第三章
第13話 行きたくないと心が叫んでいるんだ
「……で、急にオフコラボになって困ってるってこと?」
「そういうことになるな……」
俺が『ラブラブ!? 仲良し男女Vtuber選手権!』への参加を決めて一日が経ち、八坂の熱もすっかり引いた頃。
俺は家で寝っ転がったまま、同期の風無に久しぶりに活動についての真面目な相談をしていた。
相談内容はズバリ、オフでやることが判明した『ラブラブ!? 仲良し男女Vtuber選手権!』に、出るかどうか。
「スタジオでやるって最初から言ってくれればよかったのに! ってキレとけば?」
「キレられるかよ……大先輩だし憧れの人でもあるし……それに多分最初から言われてても行くか迷ってたし」
「へー、そんなにすみれと行きたかったんだ」
「違う。青さんの企画に出たかったって意味だ」
オフコラボと、誰かと来いって縛りさえなければ「出ます!」って即答してるからな。
それだけその二つが俺にとって難題だってことだ。
まあ、オフコラボってのは文字通りオフラインでコラボするって意味なんだけど、俺の場合は大体風無と八坂とはオフで会ってるから、そこの部分では「パートナーと初めて会うの緊張するよぉ……」みたいな心配はない。
ただ、それは俺のテリトリー内で会ってるからであって……多分外に出て初めて会う人と顔合わせたら……俺喋れないんだよな。
「スタジオまで行って少しも喋れなかったら死ねるな……」
「それはそれで配信でいじれるからいいんじゃない?」
「コラボ恐怖症になったら誰にもいじられることなく傷が残り続けるけどな……」
孤独に配信して、周りからも「あの人は誘っちゃいけない人だから……」みたいな空気になって……ダメだもう想像して泣けてきた。
「あー……オフで配信者と会うとか……もう……」
「私とは結構会ってる気がするけど?」
「いや、風無は結構初めの段階で顔見てたし……それに、雰囲気と合ってる」
喋り方からして、ああ、こういう人だよなって雰囲気出てる。
黒髪で若干吊り目でたまにアホそうな顔してて。
Vtuberの風無のイラストを実写化したのかなと思うもん。
「え、そう……? まあ……それで言ったら、闇也も雰囲気通りだと思うけどね」
「え、そう……?」
「うん、なんか最初会った時も『あ、闇也だなー』って思ったし」
「あー……それは、ありがとう」
「いや、そっちが最初に言ってきただけだし……」
「いや、そっちが褒めてきただけだし」
「いや、そっちが先に雰囲気と合ってるとか……」
「いやなんでこんなことで照れ合ってんだよ」
そんな照れるような話だったっけ?
八坂がいたらまた「イチャイチャしてる!」って叫びだしそう。
「いや、て、照れてはないけど……だから、その……配信者と会うってそんなもんじゃないのって話」
「それは風無が雰囲気が合ってるからじゃないのかって話で」
「でもそれ言ったらすみれも違和感なかったでしょって話じゃない?」
「確かにその話はあるな」
言われてみれば、八坂も本人とイラストの雰囲気はマッチしてる。
まあ八坂も本人の方を先に見たから、ってのはありそうだけど。
「それに、事務所でたまに他のVtuberの人と会うけど、結構誰かすぐわかるし。普通にすぐ慣れてコラボできるんじゃない? って私は思うけど」
「まあ、うーん……なあ……」
そう言われると、オフでVtuberと会ったらイメージが合わないだろうし緊張するだろうからダメ、ってのは俺が行きたくないがために作った論理なのかもしれない。
「んあー……」
でも、考えれば考えるほど不安しかねーなー……。
そもそも外出ること事態苦手だし……Vtuberとか関係なく人と会うのも苦手だし……八坂ついてくるし……。
致命的な問題は思い浮かばないけど、とにかく頭の中の俺が「それ嫌だ! それダメだよ! やめといた方が身のためだよ!」って訴えかけてくる感じ。
「そんなに嫌なんだ」
「嫌だねえ……」
行きたいか行きたくないかで言ったら……絶対行きたいんだけどさ。
ここで断ったらこの先こういうの呼ばれるとも思えないし。FPS配信とか見ない層の視聴者に俺のこと知ってもらえるチャンスだし。単純に呼ばれたのは嬉しいし。
