21 窓の外の風景
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・【窓の外の風景】
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『二〇一九年 三月二日(土曜日)』
佑助「はいどうも、よろしくお願いします」
波留「水飲み場の栓をクチバシでつついて水を飲む天才カラスが現れたらしいね」
佑助「すごいよな、俺もクチバシ欲しいなぁ」
波留「いやもっと便利な手があるからいいでしょ」
佑助「でもクチバシって硬くてカッコイイしさ」
波留「天才カラスの話をしようよ、何でクチバシに目がいってるんだよ」
佑助「でもクチバシがあれば、木の穴に住んでいるリスとか突けるじゃん」
波留「それの何がそんなにいいんだよ、いや天才カラスの話をしよう、前から聞く話だとクルミの殻を割るために、車道に置いて、車に踏ませるとかするらしいし」
佑助「でもそれはクチバシあるんだから、クチバシで突きまくればいいだけだよな」
波留「いやクチバシそこまで強くないんだよ、車に踏んでもらったほうが楽だし」
佑助「でもクチバシさえあればどんなリスでも突けるじゃん」
波留「何でそんなにリスを突きたいんだよ!」
佑助「可愛い女の子にイタズラするみたいなノリ」
波留「小学生の男子みたいなことを言うな! もう中学生だぞ! んで五日には中学卒業するんだぞ!」
佑助「いやリスだけだから。別に木の穴に住んでいる女子を突きたいとは言っていないから」
波留「木の穴に住んでる女子って何だよ! そんなんいねぇから!」
佑助「でもさ、天才カラスよりも俺のほうが頭良いけどね」
波留「そりゃそうだろ! これから高校の進学校に通うヤツのほうが頭良くないと困るわ!」
佑助「水飲み場で水なんて飲まないし」
波留「それと頭良いの何が関係してるんだよ」
佑助「いや水飲み場の口に毒が塗ってあるかもしれないじゃん、そういうことを予測できる頭の良さ」
波留「ただ疑い深いだけだろ! 水飲み場の水くらい普通に飲め!」
佑助「あと浄水器ついていないと俺、お腹壊しちゃうんだよね」
波留「ただ体が弱いだけ! 頭の良さ関係無い!」
佑助「でも一番良いのは、ウォーターサーバー」
波留「何の話! 頭の良さはどこに言ったんだよ!」
佑助「おしるこのウォーターサーバー」
波留「おしるこのウォーターサーバーなんてないし、あったとしたら相当頭が悪そうだな!」
佑助「食パンに直で掛けて食べる」
波留「いや多分食パン染みて、床にドバドバ落ちるだろ! 液がっ!」
佑助「床に落ちたおしるこは持ってる食パンで拭く」
波留「雑巾で拭け! というか染みて落ちてるんだから拭けないだろ!」
佑助「まだ染みてない耳で拭く」
波留「耳は拭ける素材じゃないだろ!」
佑助「じゃあもう足でサッサッサ」
波留「汚い! 食パンで拭くの時点で汚い! 頭が悪すぎる!」
佑助「じゃあコーンポタージュのウォーターサーバー」
波留「一緒! 全く感覚一緒なんだけど!」
佑助「食パンに直で掛けて食べる」
波留「やっぱり一緒! 染みて落ちる!」
佑助「大丈夫、その下にバケツを置いとくから、はい頭良い」
波留「バケツて! 雨漏りか! せめてカップにしろ!」
佑助「すぐ満杯になるじゃん」
波留「そもそもそんな全力で食パンに掛けるな! ほんのちょっとにしろ!」
佑助「それ採用。拍手」
波留「何だその喋り! 変な大物感を出すな! 頭が悪いんだよ!」
佑助「さて、カラスとやらはウォーターサーバーを扱えるかな?」
波留「ねじる感じのヤツなら水飲み場の要領と全く一緒!」
佑助「なるほど、まずは引き分けということでよろしいですな?」
波留「だからなんだその妙な大物感! カラスと引き分けになってんじゃねぇ! 勝てよ! 第一試合から勝てよ!」
佑助「カラスよ、木の穴をのぞいたことはあるか」
波留「木の穴出てきた! いいよ木の穴は! 木の穴の話は止めろ!」
佑助「中にいるリスをうまく突けるのは、どっちだろうなぁ?」
波留「じゃあカラスだろ! クチバシがあるからカラスだよ! というか試合内容を自分で設定できるのに何でそんなカラスに有利な戦いを始めちゃうんだよ!」
佑助「ちなみに俺は人間だから箒を使います」
波留「箒! 小学生男子じゃん! 小学生男子の武器じゃん!」
佑助「木の穴はここから地上三メートルのところか、ちょっと高いなぁ」
波留「いやもうカラス有利! せめて地上戦でいけよ!」
佑助「おや、カラスはもうリスを突きましたね、これでカラスの負けは無くなった、と」
波留「もう良くて引き分けになってる! もっと勝てる勝負で戦え! あと出できれば頭を使う勝負で!」
佑助「私はハシゴは怖くて登れない。敗北だ。カラスに拍手」
波留「負けた! 大物感たっぷりに普通に敗北した!」
佑助「しかしだ! リスを突くなんて野蛮な行動は頭が良くない! だから結果俺の勝ち!」
波留「急に大人げない! いやまあそうなんだけども! まさしくそうなんだけども!」
佑助「人間の狡賢さが出てしまいましたね」
波留「全編ずっとアホくさいわ!」
