人狼転生~キャラ作りに疲れたので、一般家庭の飼い犬になります~

銀煌銀

01:人狼になりました。

 俺は寿命が尽きて死んだ。


 特に後悔はなかった。


 一つあるとすれば……


 剣と魔法の世界で無双する人生が良かった。


 ただそれだけだーーー




 目が覚めるとそこは異世界だった。


 そして俺は……

 魔族『人狼』としての再び生を受けた。



 そして十五年後、俺は……


 一般家庭で『犬』として暮らしていた。


「ウルー! ただいまー!」


(ふりふり)


「もう! またしっぽで返事してぇ!

 ……かわいいなウルは!」


 彼女は笑顔で俺を抱き締める。


 彼女は俺の飼い主のクレア。


 この街にある雑貨屋の娘。


 ごく普通の少女だ。


 魔族の人狼として生まれたはずの俺が


 なぜ『犬』としてここにいるのか。


 それはまた十年ほど前に遡るーーー



十年前ーー


 俺は『シリウス』と呼ばれていた。


 それが人狼の名前だ。


「シリウス様ぁ!」


「爺か。どうした……」


 この爺さんは「爺」。


 先代、先々代の族長にも仕えていた爺さんだ。


 本名は知らない。


 聞いたことがあるような……。

 

 なかったような……。


「奴等が! 奴等が来ました!」


「奴等……だと」




「この度、魔王様より直々にあなた様を魔王軍『天魔八将』に召し上げられるとお達しがあった。慎んでーー」


「……断る」


「なっ!断ることなぞ出来ませんぞ!これは魔王様からの直々の命なのです!」


「知ったことか……。『天魔八将』なぞに興味はない」


「ば、バカな……。そ、そんなことをすればただではーー」


「この里に『手を出す』と、そう言うつもりか……」


「わ、我々ではありません!しかし魔王様が命じらるかも知れないということです!」


「魔王に伝えろ。

 俺が気に入らないなら俺を殺しに来い。

 だが、この里の者に手を出すというのなら……

 俺が貴様を噛み殺しに行く……と」


「ほ、本当に……良いのですか!?」


「二度、同じ言葉を吐け……と?」


「わ、わかりました。

 魔王様には私の方からお伝えします」


「シッ、シリウス様、

 本当に宜しかったのでしょうか?」


「…………」


 俺は黙って席を立った。


「シリウス様!?どちらに!シリウス様!!」



 そして里の外れにやって来た。

 人気のない風通りのいい丘の上。



 や……やっちまったっー!!


 魔王はさすがにやべぇよ!


 どうしよう!


 このままじゃ魔王に殺られるっ!!



 俺が転生した先は異世界だった。


 だが人間ではなく魔族の人狼だ。


 要は人と狼の姿を持つ魔族の一種。


 しかも人狼や他の魔族の中でも異常に魔力が高く、

 幼い頃からその才能を遺憾なく発揮していた。


 実力を認められた俺はこの人狼の里の族長となった。


 それは5歳の時だった。


 人狼は肉体の成長が早く、


 五年位で人間でいう『成人』と同じ位まで成長する。


 正直、見た目で年齢を判断するのは難しい。


 人狼は成人の体になってから

 100年は見た目がほとんど変わらない。


 人狼は里にいるときは

 人の姿をしていることが多いのだが、

 5才と100歳の人狼が隣あっていても

 親子と見た目で気付くのは不可能だと言っていい。


 精神年齢の方も体にあわせて、

 成長が早いように感じる。


 ちなみに人の姿なのは、

 生活する上では人の姿の方が都合が良いからだ。


 見た目はほとんど人間と変わらない。

 犬耳以外は。


 俺は生まれてからの5年間の間で

 この里の誰よりも強くなった。


 ちなみに魔族の中でも人狼は強い部類の魔族だそうだ。


 しかし、俺には一つ悪癖があった。


 それは……キャラを作り込み過ぎた……。


 狼と言えば一匹狼だろう!

 と、基本無口でクールな設定。


 見た目も良かったので調子にのって

 若干俺様設定も加わっている。


 そのため、友達は出来なかった……。


 族長としてこの里に侵攻してきた

 他の魔族、そして人間の兵を

 ことごとく返し討ちにしていたら、

 魔王軍から声が掛かった。


 それを伝えに来たのが『天魔八将』とかいう幹部だった。


 この『天魔八将』というのは魔王直属の八人の将。


 つまりは魔王の一つ下の位に位置する。


 名前は確か……鬼神のオーガスだったかな?


 鬼神はかなり強い種族らしい。


「貴様を魔王軍に入れてやる!ありがたく思え犬畜生!」


 失礼なやつなので『ぶっコロ』したった。てへぺろ!


 それからも『天魔八将』が代わる代わるこの里へ来た。


 俺はそれも返し打ちにしてやった。


 最初の失敗を踏まえて、

 最初の奴以外は全員生かして返した。


 しかしそのことが魔王の耳に入り、今回こんなことに……。


 はぁ……どうしよう……。


 正直、魔王にだって全く勝てる気がしていなくもない。


 だが仮に勝ったとして、その後は?


 魔王として魔族を統べる?


 そんなの大変に決まっている!


 それじゃあ今から謝って配下に加えてもらう?


 そんなことも無理だろ!


 相手は魔王だぞ!


 愚弄するな!と怒って殺されたらどうする!


 本当になんであんなことを……。


 しかし俺の作り出したこのキャラだと

 ああ言うのが自然だ。


 もうやだこんなキャラ……。


 ん?


 あちらから人の姿が見える……。


 あれは……。


「爺か……」


「シリウス様……。

 やはり……魔王様が許せませぬか……」


 へ? なんのこと?


「先代魔王様の命により戦で命を落とした

 我らが同志達のこと……。

 だから現、魔王様のお誘いを……。」


 あれ?そんなことあったっけ?


 そういえば子供の頃に聞いたような……。


「……ここを立ち去るおつもりですな」


 んっ?ちょ、ちょっとぉ!?


「爺にはわかります。」


 いや!全然わかってないけど!


「自分が去ることでこの村を

 危険から遠ざけるおつもりですな」


 爺さんっ!落ち着こう!


 一旦、ストップしよ!


「ならばこの爺もお供に!

 くっ!……いえっ!それはシリウス様の

 邪魔になるだけでございますな。

 わかりました!」


 なにが! なにがわかったんだ!


 勝手に話を進めるな!


 シリウスは無口なクールキャラだから

 言葉選びが大変なんだよ!


 どんどん話を進められると弱いんだよ!


「これは旅の手荷物でございます。

 どうかお達者で!

 爺もこの空の下から、シリウス様のご無事を

 お祈りしております!!」


 あれ?


「お元気で!」


「我らの心は常にシリウス様と共に!」


 あれれ?


「シリウス様ぁ!!」


「お体にお気をつけて!」


「いつかまた……お会いできると信じております!」


 あれれれれ?


「……皆、さらばだ」


 マジか!


 もはや栄光は過去のもの。


 いまの俺は根なし草の風来坊、


 もとい野良狼になってしまった。


 しかし魔王に目を付けられたのなら


 どのみちは爺の言う通りにあの里を出る他なかっただろう。


 ……仕方がない。


 こうなったのは自業自得なのだ。


 何で俺はこんなめんどくさい設定にしてしまったんだ。


 もうちょっと社交的にことを運べば、

 今頃は魔族の中でも有数の権力者に成れたのに。


 もういい……疲れた……。


 このまま野良狼として生きて行こう。


 異世界行ってチートでヒャッホー!


 なんて夢を見るんじゃなかった……。

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