7、異世界の朝食-Breakfast in Different World-

 明くる日の朝、宮殿には燦燦さんさんきらめく太陽の光が差し込んでいた。


 恵美利が顔を洗ってダイニングルームに入ると、朝食の席には亜子とゲネロスがいた。


「ゲネロスさん、亜子、おはよう」

「恵美利さん、おはようございます」


「あ、恵美利ちゃん、あのね、私…………」

 亜子は恵美利を見るなりそわそわし出す。


「亜子、昨日の話なら無かったことにしてって言ったでしょ」

「…………うん」


 ゲネロスは何のことかわからず、頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。


「なんでもないわよ、ゲネロスさん。いただきます!」


 恵美利は亜子の隣に座って、用意された朝食を食べ始める。


「昨日の夕食もそうだったけれど、こっちの食事も日本の食事に負けず劣らずおいしいわ。まったく見たことない食材ばかりなのに、舌になじむというか…………」


「それはおそらく800年前、英雄として扱われたいた当時の異世界人の口に合うように各地で少しずつ味付けや調理方法が変わっていったからでしょう。もっとも、当然ですが私が生まれた時にはすでにこのような味付けが主流でしたので、800年前の文献がなければ私自身、昔は別の味付けであったことを知らなかったでしょうが」


 ゲネロスは顔を緩ませながらスープを飲み干す。クールな彼女は仕事モードで、素のゲネロスはこっちなのかもしれない、と恵美利は思った。


「そういえばゲネロスさん、私昨日から気になっていることがあるのだけれど…………」


 ゲネロスは恵美利の言葉にびくっとする。


「それはもしや、私の名……」

「どうしてこっちの世界の人たちはみんな日本語を話しているのかしら?」

「……あ、ああ、そのことですか」


 ゲネロスはほっとした表情を浮かべる。亜子はゲネロスの様子に「?」と疑問符を浮かべる。


「せっかくお二人を召喚したのに意思の疎通ができなければその後に支障が生じるので、お二人が受け取る言葉は日本語に、発する言葉はウトピア語に変換されるよう、術式の中に組み込んでおいたのです」


「つまり、今私たちはゲネロスさんの言葉を日本語として知覚しているけれど、ゲネロスさんはウトピアの言葉で話していて、私たちが話すときにはそれと逆のことが起きているってことね。魔術っていろいろできるのねー、ごちそうさまでした」


 恵美利はいつの間にか朝食を食べ終えていた。

「恵美利ちゃん、食べるのはや……」


「ああ、早食いって本当は良くないのだけれど、ほら、私って昔は大食いだったし、その名残がまだ残ってるっていうか」


「戦場においては常に気が抜けないので、素早く栄養を補給することも重要になってきます。…………と、亜子さんには無用な話でしたね。では、支度が整い次第出発しますので、恵美利さんは準備をお願いします」


「ええ、心の準備も、ね。じゃあ亜子、ちゃんと私を盛大に見送ってよね。友達が背中を押してくれるなら、私は胸を張って踏み出せる」


 そう言ってゲネロスと恵美利はダイニングルームを後にする。


 一人残された亜子は、まだ残っているスープに映る自分の顔を見つめていた。

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