第32話
「ねぇ、神野くん。私の髪の毛触って、抱きしめてるって、そんなに私のこと、好きになったの...?」
「そんな訳...」
俺は口籠った。俺は本当にどうしてしまったんだろうか。先程小牧を抱きしめてから俺の腕が言うことを聞かず、小牧を離させてくれない。
だが、俺の態勢を客観的に見れば普通に俺が小牧を抱きしめたくて抱きしめているようにしか見えない。これは普通の人が見れば俺が小牧のことを好きなようにしか見えない。
だが俺は続きを口にした。
「ねぇよ...」
小牧はそれを察したのか
「ふふ、苦しい言い訳ね。まあいいわよ。」
と俺の胸に顔を埋めて言った。
午前2時過ぎ、
小牧は俺を抱きしめたままぐっすりと寝てしまった。
「すぅ...」
可愛い寝顔で小さな寝息を立てながらスヤスヤと眠る様は天使のような可愛さがある。
「全く、こっちは一睡もできないっていうのによ...」
そう。俺はあれから一睡もできずに寝転がっているだけだった。それはそうだ、こんな美少女が俺に抱きつきながら寝ていれば緊張やらで寝れない。
先程から小牧のシャンプーのような香りが俺の鼻孔をくすぐり俺は幸せな気分になりながらも緊張、狼狽やらが頭の中をちらつく。
今すぐこいつを引き剥がして俺が別の部屋に移動することもできたはずだ。
だが俺はそれができなかった。
シンプルにこのまま幸せな気分を味わいたいという気持ちが勝ってしまったからだ。
俺は小牧の頬を指で触る。
ふにっ
という音が出そうなほど柔らかい頰を俺は2度、3度とつつく。
「柔らかいな...」
その独り言は誰に届くこともなく俺の耳で何度も反復するだけだった。
5秒後、不意に俺の部屋のドアが開いた音がした。
***
ガチャリ。
と俺の部屋のドアが開く。
現在この家にいるのは3人。そのうち2人はここで寝ている。
ということはドアを開けたものは強盗でもなければ1人しかいない。
そう。山上である。
俺は暗い部屋の中でそっと半分だけ目を開ける。
小柄な体に暗闇の中でもうっすらと見える茶髪のボブカット。
うん。完全に山上だ。
これは終わった。
今の状況を再確認すると
小牧を抱きしめる俺、俺を抱きしめる小牧。
それ以上でもそれ以下でもない。
一応小牧はタオルケットの中に潜り込んでいるため姿は外から確認はできないかもしれないが、タオルケットの膨らみかたは明らかに2人分のものになっているだろう。
小牧がゆっくりと近寄ってくる。
もう見つかるのは仕方ないとして、こいつは一体俺の部屋に何をしに来たのだろうか。
わざわざ俺の監視に来たのか...?
だとしたらこいつは一体なぜそこまで俺たちの関係性を気にするのだろうか。
まあ気にされる関係ではないのだが...
小牧が俺の目の前に立った。
「...ん、ん?」
どうやらタオルケットの違和感に気がついたようだ。
終わったー...。
俺は必殺、寝たふり作戦を決行する。
これで小牧に罪をなすりつけられるぜ!(クズ)
まあ現に俺のベッドに潜り込んできたのは小牧だし、俺は一度追い払おうとしたのだ。
オレ、ワルクナイヨ。
パサッと静かにタオルケットが捲られる。
「すぴー...。」
俺は寝ている作戦を決行すべく、適当に寝息を立てた。
「...!!」
目をつぶっているのでよくわからないが、山上が驚愕しているように感じる。
そして–––––––
「うぅ...」
あれ?何も聞こえない。俺は狼狽する。絶対無理やり叩き起こされると思ったのだが...
先程から悔しそうに山上が唸る声しか聞こえてこない。
そして次の瞬間。
ベッドが揺れた。
誰かがベッドに乗る感触。
そして、何故か山上は小牧が寝ていない反対側に寝そべり俺の腕をその豊富なバストに抱き寄せた。
えぇ...?
マジで何で...?
緊張と興奮で、この日、俺が眠れることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます