第21話

その日はお昼ご飯に小牧が豚肉の生姜焼きを作ってくれて、2人で食べた。途中であ〜んされたり、挙げ句の果てには口移しで食べさせようとしてきた。


なんだか距離が近すぎる気もするが、超えてはいけない一線は守っている。そこからは一応退学しているだけなので、課された課題をこなしたりとまったり2人で過ごした。


ちなみに小牧は休学中なので特に課題がない。ずるい。


しばらく勉強して午後5時を回った。


「神野くん。着替え持ってくるわね」


「は? 」


俺は素で聞き返す。


着替え? 何で? 俺の考えていることが顔に出たのか小牧が続けていう。


「これから私、ここに泊まるわ」


「は? 」


俺はもう一度同じ言葉で返した。


「はぁ…あなた、その何度も聞き返すのやめたら? それとも本当に聴こえてないのかしら? だとしたら耳掃除、したほうがいいんじゃない? もう手遅れかしら…」


「そういう意味じゃねぇよ! 泊まるって何だよ! 流石に無理だよ! 夜までここにいるのはいいが寝るときはちゃんと帰れよ! 」


「そう。夜までいてもいいのね。じゃあお風呂、こっちで入っても問題ないわよね? 」


それだけ言い残すと小牧は立ち上がって玄関から家に戻った。

やられたわ…これ絶対深夜くらいまで帰らないやつじゃん。


程なくして小牧が戻ってきた。そこには着替えだけでなく、他の荷物もあり、ボストンバッグに詰め込んであった。


見るからにお泊りセットだ。


「いや、話聞いてた? 耳鼻科行く? 」


「ふふ、あなたよりは大丈夫よ。先にご飯、作っちゃいましょうか」


やはり小牧は夜ご飯も作ってくれた。メニューはシチュー。


大き目の肉や人参、じゃがいも、ホタテやエビなどの具材が入ったシチューは絶品で、毎日食べたいと何とも恥ずかしいことを思ってしまう。


午後7:00が過ぎて、ご飯の片付けも終了。


「じゃあ、お風呂入るわね? 」


「いや、まて。マジで風呂は家で入ってくれ…」


「どうしてかしら? 」


お前が入ってる間に我慢するのが大変だからだよ!


「いや、ほら…うちの風呂狭いし…」


とりあえず適当に誤魔化す。


「そんなことないわよ。覗きたいならいつでもいいわよ? 一緒に入る? 」


「はいらねぇよ! 」


「あらそう。じゃあ一人で入るわね」


そう言って小牧は脱衣所のドアを閉めた。中から衣擦れの音がする。


ああ、もう手遅れだ。


仕方なしに俺はテレビをつけた。

何も聞こえないよー。シャワーの音なんて…あ、ちょっと聞こえるわ、やばい。やばいよぉ〜…。


などの思考が離れないまましばらくして、インターホンが鳴った。


俺は救いの女神が来たとばかりにドアを開ける。

「はーい。どちら様…え? 」





そこにいたのは山上だった。

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