第5話

あの後部室の鍵を返してくるから先に帰っていてと言われたので、俺は家に向かって歩いた。


俺の家は学校から徒歩15分の近場でまあこの高校を選んだ理由は察してほしい。

俺は家に着くと鍵のかかった玄関を開ける。


「ただいまー」


俺の声に対して帰ってくるのは静寂だけ。俺は家でもぼっちなのだ。

いや、親はいるが、父は医者で忙しくて1年に数度しか返ってこないし、母は大学教授で東京に住んでいる。こんな家庭に育った俺といえば小学校の低学年までは父が勤務時間を短くして面倒を見てくれたが、高学年になり、一通りの家事を覚えた俺は親にもう1人でも生活できると判断されて家を任された。


別に愛されていないわけではないし、俺が親のことを毛嫌いしているわけでもない。むしろ俺は両親のことが好きだ。やりたいことは基本やらせてくれるし、それ故かやる時はしっかりやらせるという教育方針も俺の尊敬に値するレベルだ。

だからか、俺はそんな英才教育(?)を受けたからか他の人よりも心の成長がかなり早かった。


それ故なのか俺はいつしか周りの奴らが自分より下に見えていた。

小学校で先生に怒られているやつを見かければこいつはバカだと思い、それで泣いている奴がいれば弱い奴だと思ってしまう。


中学校に入ってそれに気づいた時には、残りの数少ない知人をも避けて完全に周りから孤立した。毎回言葉の裏を考えている自分が人間という存在すら信用していないと思い始めた。


が、今日の小牧花梨と言う女はそれをたやすくぶち壊してきた。俺が周りの奴らに話しかけるなオーラを出そうが平気で近寄ってくるし、挙げ句の果てには俺のことを好きだと言い始めた。俺は久し振りに愛というものを感じて微量ながら興奮したことも認めよう。そりゃあんな美少女に告白されて嬉しくないやつなんで同性愛者くらいだ。決して同性愛を否定しているわけではないが、そういう次元なのだ。


俺は飯を食べてしばらく暇つぶしにバラエティ番組を見た後二階の自分の部屋に上がった。


窓を開けてベランダに出て風を浴びてから勉強机に座った。現時刻は11:30そろそろ寝たほうがよさそうだ。


ベランダから外を見ると、となりの家の明かりはまだ消えていなかった。


「今日も頑張ってんな」


他人事のように言う。


お隣さんは高校生の娘さんがいるらしいが、遅刻ギリギリに登校する俺は彼女に会ったことはない。


だがいつも俺が日付が変わる少し前まで勉強していても彼女の部屋は電気がついている。つまり彼女はもっと遅くまで勉強しているということだろう。

そう思いながら俺は電気を消して就寝した。



***



次の朝。

俺は春にしてはやや暑苦く、だが、何故だか心地よい気持ちで目覚めた。

なんだ? 抱き枕か?

俺は目を閉じたまま自分が抱いているものを更に強く抱きしめる。


「ひゃぁ!? 」


変な声がした。まてよ? 俺の部屋に抱き枕なんかないぞ? しかもこの抱き枕、やけに暖かいしいい匂いがする。この匂い、覚えがある。確か–––––––––



「–––––––っは!? 」



俺はその匂いを思い出し、意識を完全に覚醒させた。


「ふふ、おはよう。神野くん」





そこにいたのは小牧だった。

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