13、悪魔族とは-About Devil-

「宿にまだ空室があって良かった。全員宿泊できる。部屋の都合上、君たちは二人で一室を使うことになるが、我慢してくれ」


 出発から約30分、恵美利たちは村に到着し、村で唯一の宿で夜を明かすことになった。


「もちろん構わないけれど、その前に説明してくれるかしら。悪魔族について。」

「ああ、もちろんだ。………そっちの子も聞くかい?」


 恵美利が亜子の方を見ると、亜子は虚ろな目をして立ちすくんでいた。


「いいわ、今は私一人で。亜子は先に部屋で休んでいて、疲れているでしょう」

「……うん」


 恵美利は亜子の背中をぽん、とタッチして、ミーティスとともに宿の広間へ歩いていく。


「……あの子、大丈夫か?」

 ぱらぱらと隊員が集まる広間の片隅で、恵美利に向かい合って座ったミーティスは、元気を失っていた亜子のことを気にしているようだった。


「…………私は亜子を巻き込んだ責任がある。絶対に私がなんとかするわ。もしなんとかならなかったら、その時は私が…………」

「いや、すまない。君に聞くことではなかったな。この話は無しにしよう」


 ミーティスは頭をかく。


「では改めて、ゲネロス隊副隊長のミーティスだ。白金恵美利、君には隊のピンチを救われた。心より感謝する」


 ミーティスは恵美利に頭を下げる。


「まあ、私だからこのくらいは当然ね! ……ただ、私がもう少し早く気づいていれば、ゲネロスさんが怪我を負うこともなかったでしょうけど…………」


「いいや、むしろあの危機を隊長一人の負傷で乗り切れたというだけで十分だ。君がいなければ、死人が出ていた可能性も………我々隊員としては、情けない限りだ」


「まあ、結果はそこそこオーライだったってことで。それで、さっきの怪物は? ゲネロスさんは『下級悪魔』と言っていたけれど」


 ミーティスは「ああ」と言って紙とペンを取り出し、悪魔の説明を始める。


「悪魔族には大きく分けて3つの階層がある。それぞれ下級悪魔、中級悪魔、上級悪魔だ……どうした?」


 ミーティスは恵美利が何かそわそわしているのに気づき、声をかける。


「いえ、その……ゲネロスさんがやったように空中に文字を書くやつ、はしないのかと思って」


「俺はそんなに器用じゃないんだ。あれもあれで魔力を使うしな。これで勘弁してくれ」


 ミーティスはがりがりと頭をかく。


「そうなのね、ちょっと聞いてみただけよ。むしろ後で亜子に説明するんだもの。記録に残るものの方がいいわ」


「それならいいが……続けるぞ。まず、さっき戦ったのが下級悪魔。下級悪魔は数種類いて知能は低いが、それぞれ同一の種で群れを形成して動くのが特徴だ。個々の個体はそれほど強くなく、ある程度の実力を持つ魔術師なら1対1ならそれほど難なく対処できる。だが……」


「さっきは暗い森の中で、こちらの目が利かなかったのが苦戦した要因ね」

「ああ、本来夜戦ならば魔力を込めた魔術灯を使うんだが、今回は悪魔の出現を予定していなかったからな、道具も心も、皆準備が足りなかった」


 悔しそうな顔をするミーティス。


「本来出現するはずのない場所に悪魔が出現したことは一度置いといて、残りの悪魔族のことも聞いていいかしら?」


「ああ、中級悪魔は下級悪魔が進化して成る。単独で行動する傾向があり、それぞれ固有の能力を持っている。遠い位置から矢を放つ能力、すぐに姿を消したことを考えれば、隊長に怪我をさせた悪魔は中級悪魔だろう」


「そう…………どのくらい強いの?」


「個体にもよるが……中級悪魔それぞれが分隊長並みの強さを持つと言われている。正直追撃をされていたら、かなりまずい状況だったな」


「そんなものが前線から遠いこの場所に野放しに…………」


「今頃は森の周辺を複数の分隊が見張っているはずだ。何かあれば連絡が来るだろう」


 ミーティスは「そして……」と言って緊張した雰囲気で説明に戻る。


「上級悪魔。高い知能を持ち、人間の言葉を話すこともできる、人型に近い悪魔だ。確認されている個体は今のところ2体のみ。上級悪魔の強さは…………」

「強さは?」


「正直計り知れないが、分隊長レベルでは相手にならず、少なくとも大隊長でないと渡り合うことすら難しいとされている」

「大隊長? そういえば、こちら側の組織についてしっかりと聞いていなかったわね」


「そうだったか。ではそちらについても説明を……」


 ミーティスは話の途中で何かに気づく。


 恵美利はミーティスの視線の先を確認する。


「…………亜子!」

 そこには、亜子が立っていた。


 恵美利は入り口付近にいた亜子に近寄る。


「大丈夫なの?」


「なんか、一人でいると怖くなっちゃって。いっしょにお話聞いて、いい、かな…………?」

 亜子は弱弱しく恵美利に笑いかける。


「! ええ、もちろん!」

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