第22話

「え? 」


そこにいたのはまぎれもない。山上だ。


「先輩…その、来ちゃいました! 」


山上はそう言って一歩踏み込んでくる。


「中、入ってもいいですか…? 」


「あ、ああ」


俺はそのお願いに対して首を縦に振ってから自分のおかした過ちに気がついた。や、ヤベェ…小牧が風呂入ってんじゃん…バレたら終わる!


停学中に家の事情で休学してるやつと一緒にいたら明らかにおかしいもん…。


俺はシャワーの音が聞こえないようにといつもは閉めないリビングのドアを閉めた。


よし。これで聞こえないはずだ。あとは小牧が長風呂だということを願うばかりだ。


「え、と…なんか用か? 」


「はぇ!? あ、その、昼休みに先輩の教室に行ったのにしばらく休みだと言われたので、その…心配になって」


「ま、まあ大丈夫だ。蹴られたのはほとんど擦り傷だったし」


「そうですか…」


俺は山上に座らせたL字ソファーの反対側に座る。


「そんだけか? 」


正直なところこいつは別に嫌いではないが、今日は帰って欲しかった。


マジで早く帰ってほしい。小牧が…!


「その。他にもあって…」


「お、おう」


今日の山上はどこか変だ…。


いつもはどちらかというと元気ハツラツ! という感じだが今日はおとなしい。


それどころかずっと頰を紅潮させている。熱でもあんのか?


「あの、私の相談、解決してくれて、ありがとうございました…! やり方はちょっとアレでしたけど、私のために頑張ってくれたのは本当に嬉しかったです」


「お、おう。そうか、まあ仕事だからな」


「それと、あの…」


山上は言葉を途切れさせた。顔が一気に真っ赤になり、俯く…。


「どうした? 」


俺は続きを出来るだけ優しく促した。

やがて顔を上げて山上は口を開く。


「あの、私のことを思ってくれるのはすごく嬉しいです…! でも私、もっと先輩のこと知りたいんです! だから返事は待ってもらってもいいですか? 」










ん?


返事? 俺が山上のことを思う?


どういうことだ? なんかその言い方だと俺がお前に告白したみたいな…あ。


ふと自分の発言が頭の中に思い浮かぶ。


『俺の女に手ェ出したからに決まってんだろ』


頭の中で何度もリピートした…。


たしかに告白っぽい!


付き合ってないところに俺の女発言…側から見たら完全に告白だ!


俺はてっきりあの時こいつは一瞬動揺したもののすぐに意図を理解したから黙り込んだのかと思った。だが––––––



こいつ! ただ単に恥ずかしくて黙ってただけかよ!


つーか今頃だけど俺そんな誤解される発言をあの大衆の前で言ったのか!? 恥ずかしい!!


「いや、あのな山上、あれはお前を守るために言っただけで、別に告白したわけじゃなくてだな…! 」


俺は誤解を解こうとあの発言の意図を伝える。


「え? 」


山上は俺の説明をしばらく意味がわからないとも言いたげな表情で聞いた後先ほどよりも数割増しで顔を赤くして俺に殴りかかってきた。


「バカッ! ばかばかばかばかぁぁ〜!! 」


まあポコポコパンチなので大して痛くはなかったが。


が、不意に山上が俺の胸部に体重をかけてきたので俺は後ろに倒れた。


山上がソファーの上に俺を押し倒した形になる。


「お、おい。落ち着け。悪かったって…」


俺は立ち上がりながら謝罪したが山上は俺の上に馬乗りになり、俺を立ち上がらせてくれなかった。


「…うぅ〜。」


自分の勘違いがよほど恥ずかしかったのか顔をトマトのように真っ赤にし、数秒おし黙る。


いや、あの、恥ずかしがるのは俺の上から退いてからにしてくれない?


程なくして山上が顔を上げた。


「色々考えましたけど…今回は不問にしてあげます」


「お、おう」


俺は無言で頷く。許してもらえたようだ。


「でも、今度何かお詫び、期待してますからね? 」


山上は先ほどの恥じらいの顔とは打って変わって小悪魔な表情を見せた。


俺も少し口を緩めた。

「おう。いいぞ」


と、言ったところで––––


「ちょっと! 神野くん!? どうして覗きに来てくれないの!? …ん? 」


バタン! と、リビングのドアが開いた。






「あ…」


「ふぇ? 」


俺はすっかり小牧がお風呂に入っていることを忘れていた。


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