14 普通

・【普通】


『二〇一九年 二月二十三日(土曜日)』

佑助「はいどうも、よろしくお願いします」

波留「もう手の甲に極小チップを埋め込む時代らしいね」

佑助「俺だって手の指に極小の粉を付けてるし、ハッピーターンの粉付けてるし」

波留「全然違う上に、ハッピーターンは指を汚さず食べること出来るし」

佑助「いやでも実際、俺だって手の指に醤油付けてから、寿司を食べる、指漬けパターンだし」

波留「俺だってのパターンはもういらない、意味分かんないし」

佑助「今の指漬けは醤油漬けの漬けという漢字だからなっ!」

波留「だからどうしたんだよ、埋め込むという話をしてるんだよ」

佑助「俺だって指に毛を埋め込んでいるし」

波留「あれは生えてきてるんだろ、内部から外に出てきてるんだろ」

佑助「もうハッピーターン食べ過ぎて、絶対内部に入ってるし」

波留「だからハッピーターンで手を汚すな」

佑助「あと化粧水とかも内部に入ってるし」

波留「そういう浸透することを埋め込むって言わないし」

佑助「何だよ手の甲にハッピーターンの粉って、マニアックな食べ方してんな!」

波留「極小チップだよ! ハッピーターンなんて佑助しか言ってないから!」

佑助「極小チップって何だよ、どんなポテトチップなんだよ」

波留「さっきからおやつ関係無いんだって、最先端のテクノロジーの話」

佑助「おやつ関係無い話なんて、この世にありますぅ?」

波留「あるだろ! 相対的におやつ以外の話のほうがこの世は多いだろ!」

佑助「いやいや、中三のリアルはおやつしかねぇよ」

波留「そんなことないわ! 私も中三だけどおやつほとんど食べないし!」

佑助「それは鍛えているからだろ? 鍛えていない中三のリアルは国数英社理おやつだから」

波留「もうその時点で七分の一だろ、おやつ以外のパートのほうが多いだろ」

佑助「でも社会と理科の社理を寿司のシャリにしてしまえば、六分の一になる」

波留「それでも六分の一という話だし、何で寿司のシャリにしちゃうんだよ。中三のリアルの六分の一シャリって何か金持ちっぽいな!」

佑助「いやでも実際中三って寿司とおやつだから」

波留「そんな贅沢じゃないわ、徐々に食べ物勢力を増していくな」

佑助「英語の英だって、エイヒレのお酒だから」

波留「エイヒレのお酒ってだいぶオジサン臭くなってきたな! 中三のリアルがどんどんオジサンに浸食されていってるぞ!」

佑助「三分の一は既に食べ物だから」

波留「いや二分の一でしょ! 中三の数学どうなってんだ!」

佑助「だふー」

波留「何その気持ち悪い溜息!」

佑助「だ、だ、だふー」

波留「ちょっと溜めて溜息をつくな! 溜息って溜めて打つ息って意味じゃないからな!」

佑助「中三はもう数学もダメだし、語彙も無くなり、国語もダメだから、もはやエイ・シャリ・おやつで食べ物だけだな、うん」

波留「そうやって説明してる時の国語は完璧だな! まあ理屈は全然ダメだけどっ!」

佑助「理屈ダメなんで、ここは一つ、お許し下さい」

波留「いやここは許さない! 特に極小チップの話から離れすぎてるところが許せない!」

佑助「極小チップを埋め込むって話、そもそもどうよ、って話だよ」

波留「どういうことだよ」

佑助「怖くない? それよりもおやつの話しない?」

波留「佑助が時事漫才したいって言い出したんでしょ! というかこのお題を持って来たのも実際は佑助じゃん!」

佑助「そういう内部の話は毛だけにしてくれよ」

波留「全然うまくないからな! 毛ってそんな内部じゃないからな!」

佑助「極小チップを埋め込むて、極小ポテトチップを筆箱に入れて、たまに食べる話にしようよ」

波留「それはそれで何か汚くて嫌だろ! 筆箱に食べ物を入れる話は! 最先端テクノロジーの話がいいよっ」

佑助「いやでも極小チップはなぁ、極小ビキニのグラビアアイドルの話ならいいけども」

波留「いやこっちは中三の女子だぞ! そういう話は止めろ!」

佑助「極小ビキニのグラビアアイドルのVRの話ならするけどもね、その最先端ならしてもいい」

波留「もうそんなに最先端じゃないだろ、それは。結構VRはもうあるだろう」

佑助「そうかぁ、確かに最先端度が低かったかもしれない、でもそこは中三の男子ということでお許し下さい」

波留「中三の女子だから絶対許さない!」

佑助「分かったよ、極小チップの埋め込み話をしようじゃないか」

波留「そう、その話、もう手の甲に極小チップを埋め込んでる人もいるんだって」

佑助「蜂に刺されないように、シールド的な意味合いで?」

波留「ガードで埋め込むなら極小じゃないほうがいいだろ! そういうことじゃない! 手の甲をかざすと、鍵の開け閉めができたり、将来的には電子決済できるようになるのっ!」

