9、覚悟-Preparedness-
恵美利たちは森を突き進んでいた。
「それで、魔術学校へはどれくらいかかるの?」
恵美利は足下の木の枝をひょいっと飛びこえながらゲネロスに尋ねる。
「だいたい1日半といったところでしょうか。ちなみに今夜は野宿をします」
「ええ!? 野宿!?」
亜子は「聞いてないんですけど!?」という顔でゲネロスを見る。
「メルクリスまでずっと森、というわけではないでしょう? 途中に町はあるはず。どうして野宿をするの?」
恵美利は不思議そうな顔で尋ねる。
ゲネロスははあ、とため息をついて真顔になる。
「………お二人とも、まだお客様気分が抜けていないようですね。宮殿に残らず我々と行動を共にしている時点で、私から見てお二人はもう魔術部隊候補生です。魔術部隊の前線となれば野営は日常茶飯事。慣れておくに越したことはありません。むしろこれは私からの厚意です。喜ぶところですよ、ここは」
朝食の時とのゲネロスの雰囲気の差に恵美利と亜子は緊張感を抱く。
「………そ、そうね。確かにベット以外で寝る、なんて経験はキャンプの時くらいしかないわ。将来を見据えて準備する………私が当たり前にやってきたこと、忘れてたみたい。やはりどこか浮かれていたみたいね」
「………それと、恵美利さん」
ゲネロスは淡々とした口調で恵美利を名指しする。
「………な、なにかしら?」
「部隊において上下関係は絶対です。それによって上官は部下の命に責任を持ち、部下は十全の力を発揮して任務を遂行できる。今はまだ構いませんが、魔術学校に編入した瞬間に私はあなたの上官となります。それより先は敬語を使うことをゆめゆめ忘れなきよう」
「は、はーい………」
恵美利はいつもの強気な口調を崩す。そして。
(私、勢いでついてきちゃったけど、この先やっていけるのかな………!? でも、恵美利ちゃんを一人にしたくないし………でもでも!)
亜子は内心とても動揺していた。
「さて、道中長いことですし、魔術についても少しレクチャーしておきましょうか」
「それを待っていたわ! ゲネロスさんが昨日やっていたアレ、私もやってみたいのだけれど!」
恵美利は急に元気を取り戻す。
「魔術はそう簡単に身に付くものではありません。それに昨日見せた
「でも、私たちは特別な才能を持っているのでしょう?」
「あくまでその可能性がある、というだけです。それに、簡単そうに扱っていたように見えたかもしれませんが、魔術は単なる魔力量だけでなくコントロールも必要。魔術の知識が不完全な状態で使えば最悪………」
「最悪?」
「手足が吹っ飛ぶか、脳が焼き切れます」
「!」
「ええ!? ………や、やっぱり戻っていいですか?」
「亜子!」
ゲネロスは頭が痛そうな顔をする。
「きちんと手順を踏めばそんなことにはなりません。そのために今からレクチャーするんです、わかりましたか?」
「「は、はい…………」」
「よろしい」
快晴の空の下、一行は少しずつ、しかし確実にテッラから離れ、メルクリスに近づいていた。
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