13 興味

・【興味】


『二〇一九年 二月二十二日(金曜日)』

 今日は二人で資料を見ながら漫才を作るスタイルにした。

 何故なら、その題材のニュースの文を全ては覚えられなかったから。


佑助「はいどうも、よろしくお願いします」

波留「はやぶさ2がリュウグウに着陸したみたいだね!」

佑助「着陸て、そんな跳び箱跳んだら尻から落ちたみたいに言わなくていいよ」

波留「そんな言い方全然していなかったわ」

佑助「こんなに強く尻から落ちた日は甘くて甘いミルクセーキを飲みたい、みたいに」

波留「慰めのミルクセーキなんて知らないよ、その文化は知らないよ」

佑助「励ましのミルクセーキね」

波留「どっちも一緒でしょ、というかどちらかと言えば慰めで合っているはず」

佑助「自分で自分を慰めたいです、という流行語あったけども」

波留「いやまず無い、自分で自分を褒めたい、ね。いやまあそんな慰めで固執する必要も無いから次の本題に進むけども、リュウグウの着陸はやっぱりすごいね」

佑助「まず朝の七時に着陸したみたいだけど、朝の六時から物語は始まるんだよね」

波留「物語自体はもっと前から始まっているよ、まあこの着陸の話はね」

佑助「まず六時に宇宙航空研究開発機構、通称ヘクサがね」

波留「ジャクサね、そんなガスの匂いが嫌だなぁという機構じゃないよ」

佑助「あぁ、オナラクサ」

波留「ジャクサね! ガスの匂いが嫌だなぁじゃない!」

佑助「ジャクサ……弱酸性か」

波留「ジャクサだけで言葉は終わります!」

佑助「弱酸性のガスか」

波留「ガスは関係無いって!」

佑助「いや宇宙にはガスが充満していて」

波留「それはそうだけども、佑助の今言っているガスは完全にオナラ由来のガスでしょ!」

佑助「何だ、バレているのか」

波留「何だよその台詞! バレてるわ! バレバレだわ!」

佑助「このオナラへの愛が……とくぅん」

波留「何が”とくぅん”だ! 純情な恋愛の胸の高鳴りをするな! ジャクサ! ジャクサで何ターン使うんだよ!」

佑助「そうそう、無臭こくー研究開発機構ね」

波留「宇宙航空! 無臭のオナラをこく研究と開発って何だよ! そういう人もいるだろ普通に!」

佑助「宇宙船でクサいオナラされたら、たまったもんじゃないでしょうに」

波留「ヘクサじゃないんだよ! ジャクサだからその研究はまた別の機構でやるわ!」

佑助「いやジャクサでやったほうがいい、良い研究者揃っているんだから」

波留「というか全然話が進まないな! オナラでどんだけいこうとしているんだよ!」

佑助「宇宙まで行けたらなって」

波留「行き過ぎだから! 宇宙航空研究開発機構、通称ジャクサ! 朝六時にジャクサがっ!」

佑助「いけない! 二度寝しないようにしなきゃ! 朝六時何て早すぎるから、ちゃんと起きれるかな!」

波留「いやもう起きているんだよ! 起きてこれから、はやぶさ2の最終判断なんだよ!」

佑助「ママ、朝食はスクランブルエッグで……むにゃむにゃ……」

波留「寝るな! 甘えつつ寝るな! 起きてんのっ! ジャクサはもう起きてんのっ!」

佑助「ジャクサのママはな、朝から大変だからな」

波留「ジャクサのママなんていねぇよ!」

佑助「寮母ぐらいいるだろう」

波留「いやまあ寮母はいるかもしれないけども、そういう感じではない! というか起きてんのっ! 朝六時十四分に、このまま着陸を実施することを決めたのっ!」

佑助「着衣を実施することを決めた、と」

波留「裸で寝てて、着衣してご飯の席につくじゃないんだよ!」

佑助「どこに着衣するんだっけ、パンツだけで十分だよね?」

波留「だから着陸! 何だよパンツだけ着衣って! 上半身はパジャマで下半身だけ裸で寝ていたのかよ!」

佑助「そういう日も男女の関係ならあるでしょう」

波留「男女の関係とか言うな! そういう何かそっち方面のボケは止めてって言ったじゃん!」

佑助「いやまあ男女の関係の場合は全裸と全裸か」

波留「だから止めろ! 今のところほぼオナラと全裸だけじゃん!」

佑助「オナラこく時は必ず全裸になるヤツって、かなり気合入っているよな」