それでも……行きたくない……行きたくないと心が叫んでいるんだ……だけど――
「まあ、でも……こういうのって結局俺が頑張ることでしかどうにもならないからな……」
こういうのって、言っちゃえば結局慣れだろうし。
初めてを経験する前にオフコラボに不安があるのは、まあ仕方ないよねって皆言うだろうし。
それに、結局オフコラボになったところで、俺『オフコラボは嫌だから行けません』って青さんに伝えられないし。そういうのこそ面倒だと思っちゃうし。
だから、今思えば結局最初から行くってことは決まってたようなもんで、その上で不安だよお、心配だよお、って相談を同期にしてたのがさっきまでの俺だったわけで。
女々しいなぁ……人間不安になるとここまでバブみを感じてオギャるようになるのか。
今度から質問サイトでただ同調してほしいだけの質問を毛嫌いするのはやめないといけないな。
「……ありがと、参考になったわ」
「え、私なんか言ったっけ?」
「なんか照れてた」
「照れてないけど?」
「まあ話聞いてくれたし」
考える機会をくれたってことでいいんじゃね。
多分風無が来なかったら俺永遠に横になってたし。まあ今も横になってるんだけど。
「いや別に……うん、今ので行く気になったって言うならいいんだけどね」
「とりあえず行ってきてオフコラボ経験者になってくるわ」
「その肩書きで自信出るならなってきたら」
オフコラボ童貞よりはいいだろ。
多分一度経験してきた後の俺はパリピになってTiktokにダンス動画とか上げてるはず。
「というか、人の妹勝手に連れてくところに関しても少しは心配してほしいけどね?」
「八坂は親には聞いたとか言ってたけど」
「姉は聞いてないから」
知らんがな。
それは八坂の問題だから俺に言われてもどうしようもできない。
多分シスコンだから信用されてないんじゃないかな。
「そういえば、今日八坂、なんか言ってたか」
「なんかって?」
「独り言でも会話でもいいけど。企画のこととか、配信のこととか、なんか言ってなかったか」
「ひとりごとぉ……? あー……なんか朝、布団の中で『闇也先輩……闇也先輩……』って言ってたくらい」
「なんでそれをチョイスする?」
そんなどうでもいいところ普通言う?
というか姉としてそういうのは止めろよ。布団の中で先輩先輩言ってる妹のことどういう目で見てたんだよ。
「他にさ……ほら、会話くらいするだろ」
「会話ぁ……? まあなんか……闇也がカッコいいだの何だの言ってたけど」
「だからなんでそれをチョイスする?」
俺がそういう答えを聞きたがってこんな質問してるわけがないと思わない?
というか姉としてそういうのは止めろよ。
妹と会話したいからってどんな会話でも受け入れてるんじゃないだろうな。
「他になんか……」
「他は特に言ってなかったけど」
「……ああ、そう」
そうなんだ。まあ八坂だから驚かないけど。
でもそうなると今の会話の無意味さ凄いな。
「で、結局何が聞きたかったの……?」
「まあなんか……八坂の方も考えないといけないところはあるだろうから、心配してんのかな……と思って」
昨日のうちに一応、マネージャーの真城さんと八坂に、オフコラボがどうのって話は伝えたから、八坂も意外と眠れなかったりしてんじゃないかと思ってただけだ。
まあ布団の中で俺の名前言ってたってことはぐっすり寝てたんだろうけど。
「ああね。まあスタジオに集まるってなったらすみれも準備があるってことね」
「うん。いや、まあ……八坂の場合、オフじゃなくても、企画が始まるまでにやらなきゃいけないことはあるんだけどさ……」
やるべきこと……というか、やってほしいこと、というか。
「へー。別にすみれは余裕そうだったけど」
「まあ八坂はそういうの気にしなさそうだしな……」
「ちなみに、やらなきゃいけないことってなに?」
「いっぱいあるけど、一つ挙げるなら……」
新人の八坂が最低限あの企画に出ても問題なさそうな状態になってもらうには、
「八坂、まだ誰ともコラボ自体したことないから……それ、かな」
「……ああ~」
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