第16話 八坂ってゲーム下手くそなのか?
『クリアですねー!』
『ふー、めっちゃ難しかったんだけど……』
八坂の初コラボ配信開始から一時間半くらい経った頃。
一時間も掛からず終わるという噂だったパズル要素のある協力ゲームをやってた二人は、適度にグダりながら何とかゲームクリアまで辿り着いていた。
『ま、楽しかったね。グダったけど』
『楽しかったです! グダりましたけど』
そんな感じで、ゲームクリアを区切りに二人は配信も終わる流れに入る。
まあ見てた俺も楽しいと言えば楽しかった。グダってたけど。
今までコラボする側だったから気づかなかったけど、風無ってコラボ得意だったんだなってことに気づいた配信だった。
あいつわりとポンコツだからどっかで失言するんじゃないかと思ってたんだけど、全体的に引っ張ってた。他の人ともよく一緒にやってるし、今日に関してはベテランの風格があった。
まあ、だから人見知りとコラボしても面白くできてるんだろうな。今度から感謝しないと。
あと、八坂はまあ、配信の八坂だね、という感じだった。
こう言ったら八坂は怒るんだろうけど。
いつも通り、元気よく、後輩感出してやってた気がする。
ただ、なんかなんとなく違和感があったような気もしたけど……まあ、姉妹で配信してるし少しは仕方ないだろう。
そういうことコメントしてる視聴者も全然いなかったし、俺が心配しすぎてるだけだろうけど。
……と考えてる間に、八坂の配信はちゃんと終わって『おつかれ~』とコメントが流れてた。切り忘れもない……と。
「ふー……」
「先輩! せんぱーい!」
「入ってまーす」
ドンドン、とまでは行かないものの配信終わりの八坂に扉を叩かれる。
ここ俺の部屋なはずなんだけど。
まあ別に出てもいいんだけどなんか危険な香りがするから出るのは風無が帰ってきてからに
「出ないなら先輩の部屋探索します!」
「おお八坂、いい配信だったな」
「やりました先輩! 私を褒めうげっ!」
一瞬開けたら予想通り俺に突撃しようとしてきた八坂をトイレの扉でガードする。
「よくやったよくやった」
「そんな褒め方で満足する人がいると思いますか?」
「まだ本番じゃないし」
それにこの配信本当は俺関係ないし。
帰ってから風無に褒めてもらってくれ。
まあ、誰かと一緒でも普通に配信できるところは見れたし、良かったけど。
「じゃあ企画の後は何かしてくれるってことですか?」
「何かするって話はどこから出てきた?」
「私が今出しました」
「だよな」
俺何も言ってないけど、なんか褒める時は何かするってことにされかけたよな今。
「でも子供じゃありませんし言葉で褒めるだけっていうのもどうなんですかね?」
「でも大人の仕事相手だと仮定するなら褒める必要もない気がする」
「大人も実は褒めてほしいんですよ」
「八坂は褒めてほしいの間違いじゃね?」
「それを言われたらおしまいですよ」
まあ他の人間の気持ちなんてわからないからな。
課長も部長も新人も実は褒めてほしいと思ってるかもしれない。
今度真城さんに褒めてほしいか聞いてみるか。
「まあ……普通に、企画でいい感じになったら、褒美みたいなのは考えとくけどさ」
「本当ですか!? 絶対ですからね!? 録音しますよ!? あっ、ちなみに考えとくっていうのはどの程度の――」
「強制されたら何もしないけどな」
「先輩の気が乗ったらでいいのでよろしくお願いします」
調子のいい後輩だなあ。
部活とかで上下関係を経験した学生時代でもなかったから、今になって部活でもやってる気分になってくる。Vtuber部。
「……あ、そういや、八坂」
「はい?」
「八坂ってゲーム苦手……いや、不得意なのか?」
「言い換えても大して変わってない気がします」
「八坂ってゲーム下手くそなのか?」
「今明確な悪意に変わりました!」
悪意じゃないよ疑問だよ。
まあ別に大事なことだから聞いてるわけじゃなくて、ただ単に配信見てて気になっただけなんだけど。
今日のゲームは大半の場面で風無が引っ張ってた気がしたから。
ゲームってよりパズルが苦手なだけかもしれないけど。
「うーん……苦手……好き嫌いで言えば好きですけど」
「上手い下手で言うと?」
「昔からお姉ちゃんよりは下手でした」
「ああ、まあ、それはな」
なんだかんだで風無はゲーム上手いし。
それで言うと、ゲームのある環境で育った分八坂も上手くなりそうなもんだけど。
「でも、昔はゲームより勉強してる時間の方が多かったので」
「八坂らしいな」
「え、そうですか? ……それはもしかして素が真面目って言いたいんですか?」
「まだ何も言ってないだろ」
「そうでした」
まあ八坂は真面目だから勉強もできたんだろうなと思ってたのは事実だけど。
「でも……下手なままでいる気はないですよ? ゲームもやれば上達しますから。実際FPSも闇也先輩に憧れて始めてから結構上手くなってます」
「ああ、わりと上手かったな」
前やった時は。
それも初心者にしては、ってレベルではあったけど、飲み込みは早そう。
「ですよね? だからスタジオでゲームをやるとしても私は足は引っ張りませんから」
「あー……まあ、やるかもしれないか」
「グダったら嫌ですからね。協力プレイだとしたら完璧なコンビネーションを見せますよ」
「頑張れ」
俺の方は多分コンビネーション意識できないと思うけど頑張ってくれ。
