27-1:ひとときの日常 その1
ある夕暮れ刻ーー
ソフィアさんは今、
商品の仕入れの関係で家を空けていた。
キュウビも近況報告を聞くために外に出ている。
今、家に居るのは俺とクレアだけだった。
約束で話をするのは寝る前だけとしていたが、
クレアからの強い要望により、
家でソフィアさんがいない間は
話をして良い決まりとなった。
今、クレアはベッドの上に座っている。
俺はその足元で伏せる形で座り、
骨のおもちゃをかじっていた。
何が面白いのかは自分でもわからないが
本能がそれを楽しいと認識している。
骨LOVE!
「ねぇ、ウル?」
俺は骨をかじりながら呼び掛けに応えた。
「ぅん? どうひた、クヘハァ」
「ウルとモコちゃんって、どんな関係なの?」
かじっていた骨から口を離す。
「……いきなりどうした?」
「なんだか気になって」
「俺とキュウ……『モコちゃん』との関係かぁ」
クレアにキュウビを紹介してからは
俺もキュウビのことを
『モコちゃん』と呼ぶことにしている。
呼び方がバラバラなのは少し面倒だろう。
キュウビは不服そうだったが
『そっちの方が可愛い』という理由で
納得してもらった。
「俺と『モコちゃん』は同じ居候、
ペット仲間……かな?」
「本当にそれだけ?」
「んー、あとは同じ魔族の好みというか。」
「……モコちゃん、人の姿だとスタイルいいよねぇ」
何かが変だ。何かがおかしい。
これはいけない何かが起ころうとしている。
しかし、そう思った時には既に遅かった。
「ウルは『ポヨンポヨン』が好きなの?」
『ポヨンポヨン』!?
「ク、クレアさん。
『ポヨンポヨン』ってなんですか?」
「『ポヨンポヨン』は『ポヨンポヨン』だよ」
クレアが言う『ポヨンポヨン』とは何か?
クレアはキュウビの話を出してから
その言葉を口にした。
ならばそれはキュウビに関係する
ワードであるのだろう。
キュウビに関係する『ポヨンポヨン』とは……。
間違いない。
それはキュウビの胸部に存在する
『あれ』のことだ。
確かにキュウビは素晴らしいものを持っている。
しかしほとんどの時間は狐としての
アイツとしか接していないので
それほど気にしてはいなかった。
まさかこんなに唐突に
聞かれることになるとは……。
ちなみにクレアはまだまだ育ち盛りだが
決して小さくはないかとは思う。
何よりソフィアさんの娘だ。
将来は明るいだろう。
だが女の子としてはやはり気になる
お年頃なのだろか。
この場合、どう答えるのが正解なのだろう。
慎重にコトを運ばなければならない。
失敗は許されない……。
1.好きと答える。
『へぇ、やっぱり大きいのがいいんだ。
そうなんだ。へぇ……』
答え:不機嫌になる。
2.嫌いと答える。
『本当に? でもウルだって男の子だよね?
本当にそうなの? 本当? ねぇ!?』
答え:疑われる。
3.どちらでもないと答える
『ウル、真面目に答えてよ。
私はそんなあやふやな答えは求めてないよ。
ちゃんとどちらかで答えてよ。
好きか! 嫌いか!』
答え:問い詰められる。
せ、正解がない……だと!?
いや、待て!
好き嫌いではなく、自分はこういうのが好みだと
答えればいいのではないか?
その場合なら……
2-1:クレアくらいがいいと言う。
『私のことそんな風に見てたの!
ウルの変態! 変態犬!!』
答え:罵倒される。
2-2:小さい方がいいと言う。
『小さいって!
だからウルは子供の頃の私を助けたの!?
ウルのロリコン! ロリコン犬!!』
答え:罵倒される。
2-3:むしろ尻が好きだと言う。
『ウルのお尻愛好犬っ!!』
答え:罵倒される。
駄目だ。もっと酷いことになった。
どうしても罵倒されてしまう。
俺がそういう『犬』なら喜んでいたかもしれないが、
残念ながらそういう属性は持ってはいない。
いったい何て答えるのが正解なんだ!
「ウル、早く答えてよ」
う、その目はやめてけれぇ。
「お、俺は……」
くっ!もうなるようになれ!
「犬だから良くわからないワン」
うむ。間違ってはいないはずだ。
クレアの反応は……。
「…………」
クレアが俺をジッと見つめている。
俺は必死に可愛い犬表情を取り繕い、
クレアを見つめ返す。
「ク、クゥ~ン」
「そっかぁ。それじゃ仕方ないねぇ!」
クレアの顔がいつもの明るいクレアに戻った。
ふぅ、助かったぁ。
クレアが足元の俺の上にのしかっかって
身体を擦り付けてくる。
「フフゥ、ウルは可愛いねぇ!」
うむ、クレアはやはり成長過程……じゃなくて!
まだまだ子供だなぁ。
それにしても身体を擦り付けるのって
マーキングだよなぁ。
これではどっちが犬なんだか……。
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