22:『なんでも』

「……で、どうするの?」


(……どうするかねぇ)


 あれから何度かブラド捜索に

 キュウビが行ってくれているが、

 これという成果はない。


 そしてこれが最も問題だ。

 クレアに勘づかれないよう、

 上手くここを離れる方法もまだ決まっていない。


「この間、私が出した案はやっぱり駄目なの?」


(あぁ、あれか)


 キュウビの出した案はこうだ。


 キュウビの妖術でクレアを眠らせ、

 キュウビがクレアに化け、

 俺とキュウビの人形を操る。

 部屋を出るときは結界と人払いの陣を張り、

 ソフィアさんが部屋に来ないようにする。

 俺が戻って来たらクレアが眠っている間に、

 クレアに化けたキュウビが体験したことを、

 クレアに記憶として刷り込む。


 キュウビがこの村にいるなら長期的に継続も可能、

 現状ではこの案が最も効果的である。


 しかし俺はクレアに術を掛けることに

 抵抗を感じている。


 この方法はクレアから時間を奪う。

 人間に取って1日は貴重だ。

 それも学生としての貴重な時間。

 そしてそれはどれ程になるかわからない。

 ブラドが見つかるまで何度もおこなうことになる。

 いったいどれほどの時間を

 奪うことになるのか……。


「まぁ、別に貴方が嫌ならいいわ」


(いや、その方法で行こう)


 だが『あの日』から結構な時間が経っている。

 残された時間の猶予は多くはないだろう。

 もはや手段は選んでいられない。


「本当にいいの?」


(それしか方法がない。頼む)


「……わかったわ」


 出来うる限り早くブラドを見つけて

 こんなことは終わりにする。

 俺にこんなことまでさせたんだ。

 アイツは殺す。絶対に殺す。百万回殺す。


「本当にクレアのことが大事に思っているのね。

 ……クレアが羨ましいわ」


(なにか言ったか?)


「なんにもっ!」


 何かキュウビが不機嫌になった気がする。

 確かに最近、キュウビを頼り過ぎているからな。

 不満が募っているのかもしれない。

 何かしらでお礼しないと。


(キュウビ)


「何よっ!」


(いつもすまない。お前にばかり頼ってしまって。)


「きゅ、急に何よ……」


(いや、こちらのことばかりを

 押し付けてしまっていることは

 自覚しているつもりだ。

 だからちゃんと謝っておこうと思ってな)


「別にいいわよ。

 私が好きでやっているだけなんだから」


(この埋め合わせは必ずする。

俺に出来ることなら『なんでも』言ってくれ!)


「……な、『なんでも』?」


(ああ、俺に出来ることなら『なんでも』だ!)




 『なんでも』!

 彼が『なんでも』してくれる!?

 これ夢じゃないわよね!

 いつもの妄想とかじゃないわよね!

 キャーッ!!

 何してもらう?

 何してもらっちゃうの!?

 いえ!落ち着きなさい、私!

 彼は『なんでも』って言ったけど

 実際に『なんでも』してくれる訳ではないはずよ!

 どこかに境界線があるはず。

 ならどこまでがセーフなの?

 まずは段階を踏んでソフトなところから

 順番に考えて見ましょう!


・『なでなで』してもらう。


 これはセーフでしょ?セーフじゃない!?


『こんなことでいいのか?

 全くキュウビは甘えん坊だな』


 そうなの!

 私、甘えん坊なの!

 だからもっとなでなでしてぇ!


 問題ない!大丈夫ね!

 『なでなで』はセーフ!

 それじゃぁ次は……。


・『ギュッ』ってしてもらう。


 こ、これはどうかしら、さすがにぃ……


『お前とこうしていると落ち着くんだ。

 もう少しこのままでいいか?』


 もう少しどころか、ずっとでもいいですぅ!

 貴方が望むならいつだって、どこだってぇ!


 なんてこと!

 こんなことが本当に実現するというの!?

 ここまで来たのなら、次は……。


・『キス』してもらう。


 い、いくらなんでもこれは……。


『ずっとこの唇が欲しいと思っていたんだ。

 これはもう俺のものだ』


 は、はぃい~っ!

 私は全て貴方のものですぅ!

 全て貴方に捧げますぅ~!



 そして私の精神は限界を迎えた。


「ぐはっ!!!……幸せすぎる」


(ど、どうした、キュウビ!

 あんなに勢いよく鼻血が出るとこ

 マンガでも見たことないぞ!

 い、いかん、脈が弱い、魔力も弱まっている。

 キュウビ!死ぬなぁ!キュウビーっ!)


 このあと、彼に魔力を分けてもらって

 何とか回復した。


 そして、どれもが自分の口からは

 言えないことに気付いて少し泣いた。

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