佑助「いや鍵は捻じらないと」

波留「シンプルに古い考え方の人がやって来た」

佑助「あのガチャッて感覚がいいんじゃない」

波留「本当に古い考え方の人がやって来た」

佑助「このガチャッて感覚に指が耐えたという喜びね」

波留「急に頭おかしい人がやって来た、いや指は耐えられるでしょ、それで粉砕骨折しないでしょ」

佑助「あとは電子決済って、札束が無くなっちゃうじゃん」

波留「別に無くなってもいいし、紙が無くなれば森林伐採も少なくなるし」

佑助「札束ビンタという文明が無くなるじゃん!」

波留「そして頭のおかしい人がやって来た、別に無くなっていいでしょ、文明って言うほどのことでもないし」

佑助「最悪祭りにして残したいね」

波留「何その年一回は、の、精神。別に無くなってもいいでしょ、マジで」

佑助「いやでも札束ビンタされたいじゃん、女王様に」

波留「キモッ! その趣向はキモいよ、佑助。まず女王様という単語を男子の口から聞きたくなかったよ」

佑助「じゃあ本心は押し殺すよ!」

波留「怖っ、急に目を見開いてそんなこと言うなよ」

佑助「ただし極小チップを豆まきの要領で俺にぶつけろ!」

波留「嫌な変態が出現したっ、いやまあその場合は多分豆をぶつけることになるでしょう、極小チップがもったいない」

佑助「豆のほうがいい!」

波留「じゃあもうこの問題は解決ということで。というか佑助ってそういう趣向あったんだね」

佑助「いや無いけどね、毛の話をするとそれは嘘だから」

波留「毛……? いや内部って言えよ! だから毛は言うほど内部じゃないんだって!」

佑助「内部の話をすると俺はドMじゃない、やんわりとしたMだから、だからMというかYだね、やんわりのY」

波留「いやMだろ! そのYもMありきのYだから結果Mだろ!」

佑助「いやちょっと、今の英語の連続はよく分からない……こっちはエイヒレだからさ……」

波留「佑助が言い出したんでしょ! YとかMはっ! 英語が分からない世代のオジサンぶるな!」

佑助「いやまあその世代代表として言わせてもらうけどさ」

波留「その世代じゃないけどな! 佑助は!」

佑助「極小チップを手の甲に埋め込むって、どうやって埋め込むのっ? ネイリストにやってもらうのっ?」

波留「ネイリストは指のお医者さんじゃないから。専用の注射器で埋め込むんだって。自分でするらしいよ」

佑助「注射器だなんて、Mにしか使わないだろ!」

波留「普通に病人に使うよ! マニアックな使い方は知らないから!」

佑助「いや怖いわぁ、女王様が針無しであぁ使うのならば、まあ有り難い話ですけども、普通に針ありはヒクわ」

波留「こっちのほうがヒクわ! あぁ使うって何だよ! いや言わなくていいけども!」

佑助「でも……うん、ちょっと埋め込んでみようかなぁ、なぁっ!」

波留「いや何かちょっと興奮してる! Mとしての埋め込みじゃないから! 最先端テクノロジーとしてみんな埋め込んでるわけだから!」

佑助「埋め込むって興奮するなぁ」

波留「もう完全にやって来ちゃってる、何かがやって来ちゃってるよ……」

佑助「俺、鍵のガチャッていう痛みの感覚に興奮してたけど、やっぱ埋め込むことにするよ」

波留「鍵のガチャッに痛みは感じないだろ! というかどんな理由で埋め込むんだ! 止めろ!」

佑助「論破してほしい、ならば」

波留「甘えん坊だな! 何か分かんないけども多分甘えん坊だな! 論破してほしいって言うヤツは!」

佑助「待ってるよ、止めてくれる言葉を」

波留「えぇー、よく考えたらあんまり止める理由も無いんだけど、そうだね、一回の埋め込みよりも毎回のガチャッの痛い感覚を味わうほうがいいんじゃないの、まあガチャッに痛みは感じないけど、私は」

佑助「それだぁっ!」

波留「怖っ、また目を見開いた」

佑助「波留は分かってるね! もしや……女王様ですか?」

波留「そう思わないでほしい! もういいよっ」


 俺は録音をストップさせた。

 ちょっとまったりとした時間ができた。いつもならすぐさま喋り出す波留だが、今日は何かモジモジとしているようだ。

「波留、何か変だけど、どうしたの?」

「いや……佑助って、本当に……M、な、の……?」

 まさかそんなことを気にしていたとは、俺は正直波留にイジワルしたい派だからどちらかと言えばSだが、SはSでハッキリ言ってしまうと気持ち悪いような気がするので、ここはこう言った。

「普通だよ、Mとかそういうのは嘘に決まってんじゃん」

「そうだよね! 佑助は普通だもんねっ!」

 嬉しそうに首を縦に振り、前髪を揺らす波留、俺が普通の何がそんなに嬉しいのだろうか。

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