第27話
4日目の夜。山上が夕方に来て適当に2、3個の軽いボードゲームで遊んで帰宅させ、夜ご飯も食べ終え、夜のまったり時間になった。
「さあ、神野くん、今日も賭けをつけてゲームをやりましょうか」
「今日もってなんだよ。それだと毎日やってたみたいじゃねえかよ...」
「細かいことはいいわ。できれば簡単にできるものがいいわね...何かやりたいものはある?」
小牧はこちらにそう聞いてくるが、こいつは自分に勝てるビジョンがあるゲームしかやらない。即ちこいつはもう既にやりたいゲームが決まっている。
「別に変な小芝居打たなくてもお前がやりたいゲームでいいぞ?」
「あら、そう。別に小芝居を打ったわけじゃないけれど、そうしましょうか。」
あくまでも俺の意見を聞こうと思っていたらしい。
俺はいちいち否定するのも面倒になり、何も言わなかった。
「そうね。じゃあポッキーゲームをしましょう」
「ああ、ポッキーゲームなおーけーおー...は!?ポッキーゲーム!?」
「そうよ?ポッキーゲーム。知らない?あ、そうだったわね。あなたにはポッキーゲームを教えてくれる友達もいなかったわね...無自覚なこと言って悪かったわね。」
「やかましいわ!ポッキーゲームは知ってる。だがあれは勝敗がつくゲームじゃなくてただ単にイチャつきたいカップルがやるゲームだろ?あんなのゲームとすら呼べない。」
俺はそれだけ言いすてるとやらないという風に足を組み、リモコンを取ろうと手を伸ばした。
が、その手を小牧が止める。
「なんだよ...」
「じゃあルールを決めましょう。」
どうやらどうしてもやる気らしい。
***
「それじゃあ、始めましょうか。」
「あ、ああ。」
小牧が持ってきたポッキーを両端から少しだけ口に入れ小牧の方を見た。
近い!いつもより顔が近くに見え、俺は心の中で狼狽する。
だが、あくまでも表面上だけでもと冷静な顔を作った。
「じゃあ私からね...」
そういうと、小牧は一気に三口分、俺が咥えている方へと向かってポッキーを食べる。
はやくもあと8cm程度の長さになった。
俺たちが決めたポッキーゲーム(非公式)ルールは以下のようになっている。
☆ポッキーゲーム(非公式)ルール☆
①1ターンに食べ進められるのは3口まで。
②両者が1ターンに上限までの好きな数の分、ポッキーを咀嚼し、最終的に自分からキスをしたら負け。
③途中でポッキーから口を離すと反則負け。
④自らポッキーをへし折るのも反則負け
⑤1ターンに一口以上は食べ進めなければならない。
☆みんなもやってみよう!このゲームをやるときはお母さんとお父さんが家にいない時にやろうね!お兄さんとの約束だよ☆
以上だ。
要約すると先にキスするかポッキーを折ったりポッキーから口を離したら負けということだ。
色々と考えた結果、やはり俺が勝てる要素はどこにもない。いや、言い方を間違えた。キスを回避する方法がどこにもない。
俺が勝ってもキスするし、負けても罰ゲームがキスという可能性も全くといっていいほど否定できない。
ていうかルールが単純すぎてどう頑張ってもルールの抜け穴が見つからない。
俺は一口だけ食べ進める。
小牧は再び大きく3口距離を詰めてきた。
俺は必死に頭を働かせながらももう一口を躊躇いながらも進める。
鼻が当たった。
この距離はもう三口進めれば余裕で口が当たる距離だ。
小牧は口にポッキーを咥えたまま柔らかく微笑んだ。
その後、ゆっくりと一口、
目を瞑り、少し緊張したように二口...
パキッ
...三口目、
は小牧の唇が俺の鼻に当たった。
何があったのかをもう一度確認しよう。
小牧が最後の一口を食べ、俺の唇に自らの唇を当てる瞬間。
俺がポッキーをへし折った。
その半秒後、小牧の唇が俺の鼻に当たった。
大成功!キスは回避した。
「ん!?」
小牧も自分の口に当たったものが鼻だと気づいたのか目を開けて鼻から口を離した。
「俺はポッキーをへし折ったから反則負け。だがお前も鼻にキスをしたから同じく負け。引き分けだな。」
俺は途中で思いついた屁理屈もいいところの理論を口にして、ポッキーを咀嚼した。
あ、危ねぇ...あと少しでも遅かったらキスしてた...正直今にでも顔を赤くし、悶絶しながら床を転げ回りたい気分だが、俺はぐっと堪えた。
「ずるいわよ!引き分けなんて...うぅ...」
小牧は自分の完璧だと思った作戦に穴があったことに悔しがっているのか頰を膨らませながらポッキーを咀嚼した。
本当に危なかった...。
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