11:キュウビの不在
「『天魔八将』に召集が掛かったから行ってくるわ」
元々、妖狐の連絡役がここに来て
報告は貰っていた。
その報告で召集の話を聞いたのだ。
魔王様から直々の『天魔八将』の召集。
これは断ることが出来ない強制召喚だ。
断れば反逆とも取られかねない。
(……え?おい、それ大丈夫なのか?)
「……多分、大丈夫よ。
ブラドのやっていたことは、
明らかな休戦条約違反だから
アイツが告げ口することはないだろうし、
軍の方にはバレてないはずだから」
ここに来るときに
替え玉はちゃんと用意しておいた。
私ほどではないが力の強い妖狐に任せてある。
『天魔八将』が相手でも
早々にバレることはないと思うが、
万が一バレでもすれば只ではすまない。
さすがにそれをあのコ達に押し付けるのは
気が引けた。
(そうか?だが……)
「大丈夫よ。貴方のことも言わないから。」
(いや、それは全然心配していないが……)
「そ、そうなの?」
どうやら少しは信用してもらえるように
なったようだ。
なにこれスンゴイ嬉しい。
「……帰ったらなんの話だったか教えてあげる。
同居人のよしみでね」
(ん? そうか。でもこっちの方はどうするんだ?)
「そうね……。この間と同じ様に
身代わりを置いて行くわ」
(すぐに戻って来れるのか?)
なに? もしかして私がいないから寂しいの?
やだもう! 可愛いじゃない!
もう! しょうがないわねぇ!
会議が終わったらすぐに帰って来てあげるわよ!
「わ、わからないけど、翌日には戻れると思うわ」
(丸一日か……。『あれ』動かないよな?
バレない様にするのは難しくないか?)
「え? ああ、そうねぇ……。
なら魔力で動かせるようにしておくわ。
見た目は私と全く同じだから、
それで一日くらいは大丈夫でしょう?
貴方が魔力を込めたら
自由に動かせるようにしとくから宜しくね」
私は自分の毛に魔力を込めて
『私(子狐var)』の人形を作って彼に渡した。
(あー、よくわからんが、頑張ってみるよ)
「……私の人形に『変なこと』とかしないでよね?」
(変なこと?
子供っぽいイタズラなんかするつもりないぞ?)
「お、大人っぽいことするつもりなの!?」
(だからしないって。
大体、大人っぽいイタズラってなんだ。
……ドッキリか?)
「と、とにかく! 今から出るわ。
明日の晩には戻れると思うけど。
人形は貴方が定期的に魔力を送ってくれれば
数日は持つはずよ」
(わかった、んじゃ、気をつけてなー。
いってらっしゃーい)
なんだか気恥ずかしい。
こんな言葉、なんだか夫婦みたいじゃない!
「……いってきます」
召集かぁ。
『天魔八将』といってもやはり組織。
上の命令には逆らえない。
魔王の誘いを断って後悔していた時期もあるが、
やっぱり断って正解だったかも知れん。
組織のような複雑な人間関係や断りづらい仕事、
そんなものに煩わされるのは
人間の頃だけで十分だ。
飼い犬最高!
やっぱ時代はペットライフだよな!
食う、寝る、遊ぶの無限ループ!
俺にはこの生活が合っていたんだ。
仕事をしているキュウビには悪いが
こっちはのんびり過ごすとしよう!
☆ウルフの豆知識☆
ウルフはすっかりヒモ根性が
染み込んでいるぞ!
※人間がやるとクズだと言われます。
「ウルー! モコちゃーん! ご飯だよー!」
お、飯か!
今日の飯は~っととと、
ちゃんとキュウビ人形を連れていかないとな!
えぇ~と、魔力を込めてー……。
こんなものか?
こうしたら思った通りに動かせるんだよな?
それじゃ『飯を食べに行く』ぞっと。
ーキュピーンー
キュウビ人形の目が光る!
バンッ! ダダダダダダダダダダダダッ!
扉に穴を開けて、
ものすごい早さで行ってしまった……。
「モコちゃん! 今日はどうしたの!?
そんなにお腹空いてたの?」
以外と操作が難しいな。これ。
「はい! ご飯だよー!」
今日はシチューか!
こいつは旨そうだぁ!
「それじゃあ! ウル! いっくよー!」
ん? いつものか。よし! どんとこい!
「お手っ!」
「ワウ!」
(そりゃ!)
「おかわりっ!」
「フワン!」
(そいや!)
「おまわりっ!」
「ワウン!」
(ていやー!)
「バク天三回転半宙返り!」
「ワオーン!」
(ぬんだらー!)
……決まった!10.00点!
「ん~! ウルは偉いね~! よ~しよしぃ!」
これくらい朝飯前、いや晩飯前だぜ!
「それじゃ次はモコちゃんだね」
ハッ!そうだ!
次はキュウビの番だ!
キュウビはまだ小さいから『お手』だけだが
さっきみたいに、やり過ぎるとクレアに
ケガをさせてしまうかもしれない!
慎重に、慎重にだ!
「お手」
よし、ゆっくり。ゆっくりだ。
『ゆっくりとお手』をするんだ!
ーキュピーンー
ぽふっ。
「はい! よく出来ました!」
良かった。今度は上手くいった。
「それじゃ、ふたりとも食べていいよぉ!」
「クォン!」
(いただきます!)
久しぶりのソフィアさんのシチュー!
