20、問いかけ-Question-
「痛ったあ!」
恵美利はどさっと落ちた際に尻もちをつく。
「おっと、手が滑ったようじゃの。それでお主、何か言いかけていたようじゃが、ほれ、言うてみよ」
見た目小学生の学長・インテゲルは恵美利に微笑みかける。
「…………いえ。な、何でもないわ」
恵美利はお尻をパンパンと叩いて立ち上がる。
(え、恵美利ちゃんが黙った……!)
今まで恵美利の自由奔放ぶりを見てきた亜子は、その事実に衝撃を受ける。
「…………さて、改めて、わしがメルクリス魔術学校の学長、インテゲルじゃ。そうじゃな、まずはお主らの名前を聞こうか、異世界から来た者たちよ」
インテゲルはつかつかと歩いて恵美利と亜子の前に立つ。
「私は白金恵美利。よろしくね、学長さん」
恵美利は笑顔でインテゲルに挨拶する。
「……お主、なかなか不遜じゃの。まあよいが。…………そちらのお主は?」
「く、黒鉄亜子です。よろしくお願いします……!」
亜子はぺこりと頭を下げる。
「ふむ、よろしい。それではお主らにまず問おう。この世界を救う気はあるか?」
緊張感のある問いかけに雰囲気が硬直する。
「もちろん、この世界を救って私たちは日常に帰る。そうよね、亜子?」
恵美利は亜子をちらりと見やる。
「う、うん。私も頑張るって、決めたから……!」
「…………死ぬ可能性もあるじゃろう。それでもか?」
「!」
亜子はびくっと体を震わせる。
「死なないように努力するだけよ!」
恵美利はドン、と胸を叩く。
「亜子。お主はどうじゃ?」
インテゲルの目がまっすぐ亜子を見据える。
「…………私は」
亜子は、恵美利の手をきゅっと握る。
「恵美利ちゃんといっしょなら、頑張れます……!」
「……よく言ったわ亜子! いっしょに頑張りましょう!」
恵美利は亜子の手を握り返す。
「…………まあ、いいじゃろう。覚悟はその時々でぶれて当然。わしもここまで約100年、いろいろあったもんじゃ。今は、その言葉をもって入学を認めよう」
「100年」という言葉に恵美利はぴくっとなるが、さすがに今度は自重した。
「ではお主らにこれを」
インテゲルが指を振ると、二人の頭上に「何か」が出現する。
二人は落ちてくるそれを両手で受け止める。
「これは……制服ね!」
恵美利はそう言うなり、さっそく制服をふわりと広げる。
「青いブレザーに白い巻きスカート! とってもかわいいわ!」
「恵美利ちゃんは似合いそうだけど、私に似合うかな……?」
亜子は制服と恵美利を交互に見る。
「亜子もきっと似合うわ! じゃあさっそく着がえて授業を受けに行きましょう!」
レッツゴーというふうに恵美利は学長室を出ようとする。
その瞬間、恵美利の周りに鎖が出現し、恵美利を拘束する。
「!」
「…………お主、少しは協調性という言葉を学んだらどうじゃ? お主らが正式に生徒となるのは明日からじゃ。」
インテゲルははあ、とため息をつく。
「あら、残念。それにしてもすごい魔術ね! この鎖、全然引きちぎれる感じがしないわ!」
「お主らは明日、魔術の適性を測り、その後各クラスに振り分けられる。授業を受けるのはそれからじゃ」
インテゲルは恵美利を無視することに決めた。
「各クラスに……ってことは、もしかしたら恵美利ちゃんといっしょのクラスにはなれないかもってことですか!?」
亜子は「聞いてない!」という顔でショックを受ける。
「魔術量、適性など魔術の潜在能力でクラス分けは決まる。ばらばらになることももちろんあるじゃろう」
「そんな…………」
落ち込む亜子に、恵美利は声をかける。
「クラスが分かれようと私たちの友情は変わらないわ!」
「そ、そうだけど…………」
(…………。亜子さんは恵美利さんがいたからこそここまで来れた。そういう意味ではむしろ、亜子さんの成長を考えれば二人は別のクラスの方がよさそうですね…………)
ゲネロスは表情を崩さずに二人のやりとりを見守る。
「おっと、もうこんな時間か。ではそろそろこの面会はお開きじゃ。わしは次の仕事があるからのう。生徒の寮は東西南北の棟にあるが、お主らは今日はこの中央棟の空室に泊まるといい。それではの」
そう言い残すとインテゲルは瞬きの間に消え、3人は気がつくと学長室の外にいた。
ブラック・ラック・ホワイト 柴王 @shibaossu753
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