波留「ただのバカだよ! いやもうそんな話はどうでもいい! はやぶさ2がリュウグウに着陸の話!」

佑助「地球とリュウグウってどのくらい距離離れているんだっけ? 竜宮城だから3kmくらい?」

波留「竜宮城をリュウグウと呼んでいるわけじゃないし、竜宮城ってそんな近くにあんのかっ!」

佑助「ある、駅前の呑み屋街に竜宮城というネオンのお店があるって、誰かが言ってた」

波留「じゃあ浦島太郎の竜宮城でもない! 怪しいお店の話もするな! 中三の男子と女子だぞ!」

佑助「でも中三の男子はこういう話に前のめりになるからさ」

波留「中三の女子がいる時はそういう話をしちゃいけないんだよ! で! リュウグウの話! リュウグウと地球の距離は約三億四千万キロあんの!」

佑助「じゃあタイムラグはほぼほぼゼロだね」

波留「あるわ! タイムラグ! 指令を送るには片道約二十分掛かるんだよ!」

佑助「チャリで隣町の本屋さんへ行くくらいの時間じゃん」

波留「いやまあそれくらいだけども! どう思われたいのか分からない例えは止めろ!」

佑助「つまり近いな」

波留「でも着陸させるための指令としては、このタイムラグは命取りなんだよ」

佑助「でも全然隣町の本屋さんに行けるけどね、このくらいの時間なら」

波留「だから隣町の本屋さんで例えるな! よく分かんなくなるだろ!」

佑助「地元の本屋さんでは買えない本を隣町の本屋さんで買うんだ」

波留「いやよく分かんないけども、それならネットショッピングか電子書籍で買えよ!」

佑助「停電の日でも読みたい、エロいヤツは」

波留「ハッキリ言った! 言うな言うな言ってるのにハッキリ言った! エロとか禁止! こっちは中三の女子だぞ!」

佑助「でも波留も毎朝買いに行ってるじゃん」

波留「ジョギングだわ! 朝早く本屋開いてねぇだろ!」

佑助「だから気合の入った本屋にそういう本を買いに行ってんだなぁって」

波留「手ぶらで自宅に戻ってくるだろ! 私!」

佑助「いやそこまではちゃんと見ていない」

波留「見ろ! 私のことをっ!」

佑助「いや見ないよ、好きでもないし」

波留「ハッキリ好きでもないしって言うな! 興味くらいは持て!」

佑助「興味くらいはあるよ、元気な幼馴染だなぁって」

波留「あんまり無いだろ! それは! もっと興味持てよ!」

佑助「分かったよ、今日は本買ってきたなぁ、とか見るよ」

波留「本は買ったことないけどなっ! いつも手ぶらだけどな!」

佑助「いやリュウグウの岩を持って来いよ!」

波留「私ははやぶさ2じゃないから! というか、はやぶさ2の話!」

佑助「はやぶさ2って結局リュウグウの岩のかけらを持ってきて、どうするの?」

波留「研究するんだよ! それで宇宙の真理が分かるかもしれないんだよ! 新素材とかあるかもしれないし!」

佑助「河川敷に捨てられているカピカピのエロ本持って帰ってきたら笑っちゃうよね」

波留「笑わないわ! 何か嫌な気持ちになるだけだわ! というかハッキリエロ本って言うな! 何回言わせるんだよ!」

佑助「いやぁ、そんな、何回も言っていますか?」

波留「興味を持てよ! 私の発言に興味を持てよ! というか敬語になるな! 距離が遠くなるな!」

佑助「約三億四千万キロです、俺と貴方の距離は」

波留「遠っ! 急にどうしたっ! 幼馴染! 近所の幼馴染!」

佑助「貴方は一体いつも、どこへ走っていっているのですか?」

波留「貴方って言うな! 波留って言ってただろ! あとジョギング! 体が鈍らないように走ってるんだよ!」

佑助「性欲が有り余っている人は運動をするとよく聞きます。それを昇華と呼ぶと保健体育の授業で習いました」

波留「サッカーが好きなだけ! というかホント変な言葉を当たり前のように言うな! 中三女子だって言ってんだろ!」

佑助「でも女子会って大体こういう話ばっかりだろ?」

波留「やった! 近さが戻った! いやでもその台詞はなかなかアレだな! 女子会なんて知らないわ! まだそんなやったことないわ! 私の周りはサッカーばっかりなんだよ!」

