27-3:ひとときの日常 その3

ある晩ーー


「ウルぅ、今日も最高だったよぉ」


「そ、そうか……

 クレアが満足出来たんなら良かったよ……」


 俺とクレアは

 いつものコミュニケーションを終えて、

 ベッドで話をしている。

 『モコちゃん』は先に寝てしまったようだ。


「ウルは『犬』じゃなくて『狼』なんだよね?」


「そうだぞ」


「それじゃぁ、『犬』と『狼』って何が違うの?」


「そ、それは……」


 犬と狼の明確な違い。

 うむ、なんと説明したものか。


「クレアは『遺伝子』ってわかるか?」


「うん、なんとなく」


 なるほど。

 この世界にもその言葉はあるようだ。


「それが違う」


「それじゃあ、わかんないよぉ」


 確かに。

 これだけでは説明は不十分といえるか。


「あとはぁ、狼は大きくて筋肉があって……」


「大きい犬もいるよね?」


 ぬ、その通りだ。

 見た目の説明は難しいかも知れないな。

 なら性質的な話をしよう。


「そうだなぁ。狼は狂暴で、

 犬は人に懐く……かな?」


「ならウルってやっぱり犬じゃない?」


 ……あ、ほんまや! ワイ、ほぼ犬やわ!


 そういえば人狼の里のやつらも仲間には

 優しかったが、

 他の魔族には冷たかったなぁ。


 俺は一匹狼気取ってたから

 俺には関係ないって態度してたけど内心では、

 『こいつら好戦的過ぎじゃね?』

 とか思ってたっけ。


 あれって狼の性質上、仕方なかったのかもなぁ。

 てことは俺はそもそも本質的に

 犬だったってことかぁ。


 クレア達には犬っぽく見せようと思って

 気をつけてはいたが、

 そもそもの考え方が犬っぽかった。


 なんとなく複雑な気分だ。


 まぁ、だからこそクレアを助けられたんだ。

 良しとしよう。


「狼は飼えないって図鑑に書いてあったけど

 ウルが犬なら飼っても問題ないよねぇ」


「そう……だな」


 これは認めても良いことだったのだろうか……。


 しかしあれだ。

 話せなかった頃は当然なかったことなんだが

 話せるようになった途端に

 思うようになってしまった。


 これメッチャ、ピロートークっぽい。


 前はクレアが一方的に話すだけだったので

 思いもしなかった。


 だが今は完全に会話が成立している。


 それを思うとどうしてもピロートークっぽく

 感じてしまうのだ!


 誤解無いように言っておくが、

 俺とクレアは変なことなんてしていない!


 ただ寝る前にクレアに身体中を

 なで回されていただけなのだ。


 確かに一糸纏わぬ姿でというのは

 クレアくらいかもしれないが、

 やっていることは愛犬家なら普通だろう!?


☆ウルフの豆知識☆

 ウルフは愛犬家をクレアのような人だと

 思っている節があるぞ。

 ※かなり特殊な部類です。

  身の回りに同じような人がいたら

  優しく諭して上げましょう。


 とにかく、

 俺とクレアには一切やましいコトなんてない。


 そうだ! 堂々としていればいいのだ!


 そんな時、部屋のドアがノックされた。


 あ、あかんでこれは!


 ガチャリとドアが遠慮がちに開く。


「お、お母さんっ!?」


 ハッ!としてクレアも気付いたが少し遅かった。


「クレア?もう寝ちゃった? 明日のことで……」


 ソフィアさんの視界には暗い部屋に

 服を脱ぎ捨てた娘と

 何年も一緒に暮らしてきた愛犬の姿が写る。


 二人は同じベッドの中で、

 娘はその犬に抱き付いている状態だ。


「クレア……」


「お母さん! 違うの!

 これはウルが人の温もりが恋しいって

 甘えて来るから!」


 してない!

 俺はそんなことしてない!


 クレアはピンチになるとちょいちょい

 俺に責任を投げようとすることがある。


 まぁ、犬なんで聞き入れられることはないんだが。


「クレア……。服を着てこちらに来なさい。

 少し話をしましょう……」


 うっ、目が恐い。


 あの目は『あの時』のクレアの目とよく似ている。

 さすがは親子だ。


「は、はい!」


「それにウルフも……」


 俺もコクコクと激しく首を縦に振る。


 フッ!どうやら今日の夜は長くなりそうだぜ!

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