第11話
「ねぇ、神野くん、私、かわいい? 」
「…!あ、ああかわいいぞ」
俺は俺の右腕を掴んで自分の体をしっかりと密着させてくる小牧に対してそう答えた。
ダメだ。落ち着け俺。今は振り払ってはダメだ!
「ふふ、嬉しいわ。もう一回可愛いって言って? 」
「か、かわいい」
「もう、それじゃあ主語がないわ。誰が、どのくらい可愛いの? 」
「…! 」
俺は激しく動揺した。無理! そんな恥ずいこと言えねえよ!
いや、でも今は、今は振り払ってはいけないんだ! なぜなら、
本当のカップル同士はお互いを振り払ったりしない!
「あー! もう無理! こんなんこっぱずかしくてやってられん! 」
「あ、ちょっと、今は私たち恋人なのよ? 彼女を振り払う彼氏がどこにいるのかしら? 」
小牧はほんのり朱色に染まった頰をぷくっと膨らませた。
何故いきなり俺たちがこんなカレカノごっこをし出したかというと、
『具体的には私たちがいちゃついてるところを見てそれを詳しく理解すればいいと思うのだけれど』
そう。あの発言から一夜明けた放課後。この教室には俺と小牧以外にもう1人、
山上明日香がいる。彼女が俺たち2人の初めての依頼人で、依頼内容は
『周りの友達の恋バナがよく理解できないからどうにかしてほしい』
とのことだ。しばらくの議論の末に恋自体が理解できないのなら私たち2人がいちゃついているところを見てカップルの最低限のイチャつきというものを知りなさい。とのことになった。で、今ここで偽カップルとして適当に小牧とイチャついていた(?)のだが、流石にもう無理だった。
「あら、でもこれは山上さんの問題よ? 仮に神野くんが私といちゃつくのは二人きりの時だけがいいと言ったとしても山上さんがこれに効果を感じているのなら依頼主として最後までやるべきなのではないかしら? 」
「おい待て、勝手に俺の心を捏造するな」
つっこんだもののたしかに小牧が言っていることは筋が通っていた。くそ。ど正論だ。
俺は山上の方に視線を向けた。
「おい、これ効果出てるか? 」
これでバッチリ効果あります! とか言われると非常に困る。具体的に俺の理性が保てなくなる。
「いや、その正直見てるこっちが胸焼けしそうでちょっとキツイです」
「だとよ。この作戦はダメだってよ。だから終わりな」
小牧はため息を吐いてそのまま俺に体重を預けてきた。おい。もう終わりだぞ。
「で? ほかに何かないのかよ? 」
俺の肩に頭を寄せて寄っかかってくる小牧に対して聞く。
「神野くん。さっきから人任せね。あなたもそろそろ何か考えたらどうかしら? 本当に二足歩行にしか取り柄がない役立たずになるわよ? 」
俺、そんなに取り柄ないか?
「そうですよ、私もそろそろ先輩の考えも聞きたいです! 」
「お、おう…」
俺はしばし黙り込んだ。いや、決して解決方法がないわけではない。ないわけではないのだが…
「いや、一応あるにはある。だが本当に役立つかは不明だ。それでもいいか? 」
「はい! 教えて下さい! 」
俺は意を決してその方法を口に出した。
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