8、決意-Determination-

 亜子が宮殿の外に出ると、ゲネロスと彼女が率いる魔術部隊と見られる数人のローブを着た男女、荷車に繋がれたロバに似た生き物、そして、恵美利がいた。


「ああ、亜子さん。そろそろ私たちは出発しますが、恵美利さんとお話をする時間くらいは待ちましょう。どうか、心残りのないよう。…………次は、いつ会えるかわからないので」


 亜子は恵美利のいる方に歩いていく。恵美利は亜子に気がつくと、笑顔を向ける。


「亜子! 見送りに来てくれたのね。ありがとう。私、頑張るから。応援してくれると嬉しいわ」


「うん…………」


「もう、そんな暗い顔しないで! 言ったでしょ? 盛大に見送って、って。昨日のことならもう忘れて。私は、私が輝くために戦う、それだけよ」


「うん…………」


「恵美利さん、そろそろ!」

 二人とは少し離れた場所にいたゲネロスが恵美利を呼ぶ。


「亜子、それじゃあね。お互い、元気に過ごしましょう」


 恵美利は亜子に別れを告げ、背を向けてゲネロス隊に合流する。


 ゲネロス隊は、恵美利は、一歩一歩、宮殿から、亜子から離れていく。


 亜子の肩が震える。これから数秒の行動で自分の未来が大きく変わることを、亜子は理解していた。

 それでも。


「…………待って」

 言葉が、こぼれる。


「待ってくださーーーーい!!」


 亜子が、これまでの人生で一番の決断をした瞬間だった。


 亜子の出した大声に気づき、ゲネロス隊の面々は立ち止まり亜子の方を見る。

 ただ一人、恵美利は前を向いたままだった。


 亜子は、全力でゲネロス隊の方に駆け寄っていく。


「亜子さん?」


「私も! 私も連れていってくださーい!」

「!」


 ゲネロス隊の面々がざわつく。ゲネロスも、驚いた顔で固まる。


「はっ、はっ、…………あ、へぶっ!!」


 亜子が石に躓いて転ぶ。


「だ、大丈夫ですか!?」

 あわててゲネロスが駆け寄る。


「だ、大丈夫、です…………」


 亜子が起き上がろうと顔を上げると、そこには、手を差し伸べる恵美利の姿があった。


 亜子は恵美利の手を握り、起き上がる。


「…………恵美利ちゃ」


「馬鹿……亜子が来る必要なんかなかったのに…………」


 恵美利は涙を浮かべた目で亜子を見る。


「恵美利ちゃん…………」

「…………でも」


 恵美利は亜子を抱きしめる。


「ありがとう、亜子。とっても嬉しいわ!」

「恵美利ちゃん…………」


 亜子は照れくさそうに笑う。そんな二人をゲネロスが見据える。


「覚悟は、できているのですね? 亜子さん」

「覚悟、なんて大それたものができてるかはわからないです………でも、友達を一人で行かせたら、きっと後悔する。そう、思ったので………」


 亜子のまっすぐな目に、ゲネロスはふう、と息をつく。


「いいでしょう。亜子さん、帝国への協力、感謝します………では改めて私、魔術部隊分隊長ゲネロスならびにゲネロス隊が、お二人をテッラの北東、メルクリスの魔術学校までご案内及び護衛いたします」


「………はい、よろしくお願いします!」


 亜子はきりっとした顔で答え、ゲネロス隊に恵美利、そして亜子を加えた一同は、メルクリスの魔術学校を目指すのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る