佑助「サッカー、それを昇華と呼ぶ」

波留「うるせぇ! 保健体育の授業! オマエのせいで幼馴染から変な目で見られるじゃねぇか!」

佑助「ちょっと、昇華とか、怖くて、サッカーに、興味は、持てないです、すみません……」

波留「私に興味持て! 昇華でスポーツしているわけじゃないから! サッカーがホントに好きなの! ……って、はやぶさ2の話はどうしたっ!」

佑助「まだ波留からはやぶさ2の指令は届いていないから、今は自分で考えて喋っています」

波留「いや指令届くのに二十分掛からないだろ! 隣にいるんだから! もういいよっ」


 俺は録音をストップさせた。

 間髪入れず、波留が焦りながら。

「いや! エロとか性欲とかそういうの止めてって! もう! 言ってる今だって恥ずかしいよっ!」

 つい波留を困らせてしまおうと、反応を見ようとしてしまう、その癖はもう抜けないかもしれない、俺も大人になったなぁ、と、子供じみた感性をしみじみ思った。

 顔を高熱で燃える石炭のように赤くしている波留はやっぱり可愛い。

 でもあんまりやりすぎると嫌われてしまうかもしれないから、注意はしなければ。

 波留は一息ついてから、

「というか別に、漫才の中だから言っていたけども、私に興味を持たなくていいからっ」

 そう言って、ほっぺを膨らまし、そっぽを向いた。

 そのリアクションがあまりにも何か弄りたくなるような可愛さで、つい、また俺のイジワル心に火が付きそうになった、が、イジワルをしすぎると流石にちょっと申し訳無いので、ここは普通に聞いてみた。

「何で興味を持たなくていいの?」

「きょっ! 興味ってっ!」

 波留は自分の言った”興味”という言葉を、どうやらめちゃくちゃ恥ずかしがっているようで、その言葉を打ち消したいらしく、強く手を叩き、物理的に何かを打ち消すように強く強く手を叩いてから、喋り出した。

「いやだって! 別に! きょ、興味、み、なんて、持たれても、困るし……さっ!」

「俺は波留の今後に興味あるよ、だって女子サッカーの名門校に進学するんだからな、アンダーの代表にも呼ばれているし、本当なでしこジャパンとしてワールドカップ優勝するんじゃないの?」

 本心だ、おだてているわけではない。

 ワールドカップ優勝はチームスポーツなので分からないが、少なくてもなでしこジャパンにはなるだろうと本気で思っている。

 だからそれなりに真面目に喋ったし、本心なのでスラスラと言葉が出てきた。

 そんな俺を見ていた波留、俺が言葉を吐き出す度に、どんどん表情が曇っていった。

 何故だろうと思いつつも、思いついた部分まで全部喋り切った。

 さて、波留の返答は。

「そっか、まあ、うん……いや! そんなトントン拍子でいかないよ!」

 曇った空を打ち消すように大きな声でその雲を払った波留。

 本心ながら割と褒めている文章だったような気もするが、波留にとってはあまり言われたくない文章だったようだ。何でだろう。

 でもそれを聞けなかった。聞いたほうが楽のような気が、今、家に帰ってきてから思ったけども、その時は聞けなかった。

 何だか聞いたら関係が崩れてしまいそうな何かが出てきそうで。

 名門校に進学することが嬉しくないのか、いや俺からそういうことを言われることが嫌だったのか。

 運動が全くできない俺からそういうことを言われるのは何か違うのか。差別されているのか。分からない。差別されているのだとしたら結構ムカつくなぁ。

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