停学期間の話

第20話

当然といえば当然なのかもしれないが、俺は学校側から停学処分を受けた。


理由は校内暴力だ。


いや俺山上を守った立場なんですけどといってやりたいところだが片桐に結構ダメージがいったようで一週間入院するらしい。


同様に俺も一週間停学となった。


解せぬ。


しかしながら停学期間が始まった初日。俺はむしろ停学期間を存分に満喫しようと、とりあえず二度寝した–––––––











–––––––ゆさゆさと俺の体が優しく揺すられた。


「んー…」


だが俺はまだ寝ていたい。なので


その揺さぶりから逃れるようにタオルケットで自分の体を包み、反対方向に寝返る。


「神野くん? 起きなさい。もうお昼よ? 」


だがそのゆさゆさは止むことはなく俺の方に近づき、再び俺の体を揺らしてくる。


「あと10分〜」


「ふふ、仕方ないわね。じゃあ私も一緒に寝させてもらうわ…」


そしてそのゆさゆさは止み、俺のタオルケットにもう1人誰かが入ってきた。


あー、何だこれ。いい匂いだな…。しかもすげぇ柔らかい。いい抱き枕だ…。


ん? まて。だからうちに抱き枕なんてねぇよ!!


俺はもちろん完璧に目覚めた。


案の定俺が抱き寄せていたのは小牧だった。


「おい。お前なんでここにいるんだよ。学校はどうした」


「あら、一緒に寝ていたこと自体に何も違和感はないのね。嬉しいわ」


「いいから質問に答えろ! 」


俺は小牧がおかしな妄想をする前にもう一度聞いた。


「学校なら休学したわよ」


「は? 」


「はぁ。相手が言ったことは一度で聞き取りなさい? あなたは単細胞なアホなのかしら? 」


いつものように軽く罵ってくるがこいつの言ったことの意味がわからなかった。

休学? 何で…?


「何でって顔してるわね。わかりやすくて可愛いわ。まあ簡単に説明すると家庭内の事情ということで休学したわ。一週間ね」


「いや待て。普通そんな簡単に休学できないだろ! 親の許可とかは!? 」


「親の許可なんて印鑑があれば簡単よ。あとは適当に家庭内のそれっぽい事情でもでっち上げておけば休学なんて簡単だわ」


こいつおかしいよ…。


「何で休学なんて…」


「そんなのあなたと一緒にいるために決まっているでしょう? あなた、山上さんのこと俺の女とかいったらしいわね。本気なの」


小牧は完全に殺気立った目で、俺を睨め付けてきた。


いや怖すぎる…3歳児くらいだったらもう泣き叫んでるぞ…。


「そ、そんなわけないだろ! あれはああでもしないと山上にまで被害が及ぶだろ!? 俺がああやって主張しとけばこれから変な男も寄り付かないだろ」


「ふん。もういいわ」


「おい怒るなって…」


別に俺が誰のことを好きになろうとこいつには全く関係ないのだが、俺は何故か小牧に何も言わずに山上のことを俺の女とか言ったのに罪悪感を覚えていた。


いや、マジで何でだ…。俺全然悪いことしてないのに。


「じゃあこのままベッドに押し倒してキスしてくれたら許してあげるわ」


「は!? 」


ベッドに押し倒してキスって…!


ハードル高すぎるだろ! 俺まだ童貞だぞ?

いきなりベッドでキスはキツイって…。


「やらないならいいわよ…ただやってくれないなら…」


小牧はそう言ってうるっと瞳を潤わせた。おい! 泣くのはズルい!


「わ、わかったから泣くな! 」


「あら、そう」


というと一瞬で涙を引っ込めてベッドの端に腰掛けると押し倒されるのを待つかのように背筋を伸ばした。おい完全に嘘泣きじゃねぇかよ…。


マジでやるのか…?


俺は小牧の肩を掴み、しばらく固まる。その肩は柔らかく、華奢でうなじは白くて美しかった。


しかし俺だって男だ。


意を決して俺はそのまま優しく小牧をベッドに押し倒した…。

「…! 」


小牧も遅れてビクッとしながらも何かに期待するように、そっと目を閉じてその桜色の綺麗な唇をすっと強調した。


…く! ただ粘膜を接触させるだけ…! ただ粘膜を接触させるだけ…!


俺は念仏を唱えるように脳内で自分に言い聞かせながらもう一度小牧を見た。


華奢ながらも美しいうなじ、サラサラで艶があり、肩より少し下まで伸びた黒髪…。パッチリとした目にそれを更に美しく伸びたまつ毛。


そして桜色で小さいながらも綺麗で美しい唇…。


俺は意を決して小牧に顔を寄せる。


あと5センチ、


4センチ、


3センチ、


2センチ––––––––















–––––––––––––俺は小牧のおでこにキスをした。



小牧は一瞬体を震わせたが、何も言わずに俺を抱き寄せた。

わずか数秒だが、俺は唇を小牧のおでこから離す。

小牧は不満とばかりに頰を膨らませていた。


「度胸のない男ね」


だがその言葉に棘はなくむしろ優しかった。


「うるせぇ…口にキスしろとは言われてないからな…」


「ふふ、まあいいわ。本番はあなたが好きな時にしていいわよ? 」


「ああそうかい。じゃあ好きな時にさせてもらうよ」


俺は雑に流しながらも顔が真っ赤になっているであろう自分の顔を隠すために足早に部屋を出た。

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