14、最強の魔術師-Top of Magicians-

 改めてミーティスの向かい側に恵美利と亜子が座る。


「……改めて、黒鉄亜子です。よろしくお願いします、ミーティスさん」

「ああ、よろしく」


 ミーティスは亜子の気持ちを推し量りつつも、平常心で接しようと心がける。


「さっきの続きからだな。我々ウトピア帝国の魔術部隊の組織は、ソール皇帝の下に3人の大隊長がいて、その下にそれぞれ数十の分隊が収まるという形をとっている」


「ふうん、その3人が実質的にこちらの最強の戦力、ということね」


「その通りだ。それぞれの大隊長は指揮下の分隊長全員が束になっても敵わない、と言われているくらい魔術部隊の中で卓越した存在だ。我々ゲネロス隊は、大隊長ユーコ様の指揮下に属している」


「へえ、それはぜひともお会いしてみたいわね!」


 恵美利は少年のようなわくわくした顔になる。


「ふっ、だとしたらいつになるだろうな。大隊長と直接話す機会があるのは分隊長くらいのものだ。俺も遠目で見たことしかない」


「そう。ならすぐに魔術学校とやらを卒業して、ミーティスさんもゲネロスさんも追い抜いて、私がこの隊の分隊長になってみせるわ!」


「ははは、本当に君は自信家だな! 隊長が聞いたら間違いなくムッとするだろうな!」


 どこかの部屋から、ゲネロスらしきクシャミの音が聞こえてきた、ような気がした。


「まあ、何はともあれ。味方と敵の戦力はだいたい掴めたわ。やるべきこともだいたい見えてきた気がする。…………それで最後に、なぜあの場に悪魔族が出現したのか、という話だけど…………」


「そうだな……それに関しては、俺たちもいまだに驚いている。この付近で悪魔族が出現したという例は、今までにない。何か、嫌な予感がするな…………」


 恵美利は、亜子の方を気にしながら口を開く。


「最後に出現した、いえ、本当は最初からあの場にいたのかもしれないけど、あの中級悪魔は、間違いなく亜子に狙いを定めていた。異世界から来た私たちに気がついて、力をつける前に始末しようとした、というのが私の見立てなのだけれど…………」


「え…………」


 亜子の顔が引きつる。


「…………どちらにせよ、イレギュラーなことが起きたことには変わりはない。侵入経路もわからない。我々魔術部隊としては早急に敵を見つけて仕留めたいところだが」


 ミーティスは恵美利と亜子をまっすぐ見つめる。


「とにかく、今夜はゲネロス隊が交代で見張りをする。いざとなれば付近の分隊にすぐに応援を要請する準備もある。君たちは安心して眠ってくれ…………今度こそ、君の手を借りずに我々だけで対処してみせよう!」


 ミーティスの言葉に反応して、数人の隊員から「おお!」と声が上がる。

 恵美利はにっこりと笑う。


「そう。なら私たちは休ませてもらうわね。亜子、行きましょう」

「うん…………」


 二人は広間を出て部屋に向かう。


 ミーティスは二人を見届けてから、自分だけに聞こえるような声で呟く。


「挫折しかけの少女と、挫折に負けない少女、か。二人の行く末が、幸運であると祈りたいが……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る