切心で今日八坂のために話をしにきた俺をフルボッコにしてまで俺とコラボしたいのか……? それは本当に俺のことが好きだからなのか……?
「ということで! 私のコラボしてくださいってお願いと先輩のコラボしてくださいってお願いは全くの同レベル!」
「いやちょっ……」
「話し合いで決められないことは多数決で決めるのが世の理!」
「ちょっ……」
そこで今までずっと俺を見ていた八坂は、初めて横を向いて風無に詰め寄り。
「さあお姉ちゃん! いえ裁判長! 教えて下さい! 私と先輩、どっちの意見が正しいんですか!?」
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