13:密談

人類連合本部ーー


「まさかここに貴方が、直接赴いてくださるとは

 思いませんでしたよ。……魔王様」


「ことがことだ。致し方ない」


「しかしここはあなた方、魔族に対して

 我々人類が対抗するために設立された組織。

 休戦前はもちろん、休戦になった後も

 この組織は運営されており、

 魔族、魔物関連の有事の際は超法規的措置によって

 各国の軍事命令権を有することが出来る。

 あなたに取っても危険な場所ですよ?」


「そんなことは知っている」


「……まあいいでしょう。

 それで『天魔八将』のブラドが本当に

 魔族を裏切ったという

 確たるものがあるのですか?」


「最近の奴の行動は目に余る。

 休戦後、こちらの方でも何やら

 不穏な動きを見せていたが、

 先日、とうとうこちら側にも姿を現した。

 もはやこちら側に犠牲者が出るのは時間の問題……

 いや、もう既に出ているかも知れない」


「それはあまりに一方的ではありませんか?

 『天魔八将』のブラドが人間、

 つまり我々人類に対して

 危害を加える可能性がある。

 その情報が本当であるのならば

 由々しきことではありますが……。

 しかし、それはあくまで

 あなた方の言い分であって、

 それが魔族による攻撃ではないという

 証拠にはならないのではないのですか?

 下手をすれば休戦は破棄……」


「そうなって困るのは人間達の方であろう?

 お前達、人間の戦力が衰退の一途を

 辿っていることは知っている。

 その理由も……。

 それは休戦による棲み分けを行ったことにより、

 魔物、魔族との戦闘の機会が

 減少したことに他ならない。

 お前達、人間の特性は命を奪った相手より

 魔力を吸収することだ。

 倒したものが強ければ強いほどその吸収量は多く、

 飛躍的に能力を向上させる。

 しかし休戦が続き、戦闘の機会が減っていたことで

 現在の人間の戦力は休戦前の影も形もない。

 もし今、戦になれば我々、魔族の勝ちは

 揺らがないであろう」


「ほう……。では何故そうなさらないのですか?

 そうできない理由等がおありなのでは?

 それにそれが本当であったとしても、

 戦争が始まれば戦士たちの中に

 あなた方を打ち倒し、

 強大な力を持ったものが現れます。

 そうなれば……」


「その様な人間が出る前に叩く。

 もし再び戦争が始まれば、

 我々は全力を持って攻めさせて貰う。

 総攻撃だ。

 我々を倒し、魔力を得て強くなる前に

 一つ一つ潰して行けば良い。

 幸い我々はそちらよりも時間に余裕があるからな。

 もしそのような事態となれば

 手加減を咥えるつもりはない」


「う……むぅ……。アナタは何をお望みなのですか?

 我々の戦士達の戦力衰退が事実であったとして

 何故、こちらに攻めて来られない。

 あなた方にしてみれば

 望む所なのではないのですか?」


「私が目指しているものは『和平』、

 人間と魔族の共存を望んでいる」


「まさか!

 アナタは本気でそんなことを考えておいでか!?」


「何故それほど驚く」


「人間と魔族の戦いの歴史は

 貴方がよく知っているはずです。

 一時の休戦はあっても『和平』ということが

 許されるとは思えない。

 我らの人の民もあなた方、

 魔族の民もそれを許すとは……」


「戦なんぞの無駄なことに

 時間や労力を割いてなんになる。

 ならば手を取り合い、

 互いに高めることに割く方が

 有意義であるとは思わないか?」


「……それは理想論です。

 人間と魔族の溝は深い。

 例えどのような状況であっても

 それが実現するとは思えませんな」


「果たしてそうかな?

 もしかするともう既にその種は

 芽吹いているのかも知れないぞ?」


「……やめましょう。

 我々がここでその様な話をしたところで、

 それこそ無駄な時間です」


「……そうかも知れんな」


「我々、人類連合はあなた方からの

 提供された情報を信じましょう。

 休戦は引き続き継続。

 今後、対象の情報の共有をお約束致します。

 但し、合同による作戦行動等は

 一切認められません。

 ……それで宜しいかな?」


「ああ、構わない」


「……いつの日か、あなたの望みが叶うことを

 お祈り致しますよ」

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