11、急襲-Raid-

「さて、あらかたここで夜をしのぐ準備は整いました。お二人とも疲れていることでしょう。食事は私たちが作るのでお二人はゆっくり休んでください」


「いいえ、私たちもお手伝いするわ。未来に備えて、ね」

 亜子もこくこくと頷く。


「では、お二人もいっしょに………。!」

 瞬間、ゲネロスの顔つきが変わる。


「二人とも、伏せて!」


 恵美利はただならない雰囲気を察知して、亜子の肩を掴みながら咄嗟とっさに伏せる。


風弾ウインドバレット!」

 正面に向けられたゲネロスの手のひらを中心に風が集まり、集められた風が銃弾のように手のひらから放出される。


 ズズゥゥン! と大きな音が恵美利と亜子の後方から聞こえる。


「何が………。 !?」


 恵美利と亜子の目には、ゲネロスの魔術によって木の幹に叩きつけられた「」がいた。


「総員! 手を止めて周囲を警戒! 下級悪魔が出現しました!」

「! 了解!」


 ゲネロスの声に隊員が反応する。隊は一気に緊張感に包まれる。


「悪魔………!? あれが………」


 恵美利は目を凝らす。叩きつけられたモノは、体長1.5m程度、細い手足に鋭い爪、血走った赤い目で、全身が黒色で覆われていた。


 亜子はその姿をはっきり見たくないとばかりに、目を逸らす。


 悪魔はその直後、砂のように崩れ去って消滅する。


「下級悪魔、二体を視認! 隊長、指示を!」


「前衛、後衛に分かれて迎撃を開始! ただし火と雷の魔術を使える者はできる限り周囲を明るく照らして! どちらにしろ森を燃やすおそれがある以上は敵に向かって攻撃はできない!」


「了解!」


(討伐任務であれば一瞬で暗闇を照らす魔術灯を携帯しているのに……! 攻撃魔術を応用した即席の灯りでは十分に周囲が確認できない!)

 ゲネロスは口元を歪める。


「はあ!」

「ぐっ!」

 複数で敵との戦闘の音が聞こえる。


「やはり、敵はもっと多い……! 恵美利さん亜子さん、お二人は私の側に!」

「……ゲネロスさん」


「なんですか恵美利さん!?」

 ゲネロスは周囲を警戒しつつ耳だけを恵美利の方に傾ける。


「このままじゃ確実に隊に被害が出るわ、最悪誰かが犠牲になる!」


「……ですが、この視界の悪い中では一人ひとりにふんばってもらう以外には……!」


《《》》。そこを全員で一網打尽にして!」


 恵美利の提案に、ゲネロスは声を荒げる。


「はあ!? 駄目です! 恵美利さんを危険にさらすわけにはいかない! 恵美利さんは戦力ではありません! 隊が守るべき対象です!」


「誰にも被害を出さず、この場を切り抜ける方法がある。あなたは隊長でしょう? 隊員の命に責任を持つんじゃなかったの?」


 恵美利の真剣な眼差しに、ゲネロスはたじろぐ。


「ですが……。だったら! 私がその役を……!」

「それはだめ。ゲネロスさんがこの場から離れたら誰が亜子を守るの? 安心して。私、足の速さにはとても自信があるの!」


 亜子は自分の肩を抱きかかえてぶるぶる震えている。


 戦場と化した一帯には、魔術の音と隊員の声が響き渡る。


 ゲネロスは一瞬、目をつぶって逡巡し、すぐに目を開く。

「わかりました。ですが、危機を感じたらすぐに大声で叫んでください。私が一瞬で駆け付けます」


「ええ、信頼してるわ」


「各員、悪魔と距離をとって後退! 恵美利さんが敵を灯りの元に引き付けます! そこに一斉攻撃を!」


 ゲネロスの言葉に隊員にどよめきが広がる。しかし。


「返事!」

「……り、了解!」

 ゲネロスの剣幕に隊員たちは考えを捨てて承知する。


「それじゃあ、全国同年代トップクラスの健脚、見せてあげるわ! よーい、ドン!」


 クラウチングスタートの構えから走り出した恵美利は速度を増して周囲一帯を駆け回る。

(よし、ちゃんとついてきた! 1匹、2匹…………)


 恵美利の動きに反応した下級悪魔が恵美利を追いかける。


「速い……!」

 ゲネロスは恵美利の走るスピードに驚く。


「そして、速いだけじゃない、ちゃんと周囲にいる敵を残さず引き付けている!」


(3,4、5匹。これで全部!)

「そろそろ行くわ! タイミング合わせて!」


「おう!」「任せて!」

 恵美利の投げかけに隊員が応じる。


 恵美利は速度を落とさず灯りの方に突っ込む。


「今!」


作成・土壁クリエイトウォール!」

 恵美利のタイミングに合わせ、隊員の一人が恵美利と悪魔たちの間に土の壁を作る。


 勢い余った悪魔たちは壁にぶつかる。


「今だ、掃射!」


 隊員たちは各々の魔術を悪魔にぶつける。

 そして、恵美利が引き付けた悪魔はすべて消滅した。


 隊員たちは歓声に沸く。


「はあ、はあ…………やったわ!」


 一仕事終えた恵美利は不意に遠くを見上げる。


「…………!?」


 そこには、何かが光っているように見えた。


「あれは……矢じり!? 狙っている方向は…………! 亜子、危ない!」


 その直後、遠くにいる何者かから矢じりが射出される。


 そして、鮮血が宙を舞った。

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