と、そんな話をしてる間に、扉の外から足音が聞こえてきて。
「あ! そうですよ先輩! 企画に備えるなら一緒にゲームの練習を――」
「おーい。すみれー、まだ帰ってこないのー」
「丁度今帰るって言ってた」
「先輩!?」
そうして、当然のように長居しようとしてたらしい八坂は何とか頭を使って居残ろうとしたが、そこは風無とのコンビネーションで帰宅させた。
結局、二人の配信見てる間は配信してなかったしな。
少しでも配信しないと「最近配信時間少ないんじゃない?」と煽ってくるマネージャーがいるから、俺も配信しないといけない。
最近こんな風に慌ただしく配信する日ばかりだから、もうそろそろ何も考えず一日中配信するような日がほしいんだけど――
「……真城さんからか」
もう真城さんからの電話は、コール中にライン開いて『話そうと思ってることを三つにまとめてください』と返すくらいで丁度いい気がしてるけど、一応仕事の電話だから相手をしてあげることにする。
『もしもしー? さっきの配信見てたー?』
「見てた見てたーちょー面白かったよねー☆」
『もしかして馬鹿にしてる?』
「ごめんなさいしてないです」
だって完全に友達に電話してる雰囲気だったから。
掛け間違えたのかなって一瞬思ったし。
『ちなみに、今日は仕事の電話だからね』
「そうだったんですか」
それはありがたいな。
マネージャーから仕事の電話が掛かってくるなんて。
と、仕事の電話と言われても信じきれない俺はどうせまた雑談が始まるんだろうと思っていたんだけど、
『で、さっきの配信は見たのよね』
「見ましたね」
『どう思った?』
「どう……と言われれば……」
……それは普通の配信の感想を求めてる?
とも思ったけど、今日に限っては仕事の電話と言っていたから。
「八坂の話なら……まあ、コラボしても八坂だな、と」
『そうねぇ。どこに出してもキャラが崩れないタイプよね、すみれちゃんは』
「そう見えますね」
真面目に答えると真城さんも真面目に答えてくれる。
仕事の電話というのは本当だったらしい。
『お姉ちゃんが相手だから変わらなかったのかもしれないけど、それはそれで難しいところもあるだろうしね』
「俺だったらいつも通りにはできないですね」
家族が相手だったら。恥ずかしいもん。
『そうねぇ。でも、普通のすみれちゃんではあったけど、最高のすみれちゃんには見えなかったのよね』
「ほう」
なんか玄人っぽいこと言ってる。
『いつもは結構最初からアクセル全開の子だから。ほら、雑談配信でもそうだったじゃない?』
「今更ですけど真城さんって八坂の配信も全部見てるんですか?」
『当たり前でしょ。闇也君の配信全部見るのに比べたら百倍簡単だわ』
「強者過ぎる」
さすが事務所に行ったら大体二倍速で俺の配信見てるって噂が流れてるだけはある。
当の俺はあんまり人の配信見る方じゃないからその気持ちはよくわかんないんだけど。
『それで、闇也君はその辺どう思った?』
「俺も……少しまだ慣れてないのかとは思いましたけど、そのくらいです」
『まあそうよね』
コメントも皆満足そうだったし、喜んでる八坂にわざわざ言うほど違和感ではなかったなと思った。
『私もわざわざ本人に口を出すようなことじゃないと思ってるから闇也君に言ってるんだけど』
「なるほど」
『まあああいうのは慣れだし、すみれちゃんなら大きな問題は起こさないと思うから。ちゃんとした子だから』
「そうですね」
ちゃんとした子だしな。
真城さんも結局は別に問題ないと思ってるらしいけど、それを俺には言うっていうのは、先輩なんだからフォローしてやれよってことなんだろう。
『企画に関しては私も見る側として楽しみにしてるから』
「見る側なんですか」
『あの企画は事務所主導じゃないしね。私は機材系でもないしスケジュール管理もぜーんぶ水野さんがやってくれたし。闇也君の出る配信にしては珍しく昼から始まるからじっくり見られるわ』
「ヨカッタデスネェ」
仕事はしてるだろうし別にいいんだけど、その日の昼に真城さんに急な仕事が入るよう願ってしまうのはどうしてだろう。
不思議だね。
『まあ個人でやってくれたって言っても、規模は事務所で企画したのと同じくらいのものだし、終わったら興奮気味にお祝いの電話でも掛けるわ』
「会いに来るわけではないんですね」
『二人の邪魔しちゃ悪いじゃない?』
多分何も邪魔することなんてない早さで解散してると思うけど。
帰りたくて仕方ないだろうし。
いや、でも……お祝いって言ったら、八坂は多分なんか言ってくるのか。
『じゃ、オフコラボでも頑張って。闇也君の方が引っ張られるなんてことはないようにね』
「一応、頑張るつもりですけど。……ああ、最後に聞きたいんですけど、いいですか」
『なに? お祝いは焼き肉に連れてってほしいって?』
「良い肉は家に送ってください」
焼くのが面倒くさいからできれば出来上がった物の方が嬉しいけど。
……それは置いといて、
「お祝いというか……まあ、ご褒美みたいな話なんですけど」
『ああ、本当にそういう話なの?』
「って言っても、俺にってことじゃなくて」
「同僚から褒美って言って何かもらう場合……どういうもんが欲しいもんなんですかね」
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