27-2:ひとときの日常 その2

ある日の浴室ーー


「だ、駄目だクレア!

 そんなにされたら……俺っ!」


 クレアの手が俺の下半身のある一点を

 執拗に触れている。


「えぇー。お風呂では喋っちゃ駄目なんでしょぉ?

 それに大きな声を出すと

 お母さんに聞こえちゃうよぉ?」


 クレアはそう言いながら

 いたずらっぽく笑っていた。


「こんなっ!が、我慢出来るわけっ、ない……。

 も、もぅっ!」


「駄目だよぉ。もっと時間をかけてぇ……」


 そういってシャンプーを手に取って、

 その場所にそっと塗りつける。


「でも、シャンプーで、そんなことされたらっ!

 シャンプーは駄目なんだぁ!」


「アハッ、だらしないお顔だねぇ。

 いいよぉ! その表情、すごくいいよぉ!」


「ら、らめぇー!」


「アハハ、

 そんなに尻尾の付け根が気持ち良かった?」


「サイコーっすぅ」


☆犬の豆知識☆

 犬は尻尾の付け根が凝っていることがあるので

 マッサージしてあげると気持ちいいらしいぞ!

 ※基本的には優しく

 マッサージしてあげてください。


「楽しそうね……あなた達。」


 俺はクレアに身体を洗ってもらっていた。

 クレアの興が乗ったのか、

 気持ちのいい所を重点的に洗われてしまった。


 そんな俺たちを『モコちゃん』は

 静観して見ていた。


 その表情からは何の感情も読み取れなかった。


 クレアは俺を洗った後の泡を洗い流し、

 『モコちゃん』を洗う準備をしている。


「次はモコちゃんを洗ってあげるからねぇ。

 ちょっとだけ待っててねぇ」


「お気遣いなく」


「さ、さすがはクレアだ。

 俺の弱点を的確に突いて来やがる」


 今日は散歩の時にいつもより

 身体が汚れてしまった。

 昨日の雨で地面が泥になっていたからだ。

 なので今日は早めの風呂だ。


 ソフィアさんはちょうど

 店の片付けをしている頃だ。

 なのでクレアも俺も少しはしゃいでしまった。


「なんだ?キュ……『モコちゃん』。

 クレアに身体を洗ってもらうの気持ちいいだろ?」


「確かに気持ちいいけど……」


 なんだか歯切れが悪いな。

 クレアのボディウォッシュ技術は十年間、

 毎日丁寧に愛情を持って

 行われてきたことによって鍛え、

 研ぎ澄まされてきた。

 その技術はもはや匠、

 いや『神の手ゴッドハンド』と

 呼ぶに相応しい。

 そのクレアに何の問題があるというのだ。


「はい! 次はモコちゃんね!」


「ちょっ! い、いきなり!」


 ふむ。やはり乗り気ではない。

 これはしっかり観察してどんな問題があるのか

 確認せねば。


「じゃぁ、いっぱいキレイキレイするねぇ。

 今日は汚れちゃったからいつもより念入りにねぇ」


「ちょっと待って!

 せめてウルフはこっちを見ないで!」


 む、『貴様のような素人が見たところで

 わかるわけないだろう。』と、申すか。

 面白い。

 伊達に十年間、クレアに洗われて来た訳ではない。

 しっかりと見極めてやる!


「わかったぞ! 『モコちゃん』!」


「絶対にわかってない!」


「じゃぁ、いくよー。」


 俺はしっかりと目を見開き、

 『モコちゃん』の様子を伺う。

 一瞬足りとも目を離さない!


「ぁ……やっ! だ……ダメ!

 ……そんなとこ触っちゃぁ。

 ぃ、ぃやっ……み、見られてるのに……

 見られているのにぃ……。

 そ、そんなとこまでぇ……ま、待ってぇ!

 そんなに激しくされたらぁ!

 ぁ……ら、らめぇー!」


※本日2匹目の『らめぇー』頂きました。


 くっ……!

 結局、俺はその『問題』を見つけることが

 出来なかった。

 すまない!『モコちゃん』!


「……私、汚されちゃった」


「何を言っている?

 汚れたから綺麗にしたんだろ?」


 俺たちは浴室を出て身体を拭いてもらう。


「そもそも私達は動物なんだから、

 毎日お風呂に入らなくてもいいんじゃないの!?」


「えっ? いや、普通に不潔だろ、それ。」


☆ウルフの豆知識☆

 ウルフは犬らしく暮らしているが

 こういうところは人間っぽいぞ!


「あ、いや、妖狐はそうなんだな。

 すまない、

 なんか押し付けるみたいになってしまって。

 そうだったのか。

 ま、まぁ、文化の違いがあるからな。

 それじゃ、クレアにも言っておくから。

 でも汚いから二日、いや三日に一度は入れよな?」


「……入ってるわよ」


 『モコちゃん』はボソりと呟いた。

 俺はそれを聞き取ることができなかったので

 聞き返した。


「えっ?」


「妖狐だって毎日お風呂入ってるわよぉっ!!」


 『モコちゃん』は涙を浮かべながら大声を上げる。


「お、おぃ。大声を出すな。

 ソフィアさんにバレるだろ」


 その後、『モコちゃん』を落ち着かせて、

 何とかソフィアさんにはバレずに済んだ。

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