最高ですぜ! 奥さん!
「あれ? モコちゃんは食べないの?」
そ、そうだった!
ってさすがに食べるっていうのは出来ないよな?
なら食べてる振りだけしておかないと!
えーと、『シチューに顔をつけて食べてる振り』を
するんだ!
ーキュピーンー
ビュン! バシャッ!
キュウビの首が振り子のような勢いて、
器に顔を埋めた。
辺りにはシチューが飛び散る。
なんとも凄惨な光景だ。
「モ、モコちゃんっ!! どうしたの急に!
お母さん、大変! モコちゃんがぁ!!」
キュウビ人形は今もなお、
ぐいぐいと皿の底に顔を押し付けている。
本当に操作が難しい。
「あー、顔がシチューまみれになっちゃったねぇ。
もうお風呂に入っちゃおうか」
次は風呂か。
風呂なら洗われるだけだから安心か?
浴室ーー
俺はクレアに身体を洗って貰ってる。
クレアの指使いは最高だ!
毛が絡まないよう気を使い、
優しく俺を天国に誘ってくれる。
はぁ~極楽極楽~。
「どう? ウル、気持ちいい?」
「フワォ~ン」
(最高ッス、クレアさん)
「アハハ、ウルってば変な声」
一通り洗ってもらって最後に湯で泡を落とした。
「はい! 終わり! それじゃ次はモコちゃんね!」
よし! ここだ!
さっきの様な失敗はしない!
『ゆっくりとクレアの前に行く』んだ!
ーキュピーンー
トテトテトテ、チョコン。
ふむ、移動に関してはだいぶ慣れて来たな。
「じゃあ、綺麗にするねぇ~。」
あとは洗ってもらうだけだからな。
俺は湯船でゆっくりしておこう。
さすがに人用のバスタブには浸かることは
出来ないので、俺は犬用で買ってもらった
大ダライの湯船に浸かっている。
ちゃんと底深でちょうど俺の肩までは
浸かれる位の深さだ。
この家は浴室が広かったので
これを置いてもそれほど狭くならずに済んだ。
しっかし、この世界にも湯船があって良かったぁ。
シャワーや蒸し風呂じゃあこうはいかん。
風呂はいいね。
風呂は心を潤してくれる。
ローマの生み出した文化の極みだよ。
あれ? 風呂の起源ってローマだよな?
ま、いいか!
「よし! モコちゃんも綺麗になったねぇ!
それじゃ、ウル、モコちゃんとお湯に
浸かっててぇ。」
あいよー。
俺はいつものようにキュウビの首元を咥えて
湯に浸ける。
はぁ~なんていうか、
このボォ~とした感じが堪らんよなぁ。
「ウルったらぁ。顔が緩みきってるねぇ。
モコちゃんは……」
いやぁ、そいつぁ仕方ないですわー。
「モコちゃん! 大丈夫!!」
え?キュウビぃ?
俺はキュウビの方に視線を向ける。
耳の先まで完全に湯に浸かっとる。
しまったぁー!
そういえばキュウビが湯船に浸かる時は
いつもタライに掴まって立って浸かってた!
「モコちゃん……もしかして、息して、ない?」
クレアの顔がだんだん青ざめていく。
当然だ。人形なのだから息なんかしていない。
マズい!呼吸を確認されたら終わりだ!
ここは問題ないアピールをする必要がある!
まずは『元気に湯船から飛び出て』もらう!
それでなんとか健康は証明できるはずだ!
ーキュピーンー
ザバッ! ヒューッ! ドンッ!
キュウビ人形の首が天井に突き刺さった。
身体だけがだらりとぶら下がっている光景は
なんともシュールだ。
「モ、モコちゃーんっ!!」
あのあとは大変だった。
天井から救出された後、なんとかコサックダンスを
披露して健康アピールには成功した。
しかしあれほどピーキーな人形だとは
聞いていないぞ!
いや、おそらくは俺が魔力を送り過ぎたのだろう。
必要以上の魔力を得て、出力が跳ね上がったんだ。
……今度から気を付けよう。
でもこれであとは寝るだけだ。
今度こそ、あとはクレアとの『添い寝』だけだ。
あとは動かなくてもされるがままで
なんとでもなる。
「なんか今日のモコちゃん、少しおかしかったねぇ。
……でもなんだか『ウル』っぽく感じたなぁ」
俺っぽい?
俺は人形のやったような
変なことはしていないはずだが?
もしかしたら人形が俺の魔力で動いているからか?
普通の人間も若干は魔力を感じたりするって
聞いたことがある。
「そういえば、ウルって最初から大きかったなぁ。
ウルもモコちゃんみたいに
小さい頃があったのかぁ。
可愛かっただろうなぁ。モコちゃんみたいに……。
『小さいウル』……。」
ん? なんだかクレアの息が荒いような。
これはぁ、『スイッチ』が入ってしまったか……。
「ウルぅ。今日はモコちゃんと一緒に寝てもいい?
ちゃんと先にウルもなでなでするからぁ。」
なるほど、今日はそういう趣向か……。
まあ、後はされるがままだからな。
問題ないだろう。
「ワン!」
(ええよ!)
たまには俺も一人でゆっくり寝るとするか。
久しぶりに普通に眠ることが出来るな。
俺はベッドの中で
モゾモゾと激しい蠢くものを背に、
深く安らかな眠りに着いた。
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