05:ソフィアの雑貨屋

 今日は休日、学校は休みだ。


 しかしこの店は開けているのでクレアは

 店の手伝いをしていた。


 ホンマええ子やで。


「ねぇ……お母さん」


「ん?どうしたの?」


「ウチって雑貨屋さんだよね?」


「何を突然改まって、そうに決まっているじゃない」


「……じゃぁ、なんで剣や鎧を売ってるの?」


 とうとう15年目にして気が付いてしまったか……。


 この雑貨屋の七不思議に……。


 この雑貨屋には七つの不思議がある。


 一つはソフィアさんの年齢。


 この10年、まるで見た目が変わっていない!


 そして問題の二つ目が、

 雑貨屋なのに武器と防具が置いてある!


 そう!雑貨屋なのに!


 ちなみに残りの五つは次までに考えおきます。


「……雑貨屋なんだからあるのは当たり前じゃない」


「……そっか。」


 そっかじゃない!


 もうちょっと頑張ってクレア!


 他の雑貨屋に行っても剣や鎧は置いてないよ!


「……でも、マリアが

 『普通は雑貨屋さんに置いてないよ』って……」


 マリア! ナイスアシスト!

 よしっ! 頑張った!

 頑張ったよ! クレア!

 後で踏み踏みしてあげる!


☆クレアの豆知識☆

 クレアは手足などの身体を前足の肉球で

 踏み踏みしてあげると喜ぶぞ!

 ※ただしウルフに限る。


「それは……きっと、

 マリアちゃんのお家はお貴族様だから

 普通の雑貨屋に行ったことないのよ。」


「……そっか。」


 そっかじゃない!

 そっかじゃないよぉ!

 純粋過ぎるよぉ、クレア!


 しかしソフィアさんも本気で言っているのだろうか?


 ハッ!


 そういえば……クレアの父は冒険者だったな。


 俺がクレアと会うよりも前、もっと小さい頃に


 最後の冒険で命を落としたって……。


 まさかその時の名残か?


 冒険者の夫を少しでも助けるために

 武器や防具を扱うようになった……とか。


 父親の話が絡んでいるから

 クレアに本当のことを伝えにくくて……。


「うちは先祖代々、この品揃えでやって来てるんだから」


 はいっ!全然違ったぁ!


 てかずっとなの?


 先祖代々っていつから雑貨屋やってんの!?


 店に入ったとたん

 フルアーマーの鎧がお出迎えですよ!?


 むしろ雑貨の方が少ないよ!?


 駄目だ。ツッコミどころが多すぎる。


 それでも店が繁盛しているのは

 ソフィアさんがいるからなんだろう。


 この間なんて絶対に冒険者じゃないタイプの男が

 盾を買って帰ったぞ。


 ソフィアさんも

 全然そういうのに気が付かないし……。


 まあ、繁盛しているならいいか。


 しかしこんなに武器や防具を仕入れるのには

 それなりに金が掛かるのではないか?


 仕入れ交渉は……あ、交渉中に商人の鼻の下が

 伸びているのが容易に想像出来てしまう。


 実際、この家は金にはそれほど困っていない。


 店の売上だけなら余裕ってほどではないだろうが、

 クレアの父が冒険者の仕事で残した金が

 それなりにあるようだ。


 なかなかにいい腕前だったらしいし。


 俺はいい家に飼われたんだなぁ。


「お母さん! この魔導書はどこに置いたらいい?」


「それは剣と槍のコーナーの隣に置いてー」


 ま、魔導書まであるのか……。


 そういえば前世では雑貨屋にマンガとか

 置いてあったっけ?


 そう考えたら武器のオモチャとかも置いてあった

 (ような気がする)からそれと同じ感じかな?


 うん! セーフ! セーフだよ!

 明らかにアウトよりのセーフだよ!


「お母さん!これはー?」


 今度は何を見つけたんだ?


「なんだろ? これ、卵?」


「あ、それはいつもの商人さんがサービスって言って

 置いていったものね。なんだかよく分からないけど

 割るまで何が出てくるかわからないらしいわよ?」


 ガチャ的な何かですか?


 なんでソフィアさんはそんな

 よくわからないものを貰っちゃうかな?


 俺は念のため『匂い』を確認する。


 うーん? なんだ?

 嗅いだことのない魔力の匂い。

 中に何が入っているんだ?


 つついたり、転がしたりして見るが反応はない。

 耳を近付ける。


「…………ダ、シ、テェ」


 うん。アウト。

 これは家抜け出して今晩中にどこか

 遠くの山に埋めに行こう。




「今日はそろそろお店を閉めましょうか」


 なんだかんだで今日もぼちぼち売れたな。

 ……卵も一つ売れてしまった。

 すまない、お客さん。俺の力不足で。

 何もなければいいが……。


 とりあえず何かあったら俺がなんとかしてやる。

 骨は加えて埋めてやるよ。

 証拠は何一つ残さない……。


「お母さん、私、このお店好きだよ」


「私もよ。このお店にはクレアとウルフと

 『あの人』との思い出が

 いっぱい詰まっているから」


 俺もその一員だという。


 嬉しいことを言ってくれるなぁ。


「私が結婚してもこのお店は続けないとね!」


 クレアが結婚っ!?


「あらっ!気になる人でもいるの?」


「うーん、今のところウルくらいかなぁ」


 あ、良かった。


 クレアはまだまだお子ちゃまだった。


「え……クレア。

 犬とは……結婚、出来ないわよ……」


 今日もクレアの笑顔は最高だった。


 てへっ!


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