佑助「最後はクルミ割ったほうが勝ちのヤツをしましょうか」
波留「文章が馬鹿だよ!」
佑助「ふむふむ、カラスは車に踏ませるとは、でも車のタイヤのゴム味がクルミについて嫌でしょう?」
波留「ゴム味の前に、土感が嫌だけども」
佑助「こっちには人類の英知を詰め込んだクルミ割り人形があります!」
波留「英知ってほどじゃない上に、佑助の手柄ではない」
佑助「はい! 俺の勝ち! 道具を扱える人間最強!」
波留「いやいやいや、全然頭良くない、終始頭の悪さがあった」
佑助「そんなことないだろ、天才カラスも所詮井の中の蛙でしたね」
波留「カラスを蛙で例えるな、空の生物を井戸の中で例えるな」
佑助「でもまあ俺は頭良かっただろ?」
波留「いや全然、おしるこのウォーターサーバーの時点でだいぶ馬鹿だった」
佑助「でも実際おしるこのウォーターサーバーは欲しいだろ?」
波留「全然欲しくない、普通に水が飲みたいです」
佑助「サッカー選手が筒の中に入れているのっておしるこだろ?」
波留「水だから、おしるこ浴びてないだろ」
佑助「でも試合中にお餅噛んでるじゃん」
波留「ガムだよ、お餅飲みこむタイミングなくなったなぁ、ってお餅噛んでるわけじゃないよ」
波留「いやでも実際ハーフタイムでは、こたつに正座でおしるこだろ?」
佑助「ロッカールームで監督の話を聞いてるわ」
波留「こたつに正座でおしるこじゃないの? テーブルにミカンにチャンネルだろ!」
佑助「冬場の居間じゃないから、サッカー選手のことどう思ってんの?」
波留「いや大好き」
佑助「大好きなのに知識無さ過ぎるでしょ!」
波留「でも好きさは認めてほしい」
佑助「全然認めらんないよ、頭の良さが足りなさすぎるから」
波留「いやでもまあウォーターサーバーのくだり以外は頭良すぎただろ」
佑助「全くもって。あの木の穴のリスという単語、やめろよ」
波留「あっ、何かエロい言葉の比喩だと思った?」
佑助「思ってねぇよ! ただただ馬鹿っぽいって話だよ!」
波留「でも木の穴のリスって頭良い感じしない?」
佑助「全然しない」
波留「動物愛護感があって、良いと思うけどな」
佑助「動物愛護と思うなら突こうとするな」
波留「結局突かなかったじゃん! だから頭良い!」
佑助「木の穴のリスを突くという単語がもう馬鹿なんだよ」
波留「そんな馬鹿、馬鹿、言うなよ。骨折するほど泣くぞ」
佑助「どうやって? 泣いて骨折ってどうやんのよ!」
波留「むせび泣くごとに肋骨と指がボキボキに」
佑助「百歩譲って肋骨は分かるけども、何で指も」
波留「人体の神秘さ」
佑助「そんな神秘あってたまるか! んで最後のクルミ割りもどうなのよ」
波留「これこそ自信作、クルミ割り人形を使うわけだから」
佑助「佑助の手柄じゃないじゃん、クルミ割り人形を作った人が頭良いんじゃん」
波留「でもゴム味は底辺だろ!」
佑助「ゴム味って何だよ! その単語も馬鹿っぽいんだよ!」
波留「ゴム味は分かるんだろ! 一回くらい輪ゴム噛んだことあるだろ! それともあれかっ? サッカー選手はずっとガムかっ?」
佑助「いやまあ馬鹿な子供の頃に輪ゴム噛んだことあるけども」
波留「でもその輪ゴムもジャムで煮込んだガムっぽい輪ゴムなんだろ?」
佑助「どういう煽り方だ! 輪ゴムをジャムで煮込んだこと無いわ!」
波留「あぁはいはい、俺は馬鹿って言いたいんだな、分かった分かった、もう怒った、もうダメだ」
佑助「そんな、すねないでよ」
波留「進学校じゃなくて馬鹿だからスポーツの強豪校に行くわ」
佑助「めちゃくちゃ馬鹿にしてんなぁっ! 馬鹿はいいけど、馬鹿にするは最低だからなぁっ!」
波留「えっ、馬鹿はいいのっ? やったー、木の穴のリス! 木の穴のリス!」
佑助「いやもうどっちも良くないか。もういいよっ」
俺は録音をストップさせた。
今回は俺から喋りだした。
「ところで、俺と漫才なんてしてて良かったの? 荷造り手伝ったほうがいいかな」
「何で佑助がそんなこと気にしてんのよ、しなくていいよ。土日の休日にお父さんがやってるだけじゃん。それに佑助に私のモノなんて触らせらんないよ」
「まあ普通に考えればそうか」
俺は普通に相槌したし、それ以上のことは何も考えていなかったが、波留は少し違ったみたいだ。
急にハッとしたような表情を浮かべ、手をバタバタさせて焦りながらこう言った。
「いっ! いや! 別にぃっ! 佑助が嫌いとかじゃないからねっ!」
「分かっているよ、嫌いなヤツと漫才しないだろ」
この流れの会話が終わると、何だか恥ずかしそうに波留は窓の外を見た。
波留にとっては、この窓の外の風景も消えてなくなる光景だ。
勿論、目の前の俺も消えてなくなる。
いや、俺はそんな簡単に消えてなくなる気は無い。
告白して、成功して、暇さえあれば会いに行くんだ。
なんとなくそう思うようになってきた。
これで終わりなんて認めない。
頭が悪いような考え方だが、そう思うようになってきた。
波留が迷惑に思うかもしれない、その考えは今だってあるけども、それ以上にやっぱり言いたいんだ。
言わせたいんだ、まだ終わりじゃないと。
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